「花魁」といえば江戸の大スター。
時代劇やお芝居、落語などでも華やかに演出されることが多いです。
春を売る仕事であるため、進んでなろうとする者は少なかったようですが、それでも花魁は庶民にとっては雲の上の存在。
実際に遊ぶことなど滅多に出来ることはありませんでした。
浮世絵に描かれたきらびやかな花魁を見てドキドキしたり、洒落本(遊廓などの遊所での遊びについて書かれたガイドブック)で、花魁の生活ぶりを読んで思いを馳せる、といった人が多かったでしょう。
今回の記事では、みんなの憧れの的であった花魁が使った「ありんす言葉」について紹介します。
みんなの憧れ!花魁ってどんな人?
「花魁」とは、幕府公認の遊郭における最高位の遊女を指します。
今風に言うと「高級娼婦」や「高級愛人」といったところでしょうか。
漫画や小説などのエンタメの題材にされたり、「花魁体験」などで実際にコスチュームを着る体験ができたり、現代でも人気があります。
花魁たちは、「家一軒分」と言われるほど高価な調度品で着飾っていました。
当時の浮世絵にも、髷にかんざしや櫛を飾り、美しい着物を着た豪華絢爛な装いをした花魁たちが多数描かれています。
これだけ華やかだと、当時の人たちが憧れた理由も何となく分かりますね。
最高位「呼び出し」の花魁は、諸芸に通じたスーパーウーマン!?
花魁と一口に言ってもランクがあり、最高位は「呼び出し(よびだし)」の花魁です。
かつては「太夫」が最高位でしたが、あまりに高額になりすぎたのか、宝暦(1751-1764年)の終わり頃に無くなりました。
「呼び出し」の花魁は、私たちが一般的に想像するような格子の中から客引きをする花魁たちとは違い、2階の自分の座敷で客を待ちます。
そして「お客さんが来たよ」と呼び出しがあると、ゆったりと迎えに行くのです。
呼び出しの花魁は、約3000人いる遊女の中でも4人ほどしかいなかったと言われています。
このレベルの花魁となると、あらゆる諸芸に通じており非常に高い教養を持っていました。
お花を生けて、お茶を点てて、和歌を詠み、書道も完璧。
さらに学者の先生に「ここ、間違っているんじゃないかしら?」なんて誤りを指摘した花魁もいたと言われています。
容姿端麗で芸事に秀でて教養が高く学識を備えている…最高クラスの花魁はまさに才色兼備のスーパーウーマンだったのです。
ありんす言葉は人造語!見世によって微妙に異なる言葉
そして吉原といえば、遊女たちが使う「ありんす言葉」が有名です。
これは、吉原は地方出身者が多かったため、訛りを消すために作られた人造語です。
落語などでも遊女たちが「~でありんす」という喋り方で演じられることが多いですが、すべての遊女たちが「ありんす言葉」を使っていたわけではありません。
実は見世(遊廓で遊女たちが客を誘うための座敷のこと)によって、微妙に言葉使いが違ったのです。
吉原の中でも大見世の松葉屋(まつばや)では「おす」
「じれっとうごさります」を「じれっとおす」
「ようござります」を「ようおす」
京ことばのような雅な雰囲気を感じられる言葉です。
そして松葉屋と並ぶくらいの大見世丁字屋(ちょうじや)では「ざんす」
山の手のご婦人たちが使う「ざます言葉」に似ていて、艶っぽさと色気を感じます。
そして扇谷(おうぎや)では「だんす」
「本当のことですか?」を「ほんだすかぇ?」と言います。
特徴的なのは「きさんじなもんだね」という言葉がよく使われていたこと。
この一語には「だめだね」と「イケてるね」という意味が両方含まれています。
現在の「ヤバい」に近い表現でしょうか。
「ヤバい」は若者を中心に良いことにも悪いことにも使われており「現代の日本は言葉が乱れている!」なんて批判がありますが、若者の感覚や話し言葉は今も昔も変わらないようです。
角玉屋は、他の見世より少し個性的な言葉を話していたようです。
「こっちこっち」と人を呼ぶときは「こんなこんな」
モテることを「ぼちぼち」、振られることを「ちゃきちゃき」など、江戸っ子の下町風な話し方を彷彿させる独特な言い回しが特徴的です。
他にも久喜萬字屋(くきまんじや)では「まし」「しなまし」、中萬字屋(なかまんじや)は「まし」など、一軒一軒話し方が違ったため、言葉を聞けばどこに所属している花魁かが分かったのです。
ちなみに落語やお芝居などに出てくる花魁は、自分のことを「わちき」と呼ぶことが多いですが、実際は「わっち」と言っていました。
少し男っぽくて乱暴な言い方に感じますが、これは「六方詞(ろっぽうことば)」と言い、町奴(まちやっこ)などが使う言葉でした。
町奴とは華美な服装をして,徒党を組んで市中を横行した町人身分の侠客のことです。
きれいな女性があえて男っぽい言葉を使うことでギャップが出て、色気が増して見えたのでしょう。
終わりに
花魁たちの「ありんす言葉」。
「奥ゆかしさ」と「粋」を感じる一方で、繊細で優美な響きも併せ持っており、江戸時代の風俗や文化をより一層華やかにしていました。
吉原の華やかな大舞台で輝いた花魁たちの独特の話し方に、多くの人々はうっとりと夢を見たに違いありません。
参考 :
お江戸でござる 監修:杉浦日向子 構成:深笛義也
落語で読み解く「お江戸」の事情 監修:中込重明
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