『古事記』とは
『古事記』は、日本最古の歴史書であり、奈良時代の712年に完成したものである。
日本の古代の歴史や神話が記されていたとされる『帝紀』や『旧辞』等などを丸暗記していた稗田阿礼(ひえだのあれ)の口述を基に、太安万侶(おおのやすまろ)が編纂したとされている。(※帝紀、旧辞は古くに失われている)
『古事記』は、神話、伝説、歴史を網羅しており、天地創造から始まり、神々の物語や推古天皇の時代に至るまでの出来事を詳述している。
今回は特に有名な逸話である、天岩戸隠れについてわかりやすく紹介したい。
スサノオ、追放される
イザナギの顔から生まれた三貴子(三柱の尊い神様)、アマテラス、ツクヨミ、スサノオ。
アマテラスは太陽を司る神で、八百万の神々の最高神とされている。
アマテラスは天上界で昼の世界の統治を任され、ツクヨミは夜の世界の統治を任された。
一方、その末弟であるスサノオは、海原の統治を任されたが、これがとんでもない暴れん坊であった。
仕事はサボるわ、物は壊しまくるわ、挙句の果てには「かあちゃんに会いたい」と泣き喚いて、何かとイザナギを困らせた。
痺れを切らしたイザナギは、スサノオを神の国から追放し、神の身分を剥奪した。
「お前はもう知らん。どこでも行ったらええ、好きにせい」
アマテラス、武装する
追放命令を受けたスサノオは、とりあえず姉であるアマテラスに挨拶しにいくことにした。
スサノオが天上界へ向かっていることを耳にした天上界の神々は、慌てふためいた。
スサノオが、天上界を乗っ取りに来ると勘ぐったのだ。
「アマテラスはん、大変でっせ」
「なんやのん」
「ス、ス、スサノオはんがこちらに向かってるて……!武装した方がええんとちゃいますか?」
「なんやて!?すぐフル装備持ってきて!」
こんな具合に、フルアーマーで弓を引きながらスサノオを出迎えたアマテラス。
一方、スサノオの方はアマテラスと戦う気も、天上界を乗っ取る気もさらさらなく、ただ姉に会いに来ただけだった。
「姉さん、なんですのんその恰好。わたしはただ別れの挨拶に来ただけですのに」
「嘘おっしゃい。あんた天上界乗っ取る気やろ!」
「嘘ちゃいまんがな!ほな神々に誓い立てて勝負して、真偽を確かめましょうや」
「よっしゃ、やったろやないかい」
こうして誓約(うけい)により、スサノオに謀反の気がないか確かめた結果、スサノオは白だった。
「ほら、言いましたやん。わたしはピュアホワイトですわ!わたしの勝ちでええでっしゃろ?」
「わかりました、今回はわたしの負けです」
アマテラスがそう言った途端に、今までのしおらしい態度を一変させたスサノオは、ニタっと不敵な笑みを浮かべて走り去ってしまった。
スサノオ、暴れまわる
さて、アマテラスとの勝負に勝ったスサノオが大人しく帰ったかというと、そんなはずがない。
当初は本当に謀反の気などなかったものの、実の姉に疑われ、弓矢まで向けられたのだ。
さすがに気分のいいものではなかった。
スサノオはその腹いせに、天上界の田んぼの畦(あぜ)道を埋めたり、アマテラスに捧げられた穀物を食べる神殿に大量の糞をまき散らしたり、とにかくやりたい放題の暴挙に出た。
これを見た天上界の神々が、アマテラスに報告すると、
「あぁ、糞みたいなんは吐しゃ物や、きっと酔っ払ったんやろ。田の畔も、こっちの方がもっと穀物とれる思たんちゃうかなぁ」
と、スサノオを咎めるどころか、庇ったのだ。
スサノオを疑って悪かったと思っていたのだろうが、この判断がスサノオをさらにつけあがらせることになる。
アマテラス、遂に引きこもる
ある日、アマテラスが服織女(服飾職人)とともに、神々が着る服を織っているときのこと。
機織り場の屋根がベキベキと音を立てて割れ、頭上から身体中の皮を剥がされた馬が落ちてきた。
これに驚いたアマテラスと服織女たちは、各々悲鳴を上げた。
服織女のうちの一人は、あまりの衝撃にピョーンと跳ねて落ちたところに、機織り機の尖った破片があり、それが陰部に突き刺さって死んでしまった。
「一体誰がこんなひどいことを……」
もちろん、犯人はスサノオである。
「一度は庇った弟だが、もう耐えられない……」
そう思ったアマテラスは、天の岩屋という宮殿の岩の戸を開いて中に入り、内側から重い岩の戸を閉めて引きこもってしまった。
オモイカネ
アマテラスが岩屋戸に引きこもってしまったがために、世界は日の光を失い、辺りは真っ暗。
穀物は枯れ、悪い神々がはしゃぎ始め、ありとあらゆる災いが起こり始めた。
「このままではいかん」と思った神々は会議を開き、天上界No.1ブレーンであるオモイカネの指示の元、アマテラスを引っ張り出す作戦を立てた。
「まずは長鳴鳥(鶏)たくさん集めてコケコッコー言うて鳴かせよう、ほんだら悪い神々は消える!」
「次にパーティーみたいに装飾なんかもジャラジャラ付けて、岩戸の前に八咫鏡(やたのかがみ)をスタンバイ!アメノコヤネが祝詞を読む!」
「タヂカラオノカミは岩戸の陰にスタンバイ!アメノウズメが踊る!アマテラスはんが出てくる!これで一件落着や」
こうして神々はオモイカネの言う通り準備を進め、アメノコヤネは祝詞を読み、タヂカラオノカミがスタンバイしたところで、アメノウズメが軽快に踊り始めた。
徐々に踊りがヒートアップしていくアメノウズメは、次第に衣服がはだけ、しまいには乳房も何もかも丸出しの裸同然で踊り狂った。
これを見ていた周りの神々は、大爆笑した。
長鳴鳥はより一層大きく鳴き、アメノウズメはさらに激しく踊り、神々は笑い転げ、祭りは最高潮となった。
一方、岩屋戸の中にいたアマテラスは不審に思っていた。
「わたしが居なくて外は真っ暗なはずやのに、なんであんなに楽しそうなんやろか」
アマテラスが岩屋戸を細く開き、アメノウズメにこう尋ねた。
「これこれ、あんたら、何がそんなにおもろいのんや」
「あぁ、アマテラスはん。あなたよりも尊いな神様がいらっしゃるもんで、みんなで宴開いてるんですわ」
「わたしより尊い神様?どんな神様やの」
アマテラスが岩戸の隙間から外を覗くと、そこには八咫鏡に写ったアマテラスの姿が。
「これがわたしより尊い神様?もうちょっと近くで見たい」
と身を乗り出した隙を狙って、タヂカラオノカミがアマテラスの手を取って岩屋から引きずり出し、即座に岩の戸を閉じてしめ縄を張った。
「なんやのん、さっきの、わたしかいな!」
こうしてアマテラスが戻ってきた世界は、光を取り戻した。
おわりに
一説には、天の岩戸隠れの伝説は「日食」に対する人々の畏怖を表しているという。
また、神々が岩戸の前で楽器を用いて歌ったり踊ったりしたことが、神楽の起源であるとされている。
義務教育でも名前だけはさらっと出てくる古事記だが、「どうも難しそうで読む気にならない」という人は少なくないだろう。
しかし、古事記を知れば神社巡りも楽しくなり、私たちの生活に根付いた日本文化の起源に気付くことができる。
たくさんの人に古事記を楽しく読んでいただけたら幸いである。
参考文献
「眠れないほど面白い『古事記』」由良弥生
「口約古事記」町田康
文 / 小森涼子
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