2022年6月1日より、日本におけるブリーダーやペットショップで販売される犬や猫に対して、動物自身の身分証明書や飼い主特定の情報を登録した「マイクロチップ装着義務化」が制定された。
制定当初から、飼い主の一方的な育児放棄、災害や盗難により救助が必要となった場合に役立つ政策として大きな期待が寄せられている。
ペットへのマイクロチップ装着を早くから法律で定めていた海外の狙い
国外のペット事情を覗いてみると、特に犬を家族として迎える際にマイクロチップを装着する義務をスウェーデンでは約20年前から、イタリアでは16年前からと日本よりも遥かに早く法律で定めていた。
迷子になった場合の素早い飼い主特定がペットへのマイクロチップ装着義務化のいちばんの理由とされているが、それと同時に飼い主の無責任な飼育放棄への注意喚起の意味合いも込められている。
ペットへのマイクロチップ装着を早くから法律に取り入れている国こそ、保護犬や保護猫の増加に頭を抱えている国といわれているからだ。
国民からの支援があってやっと保護犬や保護猫を助けられている状況と、小さな命を救いたいという一心で、費用は全て本人が負担する臨時保護に関わる人々の現状を、新たな法律で変えていくべきであるという意識が国全体で広まったことが、日本よりも早いマイクロチップ装着義務化を実現できた経緯である。
法律のもと『義務化』を強調することで、人々の動物に対する軽率な考えを無くすよう促す狙いもあるようだ。
ペットへのマイクロチップ装着は日本の悲しい現実の象徴!?
犬や猫たちの体内に挿入されるマイクロチップは直径1cmほどのサイズで、飼い主の氏名、住所、連絡先のデータが全て保存されている。
マイクロチップは、動物の背中部分に挿入され、装着後に専用のスキャナーを背中にかざすと、マイクロチップのデータを示す番号が表示される仕組みとなっている。
海外では、定期的に接種するワクチン履歴などの情報もマイクロチップで管理している所もあり、デジタルでの管理体制を徹底している。
マイクロチップの装着に掛かる費用は動物病院によって差はあるものの、平均で5,000円から10,000円程度だ。
基本的には動物を扱うペットショップやブリーダー側が費用負担となり、保護犬や保護猫を預かる動物愛護センターにおいても、里親への譲渡前にマイクロチップ義務化の制度に従う方針を固めている。
しかし、マイクロチップ義務化が発令される2022年6月1日以前から飼育中の犬や猫に対しては、飼い主の気持ちに委ねた「努力義務」とされているため、動物たちの体内に直接、電子機器のマイクロチップを挿入することに抵抗がある人々も多い。
また、家族として迎えたペットを生涯守り、育てることは当然のことであるにも関わらず、飼い主の一方的な育児放棄を抑止できる効果を期待してマイクロチップ装着を義務化、かつ努力義務化を促すことが『悲しい現実だ』と訴える人もいる。
賛否両論の声が上がる動物へのマイクロチップ装着義務化は、今一度、飼う側の責任感や命を迎え入れることは容易い問題ではないことを一人一人が再認識すべき貴重な機会ともいえる。
ペットへのマイクロチップ装着を機に注目される新たなペット政策
ペットへのマイクロチップ装着に熱い視線が向けられる中、海外でのペットに関連する制度として、EU加盟国で実際に発行されている犬猫用の「EUペットパスポート」の存在に注目が集まっている。
健康手帳としても活用できる「EUペットパスポート」は、ヨーロッパ内をペットと一緒に自由に旅行できるように発行されたもので、ペット同伴で国境を越える場合や、公共交通機関を利用する際の必要書類を持ち歩く負担をなくすことを目的としているものだ。
「EUペットパスポート」を持参するだけで、ペット同伴の移動許可も短時間で済ませられるメリットもあり、EU間での引っ越しの際にも飼い主の必須アイテムとして認知されている。
この「EUペットパスポート」発行には、マイクロチップ装着が必須条件とされているが、少しでも人間に近い権利をペットにも与えたいという意識が強い海外では、マイクロチップ装着に躊躇はない。
日本では、国内線を利用したペット同伴の旅行を記念に残せる『ペットパスポートアプリ』の配信を行っていたが、現在このサービスは終了している。
未だ日本国内や日本出入国の際に活用できる『ペットパスポート』の実現には時間が掛かりそうだが、今回のマイクロチップ装着義務化を機に、海外におけるペット関連の政策を日本にも取り入れる体制が活発化する望みも捨て切れない。
実際に海外のペット政策を日本に導くことができるかは、人々のペットを家族の一員として迎え入れる気持ちと、共に生活しいく上で必要となる手続きの円滑化を願う想いに掛かっていると私は思う。
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