神話、物語

太陽神アポロンについて調べてみた【ギリシア神話】

太陽神アポロンについて調べてみた【ギリシア神話】

「アポロ・ダフネ像・マッシミリアーノ作」

ギリシア神話の神々というと「強大な力」を持つ特別な存在の様に思うが、人間と同じ様に恋愛にも意欲的で、神同志の恋愛もあれば人間や精霊が相手の事もあったりもする。
「恋の駆け引き」の中で、神といえど嫉妬・欺瞞・残虐さを見せつけたりと、人間と同じ様な感情をみせるのである。「天は二物を与えず」これは、人間だけでない。人間味溢れるギリシア神話の中のハーブを優雅に奏でる姿が印象的な美男子のイメージを持つ神アポロン

実は彼には意外なくらい、裏の顏があった。そんなエピソードを調べてみた。

実は双子誕生?!太陽神アポロン・月の女神アルテミス

大神ゼウスは妻:ヘラがありながらも好色は治らず、結婚・既婚女性の守護神であるヘラにとって浮気は許し難いが、夫であり大神のゼウスに怒りをぶつける事もできず、ヘラの収まる事のない怒りはゼウスの子供達にぶつけられるのである。

アポロンの母はティタン神族でゼウスの従姉妹のレト。正妻ヘラはお腹の子を産ませない様に画策するのである。

1、世界中の土地に「レトの出産場所になる事を禁止する」と命じる。
2、ヘラの娘でお産の女神エイレイテュイアを自分の館から出さない様にした。

臨月を向かえたレトは、妹:アステリアの事を思い出すのである。妹:アステリアは、以前ゼウスに求婚され、しつこいゼウスから逃れようとウズラに姿を変え、飛んで逃げようとした所をゼウスに見つかり、オルテュギア(ウズラ岩)に変えられてしまったのである。
しかもこのオルテュギアは浮島であり、ゼウスの正妻:ヘラはアリステアには同情的だったのである。そしてレトはこのオルテュギア=妹に約束をするのである。

どうか貴方の上でお産をさせて欲しい。そうすれば「浮島」をギリシア中心に移動させアポロンが誕生した聖地となる。あなたの上には立派な神殿が建てられ、誰もが羨まずに居られない程、富裕な島になるでしょう

妹:オルテュギアは、姉:レトの願いを喜んで引き受けたのだった。ところが九日九夜の間、陣痛が続いても子供を産む事ができないのである(ヘラがお産の女神エイレイテュイアを監禁した為)
しかし、レトの事を心配する女神が次から次へと集まってイリスという女神が、オリュンポスに忍び込み女神エイレイテュイアを、ヘラに解らぬ様に連れ出したのだった。
レトはまずアルテミスを産み、アルテミスはその後すぐアポロンが産まれてくるのを助けたのだった。その為アルテミスはお産の守護女神として崇められる事となる。

『レトと子供たち、アポロンとアルテミス』。ニューヨーク、メトロポリタン美術館所蔵。wikiより

アポロンは、身体だけではなく着衣・持ち物全てから黄金の光を放つ「光明の神」である。
彼が誕生すると、みずぼらしいい岩塊だったオルテュギアはたちまち黄金に包まれたのだった。そしてアポロンは母が約束をした通り、オルテュギアを古代ギリシア人達が住むエーゲ海の中央に固定し「光明の神:アポロン誕生の聖地」にふさわしい「デロス(明るい)島」という名をつけたのだった。

もう一人の神:アルテミスは狩猟の神であり、太陽神アポロンに対し「月の女神」ともされている。
アポロンの大切な役目は、ゼウスの意思を人間に伝える事であった。そのためゼウスは、アロポンが誕生すると、すぐに白鳥たちの引く車を与えたのだった。そしてそれに乗りデルポイへ行き、信託所の主になる様に命じるのである。

しかしアポロンは父:ゼウスの「デルポイへ行き、信託所の主になれ」との命令に応じず、白鳥の引く車でヒュペルボレオイの国へ飛んでいくのである。アポロンはその地:ヒュペルボレオイで自由気ままに1年遊びつくし、それから父:ゼウスの言う「デルポイ」へと向かうのである。

残虐性をみせる神、アポロン

大地の女神ガイアから神殿を奪う!!

元から「デルポイ神殿」は大地の女神ガイアが治めて、人間に神託を授けていたのだった。
世界の為にはゼウスの父:クロノスの時代から「男子の神が支配する」というのが、習わしだった為、女神ガイアは信託所を自分の息子:ピュトンと呼ばれる恐ろしい竜に守らせていたのである。アポロンはこの竜を退治し「神殿」を我が物にしたのだった。
ここまではなんとか、父ゼウスの言いつけを守ってきたアポロンだったが(汗)・・

その後、神託を求め訪れる人間達に、アポロンははっきりとした神託をおこなわなかったのである。

デルポイ神殿入口「汝自身を知れ」

デルポイのアポロン神殿の入り口に「箴言(しんげん)」と呼ばれる戒めの言葉が、人間達の「警鐘」の様に掲げられていた。

「汝自身を知れ」「何事にも度を超すな」「約束はやがて破滅になる」

アポロンは正確に神託を伝える行為はあえてしなかったのである。それはなぜか?「人間には未来の事を知る力はないのだから、この事をわきまえず、将来の約束をすれば身を亡ぼす事になる」というアポロンの深層に隠された戒めだった。つまり「お前達はただの人間で、神でない事を忘れてはいけない」と、アポロンが厳しく戒めたものだった事がよくわかる。
人間と神が、はっきり区別される事で成り立っている・・アポロンはその秩序を守る事にどこの神より厳格で、とりわけ人間が思い上がって神との違いを忘れる事を何よりも嫌う12神中1番プライドの高い神だったといえるだろう。

恐ろしく陰鬱・マルシュアスVSアポロン

アポロンは「知・技・体」全てを兼ね備えた理想の神でもあり、ギリシア1のイケメンであり、「音楽・詩歌・医術・弓矢の神」であり、まばゆいばかりに美しく輝く存在である事から「光明の神」とも呼ばれ、同時に太陽神と同一化される事もあった。そしてアポロンは予言の神でもある。完璧なイケメンに思えるアポロンだが、恐ろしく陰鬱な面も兼ね備えている。

マルシュアスというシレノス(半人半馬の種族)は、どんな曲でも吹け、その曲はとても美しくニンフや精霊達を魅了していた。「自分が世界一の音楽家」と思い込み、アポロンに挑戦を挑むのである。

「この私と演奏で勝負?・・いいだろう。その代わり勝者は敗者を自由にできる・・それが条件だ」

このアポロンの条件にマルシュアスは合意した。演奏が始まり、どちらの演奏も素晴らしいものであった。だが突然、アポロンは竪琴を上下さかさまにし、同じ様に演奏を続けた。
アポロンはマルシュアスに「私と同じ様にしてみろ」と言ったのである。笛は上下逆さまにしたら音がでない・・そしてアポロンはマルシュアスを逆さに松の木に吊り下げ、泣き叫ぶマルシュアスを生きながら、生皮を剥いだのだった。
その場に居合わせたニンフ・精霊・人間達はマルシュアスの悲惨な死に方に大量の涙を流し、その涙がフリュギアを流れるマルシャス河になったと言われている。

 またアポロンと牧神パンが笛の競争をした時には、フリュギアの王:ミダス王はパンの勝利を主張した。怒ったアポロンは「王の耳は愚かである」とミダス王の耳を「ろばの耳」に変えてしまった。

これが有名な「王様の耳はろばの耳」である。

恐ろしき死の射手達=アルテミスとアポロン

アポロンの双子の姉:アルテミスは「狩猟の女神」でアポロン同様、弓矢を持っていた。
アルテミスの放つ矢は女性にだけ放たれるものであり、例えば「お産」の最中に女が死ぬと「アルテミスの矢に射られた」と信じられていたのだった。アポロン同様、彼女の弓矢も、目に見えない死をもたらす為、人間達に恐れられていたのである。

この双子の放った矢の犠牲者として有名なのがデバイ王の妃:ニオベである。

「レトは預言者と言われているが、アポロンとアルテミスの双子を産んだだけ。あの女神より子沢山の私の方が幸せよ」

この言葉を聞き、とがめたレトはアポロンとアルテミスに
ニオベの思い上がりを罰しなさい」と命じた。そこでアポロンは、ニオベの息子達全員を射殺し、アルテミスは王宮にいた娘達を矢で皆殺しにしたのだった。
アポロンの弓矢は「死と疾病」を発生させる力と、またどんな病気も治療できるという医術の弓矢でもあったのだ。

報われないアポロンの恋愛

二股かけられたアポロン

ドメニキーノの『コロニスを殺害するアポロン』(1616年-1618年)wikiより

テッサリアのラリッサ国の王の娘コロニス。彼女はアポロンに愛され懐妊までしたのに、イスキュスという人間の男とも情を通じていたのである

コロニスの見張りを命じておいたカラスから、その事を知らされると、アポロンは激怒しコロニスに矢を放ち殺してしまう。

怒り治まらず、その事を報告したカラスに向け真っ白だったカラスの羽根を、黒く変えてしまったのだった。

樹木になったニンフ

またある時、アポロンは弓矢で遊んでいた愛の神エロスを揶揄した。それに怒ったエロスは、アポロンに「恋心を掻き立てる矢」を放ち、近くの河原で遊んでいた精霊ダフネに「恋心を去らせる矢」を放った。

アポロンはダフネを追い回し、ダフネは逃げたい一心から月桂樹へと姿を変えてしまった。アポロンは涙を流し「すまなかった・・ダフネ。せめて私の聖樹となってもらえないか」と頼むと、彼女はなったばかりの月桂樹の枝を揺らし、うなづいたという。

こうしてアポロンは「乙女の化身」月桂樹を聖樹とし、月桂樹のかんむりで額を飾る様になった。

こうして月桂樹は冬でも葉の落ちない常緑樹になり、その枝を編んで作られる月桂樹冠は、人間のあいだでは最高の名誉の印となって栄冠される事となったのである。

悲しい同性愛相手:ヒュアキントス

古代ギリシアでは、大人の男と少年の間の同性愛の関係は、信頼や同志的な絆に通じるものとの考えがあり、女性を愛するより高い価値を持っていたのである。
しかしアポロンの場合、少年達との恋愛も上手くいかず、中でも有名なのがヒュアキントスとの物語。

ジャン・ブロックの1801年の絵画『ヒュアキントスの死』

美少年ヒュアキントスはアポロンに想いを寄せていた。アポロンも同様の想いを抱き、常に一緒に遊び、散歩したりするのが何よりの楽しみだったのである。しかし、西の風の神ゼピュロスも、この美少年に想いを寄せておりアポロンと彼の仲を嫉妬していた。

円盤投げで遊ぶアポロンとヒュアキントス。アポロンの円盤をキャッチしようと夢中で走っている時に、ゼピュロスが風を吹かせ円盤がヒュアキントスの額に命中し、彼は死んでしまった。

自分が投げた円盤で死んだのを見たアポロンは「お前と一緒に死者の国へいきたい」と嘆き悲しむのだった。そして「花になり、いつもでも私の愛を受け続けるのだ」といい、ヒュアキントスの額から流れた血から、ヒアシンスの花が咲いたのだった。ヒアシンスの花の名前の由来はここからきている。
だたし、古代ギリシアのヒアシンスは、現代のヒアシンスと呼ばれる花とは別のものだったと言われている。

まとめ

ギリシア神話一のイケメンだったアポロン。

不幸な恋愛が多い事は、誰もが憧れる様な美貌を持っているのと同時に、とても強い神でもあった為、彼に愛されるのは「喜びでもあるよりも恐ろしい」事だという考えが人々にあったためだともいえるであろう。

当時、ギリシア人は彼らが「コスモス」と呼んでいる世界の秩序が、お互いにはっきり区別されることで成り立っていると考えられていたのである。アポロンはどの神よりその秩序に対し厳格で、人間が思い上がり、神との違いを忘れる事を何よりも嫌う傾向があった。

だから未来について真実を告げる「神託」を、人間が意味を取り違えるほど、難解に伝えたのも、人間達に神託を正しく理解する事ができない知恵の限界を、解らせる為だったのである。そして双子の姉:アルテミスは小アジアなどでは、豊穣の女神で多産のシンボルだったとも考えられている。

太陽神は実は元々ティタン族のヘリオスであり、月の女神はセレネであったが、後の時代に、双子のアポロンとアルテミスが太陽と月の神として同一視される形になった。
ギリシア神話からの由来として現代に遺されている逸話も多く、深く探ってゆくともっとたくさんの物語がでてくる予感がする。

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