光る君へ

【光る君へ】 陰湿すぎる女性たちのイジメ。紫式部らがイヤな女に贈った嫌がらせのプレゼントとは

今も昔も「他人の不幸は蜜の味」なんて言いますが、特にイヤなヤツの不幸は格別の味わいですよね!

……まぁ皆さんはそんな事ないと思いますが、平安時代を生きたやんごとなき女性たちの中には、そういう方も少なからずいたようです。

という訳で、今回は紫式部たちがイヤな女に贈った嫌がらせエピソードを紹介。効果のほどは、いかがでしょうか。

久しぶりに聞いた彼女の噂

【光る君へ】

画像 : 左京の馬(イメージ)

今は昔、左京の馬(さきょうのうま)と呼ばれた女房がいました。

どういう女性なのかは詳しく伝わっていないものの、女房仲間からは嫌われていたようです。

「ねぇねぇ聞いた?あの左京が、理髪係を務めていたんですって!」

しばらく噂を聞かないから、どうした事かと思っていたら、藤原実成女(藤原公季の孫娘で、道長の従姪)に仕えていたとか。

理髪係と聞いて、現代的な感覚なら「ヘアスタイリストさんか。オシャレな女性だったのだろうな」と思うことでしょう。

しかし当時の理髪係は下働きの仕事。左京の嫌われぶりから察するに、元はそれより高い身分だったものと思われます。

もしかしたら、左京の馬はいわゆる「意識高い系女子」で周囲を見下していたら、気づけば落ちぶれてしまったパターンかも知れません。

現代でも、そういうザマ見ろ系のストーリーって一定の人気がありますよね。

「あんなに威張り散らしていた左京の馬が、今では理髪係なんてね」

「まったく、いい気味だわぁ。このまま見て見ぬふりをしてやるべきかしら?」

「何を言ってるのよ。この際だから『私たちは、貴女の存在=惨めな現状に気づいている』って勘づかせてやらなくちゃ」

「そうそう。でも後から報復されないように、巧妙な手口でね」

「いい事思いついた!表向きは贈り物をしてやるのよ。そうすれば、隠されたメッセージに気づいて不快になっても、私たちを責められないわ」

それがいい、賛成!賛成!の大合唱。さっそく彼女たちは大はりきりで嫌がらせプレゼントを選び始めたのです。

無邪気な彰子をはぐらかす

画像 : 藤原彰子。『紫式部日記絵巻』より

「……よし、これでオッケー!」

果たして彼女たちが選んだ左京の馬へのプレゼントがこちら。

一、扇(蓬莱の絵が描かれている)

一、櫛(とても湾曲している)

これでもかとばかり飾りつけて、左京の馬へ贈ろうとしたその時です。

「ねぇ。それはどなたへの贈り物?」

声の主は、紫式部たちが仕えていた藤原彰子。無邪気な彼女は、プレゼントに忍ばされた悪意になど微塵も気づきません。

「せっかくだから、もっとよい品をたくさん贈って差し上げてはどうかしら?」

それを聞いて、女房たちは大慌て。もし彰子が贈り物に一枚かんでいたとなれば、後からどんなトラブルに発展するか、分かったものではありません。

「いえいえ……これはあくまでも私的な贈り物にございますから、あんまり大袈裟にしてしまうのも却って失礼なんでございますのよ?」

「……そういうモノなの?」

「えぇ、えぇ。そうですとも。そういうモノでござーますのホホホ……」

とまぁ何だかんだと言いつくろって、贈り物は左京の馬へ届けられたのでした。

嫌がらせが表沙汰にならないよう、偽名を使って向こうに面の割れてない者に届けさせる念の入れようだったのは、言うまでもありませんね。

扇と櫛に隠されたメッセージ

扇に込められた意味は(イメージ)

ところで、女房たちが左京の馬に贈った扇と櫛には、どういう意味があったのでしょうか。

先ほど扇には蓬莱(ほうらい)の絵が描かれているとありました。これは漢詩集「新楽府(しんがふ)」に収録された「海慢慢(かいまんまん)」が元ネタです。

海慢慢とは「海を漂流する」という意味。伝説の地「蓬莱」にあるという不老不死の薬を求め、船出した若い男女が、蓬莱を発見できないまま船の中で年老いていくという物語です。

つまり蓬莱の絵とは「気づけばあなたも年老いた≒落ちぶれたものですね」というメッセージになります。「新楽府」の知識がないとなかなか伝わらないと思いますが……。

また、湾曲している櫛は若者向けのデザインです。これも「いい歳をして、無理に若作りしていますね」というメッセージです。

歳をとって毛髪が少なくなってくると、頭皮のラインに沿って湾曲した櫛の方が使い勝手がよさそうに思えますが、ともあれ真っすぐな櫛が相応な年齢だったのでしょう。

「あの左京に、この嫌味が解るかしら?まぁ、解らない方が幸せってモンよね。まったく、無知がかえって羨ましいわぁ……」

紫式部の、ため息とも失笑ともつかない息づかいが聞こえてきそうですね。

終わりに

月岡芳年「古今姫鑑 紫式部」

以上、紫式部たちの嫌がらせエピソードを紹介しました。

紫式部が主犯だったとは思えない(どんなに嫌っていても、憎悪の矢面に立つようなことは避けるでしょう)ものの、見逃している時点でもう共犯と言えるでしょう。

恐らく大河ドラマでは演じないでしょうが、何とも彼女らしい陰湿さと言いますか……左京の馬が知らずにいたことを願わずにはいられませんね。

※参考文献:

  • 岡本梨奈『面白すぎて誰かに話したくなる紫式部日記』リベラル新書、2023年11月
角田晶生(つのだ あきお)

角田晶生(つのだ あきお)

投稿者の記事一覧

フリーライター。日本の歴史文化をメインに、時代の行間に血を通わせる文章を心がけております。(ほか政治経済・安全保障・人材育成など)※お仕事相談は tsunodaakio☆gmail.com ☆→@

このたび日本史専門サイトを立ち上げました。こちらもよろしくお願いします。
時代の隙間をのぞき込む日本史よみものサイト「歴史屋」https://rekishiya.com/

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 蛇の怨霊に憑り殺された藤原道兼の長男・福足君とは 【光る君へ】
  2. 【光る君へ】源氏物語の主人公・光源氏はマザコンで少女嗜好のヤバい…
  3. 紫式部は『源氏物語』を書いた罪で地獄に堕ちていた?
  4. 【光る君へ】 地方の最高責任者「受領」とは? 「治安の悪化と武士…
  5. 血の涙で抗議した藤原為時。淡路守が不満だった理由は 【光る君へ】…
  6. 実は凡庸なんかじゃなかった!紫式部の兄弟・藤原惟規の活躍 【光る…
  7. 【光る君へ】変なアダ名をつけないで!紫式部と険悪だった左衛門の内…
  8. 平安時代の「内裏」での女性の役職とは? 【光る君へ】

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

なぜクリスマスツリーを飾るのか?【実は北欧神話に起源があった?】

世の中にはクリスマスを連想させる様々なアイテムがあるが、クリスマスツリーはその最たるものだろ…

【荒んでいた平安時代】心の拠りどころを神仏に託した2人の法皇・花山院と後白河院

花山法皇と後白河法皇。霊場との関わりを紹介平安時代は、その名からして「平和で安らかな時代…

「元寇」の真実、台風で撃退は本当?

日本は島国である。それによるメリットもデメリットもあったのだが、歴史的に見ると、「海外からの…

禁門の変 ~幕末のターニングポイントとなった京都市街戦

朝敵となった長州藩禁門の変(きんもんのへん)は、元治元年7月(1864年8月)に京で発生…

肝っ玉母さんだった家康の次女・督姫 「池田輝政を大出世させた 超あげまん」

督姫とは督姫(とくひめ)とは、徳川家康と側室・西郡局との間に生まれた次女である。…

アーカイブ

PAGE TOP