恐竜

スピノサウルスの発見から現在に至るまでの研究の歴史

コロナ禍の最中に飛び込んで来た大ニュース

新型コロナウイルスによって「ステイホーム」という言葉が世界中で使われていた2020年4月、深夜にも関わらず、とある恐竜の名前が日本…いや、世界中のTwitterトレンドを支配した。

支配した」というのは少々大袈裟ではあるが、深夜に突如トレンドに入りした「スピノサウルス」というワードは一瞬にして世界中の恐竜ファンの注目の的になった。(無粋ではあるが、日本の深夜はアメリカを初めとする海外諸国の大半は昼であり、世界中でSpinosaurusというワードが爆発的に拡散されるのは当然だった

スピノサウルスの意外な尾を発見、実は泳ぎが得意だった | ナショナルジオグラフィック日本版サイト (nikkeibp.co.jp)
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/050100271/

トレンドを覗くと、これまで発見されていなかったスピノサウルスの尻尾の化石が発見されたとの事で、しかも尾ひれ状で泳ぎに適していた事まで分かったのはスピノサウルスの研究が大きく進む事を意味する、文字通りの大発見だった。

魚食性に背びれとユニークな特徴を持つスピノサウルスだが、発見された化石が僅かだった事もあり、外見に関する様々な説が提唱されて来た。

今回は、スピノサウルスの発見から現在に至るまでの研究の歴史を辿る。

魚食恐竜?

スピノサウルス

水棲説に準じたスピノサウルスの骨骼復元図

1911年、エジプトで新種の獣脚類の化石が発見された。

ドイツ人のエルンスト・シュトローマーによって発見されたその恐竜は最大1.8メートルにもなる巨大な突起があり、それが刺に見える事から「刺のあるトカゲ」を意味するスピノサウルスと命名された。

人間よりも大きな突起が目を引くスピノサウルスだが、研究が進むにつれてユニークな特徴が明らかになって来る。

獣脚類恐竜の歯はステーキナイフのようなギザギザが付いており、肉を噛み切るのに適した形状(鋸歯)をしているのだが、スピノサウルスの歯はワニに近いものであり、アフリカ北部の水辺に生息していた環境と照らし合わせて、魚を食べていた魚食恐竜だったという説が広く支持されるようになった。

なお、水辺に移り住んで魚を食べていた説の根拠として、肉食恐竜同士による獲物の奪い合いを避けるためと言われている。

また、比較対象に挙げているワニが魚以外の動物も食べているのだからスピノサウルスも魚だけ食べていたとは考えにくいが、環境に合わせて魚を食べるのに適した進化をしたのは興味深い。

ミュンヘンの悲劇

一部とはいえ、恐竜の化石は貴重な証拠である。

恐竜が魚を食べていた事に加え、実はティラノサウルスよりも大きかった可能性があるなど、スピノサウルスには夢しかなかった。

スピノサウルスの化石はドイツに渡り、ミュンヘンの博物館で大事に保存されていたが、第二次世界大戦の空爆によって消えてしまった。

恐竜研究の歴史を変えるはずだったスピノサウルスの化石がなくなった事によって研究はストップしてしまい、スピノサウルスは長い間「謎の恐竜」となっていたが、20世紀終盤に新たな化石が発見されてから流れが大きく変わる事になる。

映画の主役は四足歩行?

1996年、モロッコでスピノサウルスの頭部の化石が発見され、これまで止まっていたスピノサウルスの研究が再開される。

発見された化石からスピノサウルスの頭部はワニのガビアルに似た形状をしており、魚を食べていたという説が更に濃厚となった。

スピノサウルス

頭骨発見後の復元図。現在の復元とは異なり、後肢が長く、二足歩行の姿勢をとっている。

また、発見当初からスピノサウルスは全長15メートルとティラノサウルス(14メートル)よりも長い全長を持っており、最大の肉食恐竜と言われて来た。

2001年に公開された映画『ジュラシックパーク3』では作品のロゴにスピノサウルスが採用されており、作中ではシリーズの象徴というべきティラノサウルスを文字通り「食ってしまう」大活躍を見せてくれた。

映画の活躍でスピノサウルス人気が上昇したのは想像に難くないが、2010年代に入ると新たな発見で世界に衝撃を与える。

2014年、シカゴ大学のニザール・イブラヒムによってスピノサウルスの四足歩行説が提唱される。

先に述べておくと、この説は確実に証明されている訳ではなく、あくまで近年の研究から生まれた説の一つでしかないのだが、この説はスピノサウルスは後脚が短いと判明した事から生まれた。

後脚の長さがどうして四足歩行に繋がるかという話だが、後脚が短いとバランスが悪くなり、何かでバランスを取る必要が生まれる。

それが長い前脚だった。(あえて腕とは呼ばない

ダックスフントのような胴長短足の体型に長い首と尾という、絶妙なまでにアンバランスなスタイルは一般的な獣脚類とは掛け離れたものだが、進化とは何かしらの意味があって行われるものである。

スピノサウルスが四足歩行だったと仮定して、同じく水辺で獲物を狙うワニと水鳥がヒントになる。

水鳥を想像して貰うと分かりやすいが、彼らは浅瀬で首を突っ込んで魚を食べる。

長い首を持っていたスピノサウルスも同じように魚を発見したら水中に首を突っ込んで捕獲したという説は説得力がある。(水中で行動したり待ち伏せしたりするなら四足歩行の方が楽であり、四足歩行派の主張する根拠になっている

また、スピノサウルスの長い鼻先はワニに比較されるが、あの巨体でワニのように水中に身を潜められるかは別として、それなりの水深の川を渡ろうとした恐竜を狙う時は水中で鼻だけ出して待ち伏せしていたという説も興味深い。

トレードマークは何のため?

可能性=確定ではなく、四足歩行説に関してまだまだ議論の余地はあるが、21世紀に入ってから貴重な発見を重ねて来たスピノサウルスは、現在最もホットな恐竜の一つである。

スピノサウルス

現時点のスピノサウルス復元図(2020年)

話を冒頭に戻し、2020年4月にはスピノサウルスの尾ひれが発見され、尾をオールのように使って泳いでいた事が分かり、水中で行動するのに適した進化を遂げていた説が更に有力になった。(近いうちに足に水かきがあった証拠が発見される可能性もある

研究が進めば進むほどユニークな特徴が明らかになるスピノサウルスだが、発見当初から未だに謎な部分がある。

そう、トレードマークの背中の突起である。

スピノサウルスの突起に関して様々な説が生まれて来たが、発見から100年以上経った今でも決定的な証拠は見付かっていない。

そのトレードマークに関してはまたの機会に書きたいが、日々進むスピノサウルスの研究と発見の度に生まれる新説から目が離せない。

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