旅行先で期待することといえば、観光地で過ごす充実した時間や絶景スポットでの写真撮影が真っ先に思い浮かぶ。
それと同時に、日常を忘れてゆっくり寛ぐための空間である宿泊先への期待を大きく抱く人々も多い。
特に大浴場や、各部屋に半露天風呂を完備しているホテルが定着しつつある日本では、宿泊施設に対する期待値は非常に高い。
上質な顧客対応はもちろんだが、部屋の隅々まで行き届いた清潔感こそ、ホテルの信頼と魅力を引き出しているともいえる。
今回は、そんなホテルの快適な空間を支え続ける「客室清掃の実態」について調べてみた。
「快適で心地良い空間を創り上げる」客室清掃という仕事
「ホテルの信頼は客室清掃の完成度で決まる。」
そう表現されるほど、客室の清潔さはホテル利用価値の判断基準をも左右する。
ホテルへの大きな期待を寄せる人々の大半は、現実から離れ、非日常を味わう旅行者である。そのため、心地よい休息や睡眠を取ることへのこだわりも強い。自宅同様に寛げる空間と、隅々まで行き届いた清掃の成果を実感できてやっと、旅行の満足感が満たされる人もいるほどだ。
そんな旅行にかける人々の特別な想いを迎え入れ、快適で心地良い空間を創り上げるのが「客室清掃」という仕事である。
短時間で完璧な清掃をこなすスキルアップが日々、求められる業務だ。
清掃から応対業務まで多彩なスキルが求められる客室清掃
客室清掃の業務は、当然ながら自宅で行う部屋の掃除とは規模が違う。一言でいえば、「時間との真剣勝負」だ。
指定されたチェックイン時刻までに、快く販売できるクオリティの高い部屋を仕上げる必要があるからである。
多くのホテルでは、個人の実力に応じて担当する部屋を割り当てているが、1人で11〜15部屋の清掃を受け持つのが一般的となっている。
1室にかけられる清掃時間は平均で20分程度とされている。指定された部屋の清掃を順番にこなしていくだけの仕事にも感じられるが、自身の退勤時間を見据えた時間配分を意識しながら業務にあたらなければならない。客室清掃を的確にこなす柔軟性が重要となる。
その柔軟性が維持できていなければ、イレギュラーな対応を求められたとき、判断力はおろか、清掃の完成度にも影響が生じる。
客室清掃の仕事は、時間・体力・精神のバランスが業務に反映される職業と言っても過言ではない。
また、顧客との対面が少ないことから客室清掃は「裏方業務」というイメージが未だ根強く残る。
しかし実際は、顧客からの直接的な清掃依頼を受けたり、清掃の有無を確認したりと丁寧な接客対応も求められる職業である。一人での作業がメインとなる客室清掃スタッフにも、販売業と変わらない明るい笑顔や、気配りが求められてくる瞬間が多々ある。
ホテルの評価にも影響する全スタッフの接客態度。
快適な部屋を創り上げる客室清掃スタッフにとって、好感のもてる笑顔と挨拶は部屋への美意識と同じぐらい重要なものとなっている。
客室清掃スタッフが抱く使命感の先にあるもの
客室のドアを開けた瞬間から大きな課題にぶつかることもあるのが客室清掃という仕事である。
それでも業務に邁進し続けるのは、「限られた時間の中で、自らの手で快適な空間を創り上げる」という強い使命感があるからだ。
その強い使命感のきっかけとなるのが、宿泊者から寄せられる賞賛の声である。
ホテルの清潔感に満足感を覚えた顧客が残した感謝の言葉には、仕事へのやり甲斐と自身のモチベーションを高める力があるという。
「部屋がきれいでした。」「いつもありがとう。」といったメッセージには、客室清掃スタッフへの感謝を表現すると共に「清潔で快適なホテルだった。」という信頼の気持ちが込められているからだ。
自分が手掛けた部屋の清潔さがホテル全体の評価へと繋がる達成感は、客室清掃スタッフのみが味わえる特権ともいえるだろう。
素早く丁寧な清掃を必要とされ、ときには臨機応変な気配りを求められる客室清掃。ホテルという空間に自宅同様の安らぎを実感できるのも、そんな客室清掃スタッフの見えない努力があるからである。
一時期は観光業の衰退と、療養受け入れの対応で目まぐるしく変わる業務内容に不安ばかりが募る日々もあっただろう。「快適な空間を提供する仕事」がいつしか、感染対策という理由で「閉鎖的に近い空間を意識するもの」へと変わり、憤りを感じることもあったに違いない。
人との距離が制限される現在も、ホテルとホテルを利用するすべての人々の日常を支えている客室清掃スタッフ。旅の制限が緩和されつつある今こそ、清潔さと安心を届ける客室清掃という仕事を身近に感じられる。
自身の旅の記憶の中に、快適なホテルの印象が刻まれた時にはぜひ、客室清掃スタッフへの感謝を言葉にして伝えてほしい。
この記事へのコメントはありません。