我が子の育児に積極的に協力するため、『育休制度』を活用する家庭的な男性を表現する造語「イクメン」は、社会保障制度が充実している北欧スウェーデンの姿を象徴した言葉ではないかといわれている。
しかしスウェーデンの男性たちは、自ら「イクメン」になろうとして育休を取得しているわけではなく、男女平等の思想、育休中でも定額の給付金が得られる保障といった経済的にも、精神的にも安心できる育児環境が整っているからこそ、実現できる当たり前の権利という認識で『育休』を取得している。
目次
共働き先進国といわれるスウェーデンの実情
国が子供から高齢者の生涯に責任を持つ『福祉国家』のスウェーデンでは、学費の免除から入院費・介護費の免除までの手厚い社会保障制度が設定されている。
その反面、世帯単位で保障が適用される日本とは異なり、個人単位で保障が適用することが基本であるスウェーデンでは、結婚の有無に関わらず、自身で収入を得ることが必要になってくる。
スウェーデン家庭における共働きの比率が全体の8〜9割と高い実情には、こうした個人主義的社会制度が大きく影響しているのだ。
保障が充実しているからこそ結婚していなくても幸せに暮らせる!?
個人主義的社会制度の下で暮らすスウェーデンの人々は、私生活の在り方にも独特な考えを持っている。
日本との違いを大きく感じる点としては、結婚の必要性に対する意識の違いだ。まず、スウェーデンには同棲婚を意味する『サンボ(サムボ)』という家族構成がある。
日本でいう事実婚に当たるものだが、スウェーデンでは婚姻関係を結んでいない『サンボ』の状態でも、法律的に結婚と同じ権利を得ることができる。そのため、2人の間に子供が産まれたとしても婚姻関係は結ばず、『サンボ』の関係を継続していく家族がスウェーデンでは珍しくない。
『サンボ』を始めてから得た収入や、購入した物も共有財産として見做されるため、結婚の必要性がないと考えるのも無理はない。
しかし遺産相続に関しては、『サンボ』の関係性では解決できないデメリットが生じるため、それを機に歳を重ねてからの入籍あるいは、事細かに記した遺書を残す方法を取る家族もいる。
個人の自由、個人の権利を尊重するスウェーデン社会では、離婚率が6割という高い結果も出ていることから、結婚にこだわらない考え方で生活していた方が気楽ではある。
それでも、結婚に憧れを抱き、幸せな家庭を築いているスウェーデンの人々も多いため、社会保障制度とは別に互いに対する愛情や信頼をどれだけ多く築けていけるかが、結婚への道のりを左右しているのだと思う。
個人の働き方を尊重することが北欧で幸せに暮らすための秘訣
国が手厚く完備している社会保障制度を受けるには、当然それに値する高額な税金を支払う国民の義務がある。
働いた分だけ差し引かれる税金も高額となり、その繰り返しの生活にふと自分自身の生き方について考えるスウェーデンの人々も少なくない。自身の人生を存分に謳歌することができたと満足して生涯を終えたいと、個人の自由な生き方を追求していく姿勢がとても強いのが、スウェーデンの国民性ともいえる。
そんな国民性をスウェーデン社会も理解してなのか、多くのスウェーデン企業では、個人の働き方を尊重し、基本的に副業を認めている。
つまり、企業に在籍しながらも個人でカフェを運営したり、趣味で始めたお菓子作りやデザインの勉強を活かして個人ビジネスを開業することも可能だということだ。
また、子供を持つ親は管理職であったとしても時短勤務を希望し、仕事よりも家庭での時間を優先したい意向を強く会社に交渉する人が多いが、これに対してもスウェーデンの会社側は寛大に受け入れてくれる。
共に働く同僚たちも、その考えが当たり前と理解しているため、仕事と私生活を両立したい個人の希望を発言しやすい環境がスウェーデンにはある。
日本でも副業を認めている企業や、有給休暇の取得を積極的に促す流れが増えてきてはいるが、まだそれらを積極的に発言できる環境が整っているとは、未だ断言できないように思える。
幸せな暮らしを築くには、何事も程々がちょうどいい
社内で互いに信頼や理解が得られやすい環境が整っている一因としては、スウェーデンで日常的に行われている『フィーカ(FIKA)』文化の存在が大きいといえる。
『コーヒーを飲む』というスウェーデン語の語源からきている『フィーカ』は、お菓子やコーヒーを持ち寄り、仕事や家事から離れて寛ぐ時間を過ごすことだ。
会社で決められた『フィーカ』の時間に役職関係なく、プライベートの話を気軽にできるコミュニケーションの場として活用されている。
勤務時間内に負担もなく参加しやすいことから、『フィーカ』で食べるお菓子の当番制を導入し、仕事よりもこの『フィーカ』の時間をいかに仲間たちと楽しめるかという点を重視している会社もある。
「休むこと」こそ、人生を楽しく生きる最善の方法という理念が非常に強いスウェーデンらしい特色は、この『フィーカ』文化から生まれたといっても過言ではない。
何事にも全力を尽くし完璧を求めるよりも、自分の時間に余裕を持たせ、時には好きなことに時間を注ぎながら生きていく『少し力を抜いたくらいが丁度いい、程々くらいがちょうどいい生き方』こそが、人生の幸福度を上げられる近道であると、個人主義社会を貫くスウェーデンは、世界に伝えているようだ。
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