IT&ファイナンス

フィリピンで普及するPiso WiFiとは 「PisoWiFi自動販売機の料金や使い方、オーナーにもなれる」

はじめに

現代において、インターネット接続は私たちの生活にとって欠かせないものとなっている。

コロナ禍(COVID-19パンデミック)以降、多くの人々がオンラインで学習や仕事をする必要があり、フィリピンでもインターネットへの接続環境は非常に重要になっている。

前編では「Piso WiFi」がフィリピンで登場する原因、背景について説明した。

フィリピンで普及するPiso WiFiとは「フィリピンのインターネット接続環境」
https://kusanomido.com/study/it/67109/

連載の後編となる本記事では、いよいよ「Piso WiFi」の詳細について説明していく。

Piso WiFiとは?

Piso WiFi」とは、フィリピン通貨であるペソ硬貨を使用して、利用者が一定時間または一定のデータ量に達するまでのインターネット接続を購入することができる、自動販売機型のWiFiホットスポット有料サービスだ。

通常、利用者が「Piso WiFi」と呼ぶものは「Piso WiFi自動販売機」のことであり、特徴的な外観をしている。

フィリピンで普及するPiso WiFiとは

画像 : 現地のPisoWiFi自動販売機 ※著者撮影

フィリピンで普及するPiso WiFiとは

画像 : 現地のPisoWiFi自動販売機 ※著者撮影

利用者は、この自動販売機に硬貨を投入し、スマートフォン、モバイルデバイス、ラップトップ、またはタブレットを使用してインターネットに接続できる。

Piso WiFiは、フィリピンで急速に普及し続けており、貧困層や中流階層以下の人々が、インターネットを手軽に利用できるようになっている。 とくに、学生のような自宅でのインターネット接続が困難な人々には重宝されている。(フィリピン人の平均年齢は約24歳で、学生が非常に多い)

インターネット接続の質については後述するが、それはさておき、非常に安価で手軽にインターネットを利用できる機会を人々にあたえた「Piso WiFi」の功績は大きい。

Piso WiFiはどこにあるの?

Piso WiFiは、一般的にサリサリストアやレストラン、病院、学校、コミュニティセンター、公共交通機関などの公共の場所に設置されることが多く、誰でも利用可能である。

Piso WiFiの提供者によるが、一般的に24時間利用可能である。

現在のフィリピンでは、普通に街を歩いていてPiso WiFiを見かけないことはないくらいに普及しているので、簡単に見つけられるだろう。

Piso WiFiの料金

フィリピンで普及するPiso WiFiとは

画像 : 現地のPisoWiFiの料金 ※著者撮影

Piso WiFiの利用料金は、提供者によってまちまちではあるが、2023年5月時点では、概ね次のような料金体系で提供されることが多い。

5月時点でのペソと日本円のレートは、「1ペソ = 2.4198円」ほどである。

さらに、上記の写真のように学校付近ではより安い価格設定がされていることが多い。

【時間単位のレート】

1ペソ :10分
5ペソ :1時間(学校付近では3時間)

10ペソ :3時間(学校付近では6時間)
30ペソ :1日
100ペソ:7日
300ペソ:30日

【データ単位のレート】

1ペソ :10MB
5ペソ :500MB
10ペソ:1GB
20ペソ:3GB 50ペソ:5GB

フィリピン政府の発行する硬貨(1、5、10、20ペソ)が利用可能。

筆者が見ている限り、利用者は5ペソないし10ペソごとに支払うことが多そうだ。

なお1ペソでは10分間利用できるが、この間に100MBのデータ転送ができるわけではない。 また大きなデータ送受信すると、本来の利用時間よりも短くなることを筆者は確認している。

このデータ送受信料と利用時間の関係については明確にされていないので、筆者は独自に調査をするつもりだ。

Piso WiFiの使い方

使い方は、Piso WiFi自動販売機の種類によって異なるが、概ね次の2種類の方法で利用可能である。

ここではスマートフォンでの利用例を紹介するが、他のデバイスでもほとんど同じ方法で利用できる。

利用者は、

・WiFi設定画面を開き、WiFi接続を有効にする。
・現在利用可能なWiFi一覧が表示されるので、(通常は一番上)に表示されているWiFiを選択する。
・Piso WiFi自動販売機に接続すると購入画面が表示される。 この画面には通常、利用者が使用しているスマートフォンのMACアドレスとIPアドレスが表示される。

ここまでは共通。

タイプ1の場合。

・スマートフォンの画面に表示されている「Insert Coin」をタップすると、音声と画面表示で「硬貨を投入してください」と促されるので、それに従い、利用したいプランの金額を投入する。料金確定までの時間も提示されるので、素早く硬貨を投入しないと、やり直しになるので注意。

・硬貨を投入し、料金が確定されると、利用可能な時間が表示されてインターネット接続が可能になる。

タイプ2の場合。

・利用したいプランの硬貨を投入する。
・クーポンコードが自動販売機の液晶画面に表示されるので、そのコードをスマートフォンに入力する。
・クーポンコードの認証が終わったら、利用可能な時間が表示されてインターネット接続が可能になる。

使い方はPiso WiFi自動販売機のそばに書かれていることが多いので、それを参照すると良いだろう。

使用開始のカウントが開始された後で、利用を「一時停止/再開」できる機種もある。

しかし停電の多いフィリピンの地方では、一時停止が無効化されてしまう場合もあるようだ。

時間が切れると、ユーザーはインターネットから切断され、再びインターネットを使用する場合は時間を追加する必要がある。

以上がPiso WiFi自動販売機の使い方である。実際に操作してみればわかるが、非常に簡単であり悩むことはないだろう。

Piso WiFiのしくみ

ここでは、Piso WiFiのしくみについて簡単に説明する。

一般的に、Piso WiFiはインターネット接続を提供するために必要な設備と、サービスを提供するために特別に設計されたハードウェアとソフトウェアを組み合わせたシステムである。

Piso WiFi自動販売機の機器構成は概ね次の通りであり、比較的シンプルである。

・パワーユニット
・電源タップ
・LED
・コインユニット(貨幣受信機)
・Raspberry PiやOrange PiなどのSBCまたは、ESP32などのマイクロコントローラ
・各デバイスの電源周りとコイン投入を制御するカスタムボード
・ルーター
・アンテナ

上記のうち、ルーターとアンテナはPiso WiFiのボックスの外部に設置されることが多い。 特にアンテナはより広範囲に電波を飛ばす必要があるので、比較的高い位置に設置される。

ソフトウェアは、投入された硬貨の識別と利用可能な時間単位やデータ量単位でのインターネット接続を管理する。また、それらの料金を設定するWEBアプリが提供される。ベンダーによっては提供者向けに、複数のPiso WiFiをクラウドで管理するアプリが提供される。

画像 : 現地のPisoWiFi自動販売機 ※著者撮影

外観は写真のように、Piso WiFiだとすぐにわかる木製の箱に独特のLED、ペイントやステッカーが貼られていることも多い。大きさは様々である。

Piso WiFiの提供者は、ハードウエアやソフトウエアを複数のベンダーから選択して購入することも可能(DIYもOK)。

Piso WiFiの設置はアンテナとルーター以外は素人でも簡単に設置できる。

Piso WiFiが急速に広まっている理由

これまでにPiso WiFiは簡単な操作で格安で利用できることを説明してきたが、Piso WiFiはとにかく設置台数が多いのが特徴だ。

フィリピンには「サリサリストア」という雑貨店がどこにでもあると言われており、そのサリサリストアにPiso WiFiが設置されることが多い。したがって多くの場所でPiso WiFiが利用できるのである。

なぜ設置台数が多いのか?

実はこの点がPiso WiFiのもっとも革新的な点ともいえる。

Piso WiFiは、お金さえあれば、誰でもこの自動販売機を設置できるのである(特に法律的な制約はない)。

このビジネスモデルについて紹介しよう。

Piso WiFiが普及したもう一つの理由

Piso WiFiは、フィリピン国内で数多くのブランドが販売しており、価格は設置場所やブランドによって異なるが、一般的には10,000ペソ(約25,000円)〜20,000ペソ(約50,000円)程度で販売されている。

より高機能なアンテナやルーターを使用する場合や、設置場所が特殊であったり、アンテナを高い位置に設置する場合には、別途費用がかかるが、総じてさほど高額ではない。

サリサリストアなどの個人でも、多少無理をすれば購入できるのである。

初期費用や、ランニングコストを差し引いても、毎月2,000〜1,5000ペソの利益が出るという。日本円で言えば5000~37500円ほどになる。

Piso WiFiには、利用者が接続開始時に、スマートフォンの画面に表示される広告やプロモーションなどのオプションが用意されることも多く、この機能を利用することで、ビジネスオーナーは、広告収入を得ることもできる

・Piso WiFi専用の電源管理カスタムボードやコイン投入機を製造する中小企業。
・Piso WiFiの心臓部ともいえる、ハードウエアを管理・制御するソフトウエアを提供する小規模企業や個人。ソフトウエアはライセンス販売されることが多い。
・ブランド:ハードウエアやソフトウエアを組み合わせて、パッケージングして販売する小規模企業や個人。
・Piso WiFiを設置する小規模企業や個人。
・Piso WiFiを購入して提供するサリサリストアなどの個人店主、あるいは一般家庭。
・Piso WiFiを利用してインターネットに接続する利用者。

Piso WiFiエコシステムには上記のような企業、個人が関わっており、これらの人々がそれぞれ収入や恩恵を得られるWINx2の関係になっている。

またPiso WiFiの基本的な仕組み上、Piso WiFi自動販売機の設置してある場所からおよそ50〜100メートルくらいの範囲でしかサービスは提供できない。

そのため、ものすごく近所に思えるような位置に、他のPiso WiFiが設置されていることがザラなのである。

Piso WiFiがタケノコのようにあちこちに存在するのは、そのためである。

もちろん、まだまだ普及していない地域もあるので当分の間は増え続けるだろうが、利用者が少なくなったとしても、Piso WiFi提供者自身が使用すれば良いので、やめる要因にはつながりにくい。

以上の理由から、Piso WiFiは増殖を続け、どこでもインターネットに接続できるようになってきているのである。

Piso WiFiのメリット

Piso WiFiの最大のメリットは、硬貨で使用ができ、低価格で利用できることだろう。

好きな利用プランを選択できて、どこにでもあるのがメリットである。

Piso WiFiのデメリット

Piso WiFiはインターネット接続を手軽に利用できる反面、注意しなくていけない点がいくつかある。

セキュリティが不十分

・Piso WiFiは公共の場所に設置されており、その接続先が安全であることを保証することはできない。そのため個人情報や機密情報を扱う場合には利用を控えたほうが良い。

高速で安定した接続を保証するものではない

・利用者が多い場所や時間帯によっては、通信速度が遅延することがある。
・Piso WiFiの設備が古い、または低機種の場合も通信速度が遅延することがある。

利用プランの金額がバラバラ

・Piso WiFiの利用金額は運営者が自由に設定できるため、利用する場所によって金額が異なることもある。特に近隣にライバルのPiso WiFiが存在ない場合は、価格が高めに設定されていることがある。

フィリピンの地方で頻繁に発生する停電の対策が施されていない

ほとんどのPiso WiFiは停電対策をしていないので、次のようなトラブルが起こり得る。

・停電時には利用できない。
・投入したお金のカウントもリセットされることが多い。
・一時停止がリセットされる。
・そのため、大きな金額での利用は避けるべき。

電波の届く距離が短い

・Piso WiFi自動販売機の近くまで行かないと使えない。 この問題に対処するために、「Piso WiFi Sub Vendo」というものがある。 高機能なアンテナとルーターを組み合わせ、電波到達距離を稼いだ状態で、コイン投入機と最低限の構成の自動販売機を用意し、お金が投入されると、メインの設備経由でインターネットに接続する。

このように、メリットよりもデメリットの方が目立つが、まずはインターネットに接続できることが重要なので、将来改善されていくことを期待しよう。

最後に

「Piso WiFi」は、フィリピンのインターネット接続を、よりアクセスしやすく、手頃な価格にすることによって、フィリピンのデジタル格差を埋めるのに役立ち、起業家に新しいビジネスチャンスを提供し、フィリピンのインターネット産業の成長に貢献した。

インターネットが私たちの日常生活でますます重要な役割を果たす中、今後もPiso WiFiはフィリピン社会にとって重要な役割を果たすことが予想される。

またPiso WiFiは、フィリピン人にとっては大きな貢献であり、将来的には他国にも導入される可能性があるそうだ。

ただし、その利用にあたってはセキュリティや通信速度、安定性などの解決すべき課題も多い。

Piso WiFiとそのエコシステムが今後も発展を続け、より多くのフィリピン人やフィリピンに関わる日本人にとって、重要な役割を担うことを願ってやまない。

関連記事 : フィリピンで普及するPiso WiFiとは「フィリピンのインターネット接続環境」(前編)

 

lolonao

lolonao

投稿者の記事一覧

フィリピン在住の50代IoTエンジニア&ライター。
antiX Linuxを愛用中。頻繁に起こる日常のトラブルに奮闘中。二女の父だがフィリピン人妻とは別居中。趣味はプチDIYとAIや暗号資産、マイクロコントローラを含むIT業界ワッチング。

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 本場のメイド について調べてみた
  2. ルーマニアの奇想天外な観光スポット 「世界一陽気な墓、ドラキュラ…
  3. カウラ日本人戦没者墓地【実は存在していた日本の海外領土】
  4. カードを使いこなす最新情報 5選
  5. 「何でも食べる」 台湾原住民のゲテモノ料理 【コウモリの腸の刺身…
  6. 【イスラエルがイランを攻撃】 イスラエルの強硬路線と国際社会への…
  7. 中国の人身売買について調べてみた 「誘拐されて眼球を売られる」
  8. ウイグル族への迫害 「髪の毛を剃られ殴打され、謎の薬を投薬される…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

古宮城へ行ってみた【続日本100名城】

「三英傑」(織田信長、豊臣秀吉、徳川家康)を輩出した愛知県は、戦国時代には、織田信長と豊臣秀…

サハラ砂漠は現地の言葉で訳すと「砂漠砂漠」だった!

アフリカに北部にある世界最大の砂漠・サハラ砂漠。その面積は1000万平方キロメートル…

阿茶局(あちゃのつぼね)【家康が一番頼りにした女性】

阿茶局とは徳川家康には20人ほどの側室がいたが、その中でも一番信頼を得て側室でありながら…

【ブギウギ】 終戦後スズ子と愛助の生活はどうなる? 「歌手として復活を遂げた笠置シヅ子」

昭和20年8月15日、長かった戦争が終わりました。笠置シヅ子(当時は笠置シズ子)は、巡業先の…

「夫に捨てられた前妻が仲間を集めて後妻を襲撃する」 後妻打ち(うわなりうち)とは

後妻打ち(うわなりうち)とは、平安時代中期〜江戸時代前期にかけてあった慣習で、夫に捨てられた前妻(こ…

アーカイブ

PAGE TOP