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名作になれなかった迷作 『エガオノダイカ』

知る人ぞ知る?タツノコプロ55周年記念作品

株式会社タツノコプロといえば、数々のヒット作を生み出した日本を代表するアニメ制作会社としてファンの間ではお馴染みの存在である。

筆者も小学生の頃に再放送されていた『グズラ(おらぁグズラだど)』や『ハクション大魔王』といった名作のお世話になった過去があるが、そんなタツノコプロの創立55周年記念作品として制作されたのが『エガオノダイカ』である。

ソレイユ王国の王女ユウキ・ソレイユとグランディーガ帝国の軍人ステラ・シャイニングという対局的な人生を送って来た二人の主人公が出会うまでを描いた作品で、戦闘ロボットによる戦争ものという人気の高いテーマで期待も高かったが、アニメファンの間で話題にならない事からも分かる通り、結果としては「不発」に終わっている。

普通に作れば間違いなく売れたはずの「鉄板」テーマが何故外れてしまったのか。

今回は、名作になる要素を持ちながら不発に終わった『エガオノダイカ』を紹介する。

『エガオノダイカ』のあらすじ

遠い未来、地球を旅立った人類は新たな惑星「ノウェ=ディルクム」へと移住し、新たな星では新たな国が生まれていた。

その新たな国の一つであるソレイユ王国の王女、ユウキ・ソレイユは、忠実で優しい家臣に囲まれながら平和な日々を幸せに暮らしていた。

しかし、その平和は見せ掛けのものであり、実際は隣国のグランディーガ帝国と戦闘状態にあった。

周囲は戦争の事実をユウキに隠して内密に事を終わらせようとしていたが、ユウキの側近の一人であるヨシュア・イングラムの戦死によって全てが露見してしまう。

自分に嘘の報告をしていた事に加え、兄妹同然の存在だったヨシュアの死によってユウキは自暴自棄になるが、これ以上の犠牲を出さないよう、帝国と戦う事を決意する。

先行配信視聴時の期待と現実

2019年の冬アニメで何を見ようか考えていた時に『エガオノダイカ』のキービジュアルを見て視聴を決めた訳だが、放送開始直前まで1話の先行配信が行われていたので、早速視聴した。

王国と帝国の戦闘が行われているラストシーンをカットした事によって視聴者はユウキ同様戦争の事実を知らないまま放送開始を迎える訳だが、戦闘の模擬訓練に参加したユウキが戦略家として才能の片鱗を見せるシーンがあり、ユウキが戦争で活躍するフラグだと誰もが期待していた。

しかし、ヨシュアが2話で死亡という予想外すぎる展開から全てが狂い始め、ユウキも帝国と戦う事を決意した割には「どちらも犠牲を出したくない」と逃げるだけで、迎撃戦以外はまともに戦わず、しかも戦闘に勝利したら敵の残党を追撃せず即座に自軍を撤収させるという甘さは才能の無駄遣いであり、拍子抜けどころではなかった。(ナレーションによるとユウキは帝国軍を手玉に取っていたようだが、見る限りほぼワンパターンの作戦で、それが2ヶ月以上も通用する時点で帝国は無能な連中しかいないのかと疑ってしまう

ダブル主人公は必要だったのか

ここまでユウキ・ソレイユの視点で書いて来たが、忘れてならないのはこの作品にはもう一人主人公が存在する。

帝国の兵士ステラ・シャイニングは幼少時の記憶がなく、養子として迎えられた家から冷遇されて逃げ出した過去を持っていた。

生きるために衣食住の保証された軍へと入った訳だが、前にいた家で学んだ処世術として作り笑いを浮かべるだけで周囲に感情を見せようとしなかった。

ステラをメインとしたストーリーは逃げるユウキを追う帝国軍の視点になる訳だが、12話しかないのに主人公を二人も置いた関係でどうしてもキャラに対する掘り下げや感情移入が薄くなってしまう。

これ以上犠牲を出したくない」という理想に固執して自身の軍事的才能を活かそうとせず、戦闘でも犠牲を出さないよう消極的な手ばかり打って逆に自分達の犠牲を大きくしてしまうユウキに感情移入するのも難しいが、ステラもモブとの戦闘が大半で、主人公らしい戦果を挙げたとは言い難い。

それでも、悪手ばかりで周囲との関係も悪くなるばかりのユウキに比べたらチームとしての統制が取れて無駄な動きがない分安心して見られたが、意図がどうあれここまで主人公二人の扱いが違うとダブル主人公は必要だったのかという疑問が生じる。(まだ12歳の子供であるユウキに主人公ムーブを期待するのも酷ではあるが、ヨシュア死後に披露した顔芸によって「ユウキ様の顔芸で遊ぼう」と本来の狙いとは違う方面でネタにされて話題になるのは皮肉である

どうすれば名作となったのか

ロボットによる戦争ものという人気のテーマに加え、主人公の覚醒フラグも1話から披露して視聴者への掴みは完璧だった。

戦闘ロボットである「テウルギア」の稼働や生活に必要な動力エネルギーを生み出すクラルスラピス(以後「クラルス」)というオリジナルの鉱石の存在や、最後に世界中のクラルスを強制停止させて世界を滅ぼすか降伏するかという究極の決断に迫られる王道展開も悪くはなかった。

しかし、ユウキの成長がほぼ見られず、おまけにユウキにとって大切な存在だった家臣4人全員死亡というのも後味が悪すぎる。(但し、事実を隠して独断で戦争を行ったり降伏を決断したユウキを逃がして戦況を泥沼化させたりと正直ユウキの邪魔しかしていないので、ユウキにとって自分の邪魔をする連中が死んでむしろやりやすくなった事は否定出来ない

一方で帝国のステラの所属する分隊は途中交代した補充要員含め7人いたが、5人最後まで生き残り、片方だけ失いすぎている感が否めない。
BDのブックレットに収録された監督のインタビューではステラを姉のように慕うリリィ・エアハートを生かすか殺すかで現場は揉めたらしいが、個人的にはユウキとのバランスを取るためリリィも終盤で戦死するシナリオの方が良かったと思う。

敵と味方をはっきりさせてユウキかステラのどちらかをメインに据えていれば12話でも話は成立させられたが、1クールでは足りないボリュームを無理矢理12話に詰め込んだため何もかもが中途半端になってしまった。

最後は世界を滅ぼしてバッドエンドにした方がいっそ清々しいと思っていたが、最後に出会ったユウキとステラが世界を滅ぼすつもりでクラルスを停止させても木炭自動車など一昔前の技術で何とかなったというこれまた拍子抜けな結末だった。(そもそも12歳の子供であるユウキに多くを期待する事自体が間違いであり、戦争とは何かを理解した女君主兼司令官なら話は違っていたと思う

監督によると戦争のリアルを描きたかったとの事だが、現在進行形で起きている戦争のニュースを見て笑顔になる人間は誰もいないように、戦争とは「そんなもの」である。

その「リアル」をアニメに持ち込む事も決して悪くはないのだが、設定や構成、話数など何かが違えば評価はもっと変わっていたはずである。

『エガオノダイカ』に期待していた分、厳しい批評が目立ってしまったが、実は隠された小ネタや初見では気付かない描写など非常に作り込まれた作品でもあるので、別の機会で紹介したい。

関連記事:
実は作り込まれている『エガオノダイカ』の小ネタ

 

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