心身ともに寛いでいる状態を表した『チル(Chill)』や、暖かくて心地が良い空間を示す『コージー(Cozy)』といった英語での感情表現は、あたかも昔から日本で使われていたかのように自然と会話の中に溶け込んでいる。
しかし、この『コージー』や『チル』という言葉が知られる以前に、「ヒュッゲ(Hygge)」というデンマーク語が、ひと足早く日本で認知されていたことをご存知だろうか。
2016年頃から世界中で注目され始めた「ヒュッゲ」は、デンマークで暮らす人々の生活には欠かせない、幸せを生み出す秘訣を物語る言葉である。
キャンドルの儚い灯りが創り出す「ヒュッゲ」な空間
日常生活の中に、安らぎと寛ぎを感じている状態を表す『コージー』や『チル』の先駆けとなったデンマーク語の「ヒュッゲ」も、心が落ち着いている状態を示す表現の一つではあるが、「ヒュッゲ」な生活を送るためには、予め準備しておくアイテムであったり、安らげる時間のことだけに精神を集中させるといった、いくつかのルールに従う必要がある。
デンマークでは、ほんのりと部屋を暖かい雰囲気で包み込む『キャンドル』の儚げな明かりこそが、心の幸せを生み出し、精神の安定を満たしてくれるアイテムであると考えられているため、心身ともに癒される「ヒュッゲ」な空間を演出する際には、いちばんにキャンドルを灯す。
そうすることで、部屋全体に広がる暖かみのあるオレンジ色の明かりと、キャンドルの小さな炎の揺らぎで緊張や疲れをゆっくりと解せる空間が出来上がるからだ。
日常的にキャンドルの明かりを楽しむデンマークは、キャンドルの消費量がヨーロッパで断トツの一位ともいわれている程で、陽が沈むと同時にキャンドルを灯す習慣は、北欧に属する国ならではの光景でもある。
「ヒュッゲ」なしのデンマーク生活は考えられない!?
10月から3月にかけて長く寒い冬が訪れるデンマークでは、春が訪れるまでの間、暖かい部屋の中で過ごす時間が必然的に増えてくる。
外も薄暗くなる寒い季節を、部屋の中という限られた空間でどのように乗り越えていくか、どうしたら充実した日常に変えられるのかと、人々があらゆる方法を試して行き着いたのが、「ヒュッゲ」という過ごし方だった。
寝室にキャンドルを並べ、暖かい飲み物に毛布を合わせて優雅に寛ぐ時間
1人でコーヒーを飲みながら仕事と距離を置く時間
週末に家族と過ごす時間
友人と会ってたわいも無い会話をする時間
今この瞬間が『居心地の良い癒しの積み重ねと、精神の健康維持、人々が幸せになるためのヒント全てが詰まった「ヒュッゲ」を空間である。』と断言できること全てを、デンマークの人々は「ヒュッゲ」という一言で表現する。
「ヒュッゲ的な過ごし方」「ヒュッゲな生き方」「ヒュッゲしない?(少し休憩しない?と相手に声をかけるニュアンスに近い表現)」など、会話の中に形容詞や動詞で使用していることからも、デンマークにおける「ヒュッゲ」は、人々の生活の一部であり、目の前にあって当たり前の存在となっていることが分かる。
デンマークの教育方針が「ヒュッゲ」そのもの
デンマークが属する北欧諸国には、『子供には自分の得意や可能性を生かして幸せに生きる道を見つけさせる。』という教育方針が、学校や各家庭内で積極的に生かされている。
そのため、北欧に住む人々は、どのように前に進んでいけば自分は幸せに生きていけるのだろうかと、幸せな人生の歩み方を自ら考える力が幼い頃から養われている特徴がある。
デンマークに存在する無理なく毎日を過ごせる居心地の良い「ヒュッゲ」な時間は、そんな幼少期から養われた、『幸せ精神』から形成され始めたものであると同時に、国全体で自らの幸せを切り拓く思想を生活の基盤にしているデンマーク社会だからこそ実現できている国民一人一人の心の余裕を象徴したものだ。
「ヒュッゲ」が伝える幸せと癒しのヒント
知らず知らずのうちに、周囲との価値観や進むスピードに合わせることだけに夢中になり、改めて心の底から『居心地が良い。』と感じられる時間を持てずに過ごしてしまうことが日常化している方がほとんどではないだろうか。
社会に出て働いていれば、良い結果に繋がるまでに時間が掛かってしまっていたり、前に進めないでいると、それだけで人生が失敗しているような圧迫感を誰もが一度は感じる瞬間があるものだ。
そんな時こそ、細やかな安らぎや癒しの積み重ねと、精神の健康維持、人々が幸せになるためのヒント全てが詰まった「ヒュッゲ」を取り入れる習慣を心掛けてみて欲しい。
デンマークで実践されている「ヒュッゲな生き方」を参考にすることで、自分のためだけに使う時間の大切さや、自信を見失わない人生を切り拓く新たな趣向を凝らす機会になるはずだ。
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