安田記念(3歳以上オープン 国際・指定 定量 1600m芝・左)は、日本中央競馬会(JRA)が東京競馬場で毎年6月に施行する重賞競走(GⅠ)である。
秋に京都競馬場で行なわれるマイルチャンピオンシップ(GⅠ)と並んで、「春のマイル王決定戦」としてマイル路線に定着している。
この安田記念について創設からの歴史をひもといてみる。
なお2001年(平成13年)から競走馬の年齢表記が数え年から満年齢に変更された。この記事では現在の表記で記す。
安田伊左衛門の功績を讃えて創設
「安田記念」は1954年(昭和29年)に設立されたJRAの初代理事長を務めた安田伊左衛門の功績を讃え、1951年(昭和26年)に「安田賞」として創設された。
安田伊左衛門は1906年(明治39年)に東京競馬会を設立。東京競馬倶楽部、日本競馬会(JRAの前身)の理事長として日本の近代競馬の競走体系の整備、競馬法制定、東京優駿(日本ダービー)の創設に貢献したため「日本競馬の父」と讃えられている。
安田賞は4歳以上のハンデキャップ競走として東京競馬場の芝1600mで施行された。2400mの日本ダービーや優駿牝馬(オークス)、3200mの天皇賞など長距離レースが重視されていた、日本の競馬で初の古馬のマイル重賞だ。
第1回安田賞の優勝馬はイツセイ(牡3)である。イツセイは1ヶ月ほど前に行なわれた第18回日本ダービーでトキノミノルの2着だった。2000m以上の距離のレースには勝てないが距離が合えばレコードタイム勝ちという典型的な中距離馬で、早速安田賞の恩恵に与った馬といえよう。
安田記念に改称
1958年(昭和33年)、安田伊左衛門の死去に伴い第8回から「安田記念」に改称された。
《初代 ヒシマサル》
安田記念を最初に親子制覇したのは1959年(昭和34年)第9回のヒシマサル(牡5)、1966年(昭和41年)第16回のヒシマサヒデ(牡4)父子である。
ヒシマサルは3歳のクラシックレースには間に合わなかったが、4歳になってから力を付け毎日王冠やセントライト記念などに勝利し、5歳時に61kgのハンデを背負って安田記念で優勝した。
内国産の種牡馬が冷遇されていた時代だったが、初年度産駒に安田記念優勝馬のヒシマサヒデを輩出した。しかし放牧中の事故が元で急死、2世代しか子供を出していない。
《余談: 2代目ヒシマサル》
「初代」と書いたが、「2代目」ヒシマサルがいる。
本来、GⅠレースの優勝馬と同じ名前を付けることはできないが、初代ヒシマサルの馬主の阿部雅信の息子・阿部雅一郎はアメリカのトレーニングセールで購入した馬をアメリカで「Hishi Masaru II」の名前で血統登録してから輸入した。
2代目ヒシマサルは安田記念に出走していない。
農林水産省賞典 安田記念
1984年(昭和59年)(第34回)グレード制施行によりGIに格付けされ、名称が「農林水産省賞典 安田記念」、競走条件が「5歳(現4歳)以上」に変更された。合わせて混合競走に指定され外国産馬も出走できるようになった。
開催時期が優駿牝馬(オークス)の前の週である5月に移され、この年に新設されたマイルチャンピオンシップ(GI)(京都 芝1600m)を含めてマイル路線が整備された。
《好敵手 ハッピープログレスとニホンピロウイナー》
それを待っていたかのように第34回安田記念で優勝したのは、短中距離路線を走り6歳になって本格化したハッピープログレス(牡6)である。
スプリンターズステークス(GIII)(中山 芝1200m)、京王杯スプリングカップ(GII)(東京 芝1400m)、安田記念と春の短距離戦で3連勝し、新設されたマイルチャンピオンシップではニホンピロウイナー(牡4)の2着に入っている。
ニホンピロウイナーは翌1985年(昭和60年)第35回に優勝、後に「マイルの皇帝」と呼ばれる。
【日本馬以外にも門戸を開く】
1993年(平成5年)(第43回)国際競走に変更され外国調教馬が5頭まで出走可能になり、2005年(平成17年)(第55回)には9頭に拡大された。
国際競走の指定は天皇賞が2005年(平成17年)、日本ダービーは2010年(平成22年)なので安田記念の国際化のスピードの速さがよくわかる。
《ゴドルフィンの刺客 ハートレイク》
1995年(平成7年)(第45回)指定交流競走に指定され、地方競馬所属馬が出走可能となる。
このレースの優勝馬はドバイのシェイク・モハメド殿下が率いるゴドルフィンのハートレイク(牡4)で、初の外国調教馬の勝利である。
初めて安田記念で優勝した外国産馬は1997年(平成9年)第47回のタイキブリザード(牡6)だ。
安田記念初参戦の1995年は上記のハートレイクの3着。1996年(平成8年)(第46回)はトロットサンダーの2着。
着実に順位を上げ、やっと1997年に1着に入ることができた。
【国際化が進む】
2004年(平成16年)(第54回)国際セリ名簿基準作成委員会より国際GIに格付けされた。
2016年(平成28年)(第66回)アメリカのブリーダーズカップ(BC)チャレンジ競走に指定され、優勝馬に当該年に行なわれるアメリカ競馬の祭典ブリーダーズカップワールドチャンピオンシップのうちのBCマイル(GⅠ・芝約1600m)への優先出走権が付与されることになった。
2017年(平成29年)(第67回)1~3着馬に当該年の8月にフランスのドーヴィル競馬場で行なわれるジャックルマロワ賞(GⅠ・芝1600m)への優先出走権が付与されることになった
《連投でGⅠ制覇 モズアスコット》
2018年(平成30年)6月3日に行なわれた第68回で優勝した外国産馬のモズアスコット(牡4)は、5月27日の安土城ステークスから休みを挟まず連闘で勝利を収めた。
安田記念では1989年(平成元年)第39回のバンブーメモリー(牡4)も連闘で勝利しており、平成の最初と最後を連闘での制覇で飾ったことになった。
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