戦国時代

【人格崩壊させる秘薬】 阿呆薬(あほうぐすり)とは 〜忍者の使った毒

画像 : 忍者 public domain

戦国時代は、忍者が最も必要とされた時期である。

彼らの情報収集力やニセの情報で相手を惑わせる謀略力は、乱世を生きる戦国大名にとって、なくてはならないものだった。
表舞台に出ることなく、忍びの術を使って任務をこなしていく忍者はとても魅力的だ。

忍術は、情報収集術、武術、呪術、火術、天文学など多岐にわたっていた。薬学もその一つであり、毒を使うのは忍者の得意とするところである。

いったい忍者はどんな毒をどのように使ったのだろうか?

忍者の使った毒

〜忍者の使った毒

※画像 : 万川集海。国立公文書館より引用

忍者は、薬草に関する多くの知識を持っていた。

万川集海(ばんせんしゅうかい)などの忍術伝書には、多くの薬草・毒草が記述されている。

忍者が使った代表的な毒には、トリカブトやマチン、大麻などがある。

・トリカブト

〜忍者の使った毒

※画像 : ミヤマトリカブト。wiki c

トリカブトの毒性は古くから知られており、『古事記』や『吾妻鏡』には矢毒として使われたという記載がある。

毒は草全体に含まれているが、特に根に多い。
神経伝達を阻害する「アコニチン」というアルカロイド系の神経毒が、口のしびれや嘔吐、けいれんなどを引き起こし、重篤になると窒息死する。

致死量は2~6mgで、未だ解毒剤はない。

特にヤマトリカブトは、その葉1枚で致死量にいたるほどの猛毒をもつ。

・マチン

〜忍者の使った毒

※画像 : マチン.植物画。wiki c

インドールアルカロイド系の「ストリキニーネ」が含まれ、口にすると全身けいれん、呼吸困難となり死にいたる。

「ストリキニーネ」は、1960年代の半ばまで、実際に野犬退治に用いられていた。

・大麻

アサ科の一年草。

テトラヒドロカンナビノール」とよばれる化学物質により、視覚や味覚などの感覚が過敏になり、幻覚や妄想が現れる。

思考が分裂し、人格が崩壊する。

・イチョウ

ギンナンに含まれる「ピリドキシン」はビタミンB6の働きを阻害する作用があり、多量に摂取すると中毒をおこし、嘔吐、けいれん、意識障害を引き起こす。

・シキミ

〜忍者の使った毒

※画像 : シキミ.植物画。wiki c

神経毒である「アニサチン」により、おう吐、下痢、めまい、けいれん、呼吸困難、血圧上昇などを引き起こす。

根・茎・葉・花など全てに毒が含まれるが、特に実の毒性が強く、劇物指定となっている。

その他、腹痛や下痢を起こす植物「ノイバラ」や「ノウルシ」、「キンポウゲ」なども毒として使われた。

植物以外では、ヒ素を含んだ殺鼠剤の石見銀山やフグ毒の「テトロドトキシン」が神経毒として用いられた。

毒の使い方

〜忍者の使った毒

画像 : ※伊藤銀月著『忍術の極意』. 国立国会図書館デジタルコレクション

忍者は敵地に潜入し、情報収集や謀略を主な任務としていたが、潜入先で特殊部隊として戦いに参加することもあった。

手裏剣や矢の先には、かすっただけでも相手に致命傷を負わせるために、トリカブトの毒が塗りつけられていた。
また、傷口を化膿させ破傷風を発症させるために、馬糞を塗って使うこともあった。

それ以外にも忍術伝書には下記のような毒の使い方が記されている。

・「犬殺し」

マチンで作られた毒薬は「犬殺し」とよばれ、諜報活動などで家に侵入する際、番犬を殺すために使用した。

大変苦みが強く、えさなどにまぜて味をごまかし、犬に食べさせたとされる。

・「阿保薬(あほうぐすり)」

大麻を使った秘薬「阿保薬(あほうぐすり)」は、敵をうつろ(阿呆)にして、人格を崩壊させる。薄茶に混ぜて相手に飲ませた。

また、阿保薬で人を操り情報を収集したとの記録もある。

・「座枯らし」

青梅に含まれる「アミクダリン」という成分は、体内に入ると酵素によって分解され、有毒なシアン化水素(青酸ガス)を発生させる。重症の場合、けいれんを起こし呼吸困難となり死にいたる。

ただし青梅の致死量は子どもで100個、おとなで300個といわれており、誤って何個か食べたくらいでは大事にはいたらない。

忍者は、「座枯らし」を扇に仕込み、あおいで敵に吸わせるという「霞扇の術」を使った。

忍者はなぜ豊富な毒の知識をもっていたのか

忍者の中でも特に甲賀忍者は薬や毒の扱いに長けていた。

甲賀の地は自然豊かな山々に囲まれ、薬草の宝庫だった。山では奈良時代から山岳宗教が栄え、霊場で修験者たちが厳しい修行を積んでいた。

彼らは日々山中で鍛錬し、精神統一や歩法、走法などの術を磨き、一方では遣隋使や遣唐使によって伝えられた薬学の知識を発展させていった。

こうした修験者たちによって培われた薬や毒の知識が、忍術として甲賀忍者に伝承されたと考えられている。

忍者に与えられた過酷な任務には、怪我や病気がつきものであり、治療に使う薬の知識が必要不可欠だった。忍者は虫下しや下痢止め、鎮痛剤などの薬を常に携帯していた。

また、薬には治療だけでなく変装に使えるという副産物があった。山伏や薬売りに変装し薬を配ったり売ったりすることで、だれにも怪しまれずに、全国各地を廻り情報収集を行うことができたのである。

薬と毒は表裏一体であり、同じ植物が毒にもなれば薬にもなる。

たとえば猛毒のトリカブトの根を乾燥させた附子(ぶし)は、漢方薬の生薬として使われている。

忍者は自分たちの身を守る薬を作る過程で、植物を見分ける力や薬草の効能、摂取の仕方など、薬と毒に関する豊富な知識を得ていったのである。

参考文献:川上仁一『イラスト図解 忍者』.日東書院

 

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草の実堂編集部

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草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
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