世界情勢が不安定になると必ずといっていいほど注目されるのが、アメリカ海軍の原子力空母の動向である。
海軍のいえば「戦艦」をイメージしてしまうが、戦艦は過去の遺物となった。
現在の海上において、戦略的にもっとも重要なのが空母なのだ。
なかでも、世界最大10隻の原子力空母を擁するアメリカ海軍の空母を見ていきたい。
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空母の台頭
第二次世界大戦までは、大口径の砲撃によって陸上の敵を攻撃する戦艦が海軍の主力だった。敵艦への打撃力、敵からの攻撃に耐える堅牢な防御力。それらを活かして、友軍の上陸作戦にも大いに貢献した。
大日本帝国海軍でも「大艦巨砲主義」に基づき戦艦を建造していたことは有名だ。
※アイオワ
しかし、それは航空機の発達と共に役割が減ることになる。当時の航空機は航続距離も短く、武器の搭載量も少なかった。しかし、それを補う形で空母が登場すると、実戦でその戦力の高さ、機動性、コストパフォーマンスの良さを発揮し、主力の座を戦艦から奪ったのである。
アイオワ級と呼ばれる戦艦4隻のうち、「ミズーリ」と「ウィスコンシン」が湾岸戦争に参加したが、これを最後にアメリカ海軍から戦艦は消えた。
一方、艦載機の性能が向上したこと、動力に原子力を使えるようになったことで空母はさらなる発展を遂げることになる。
空母打撃群
現代の空母は、アメリカ海軍では空母打撃群というグループで運用される。航空母艦(空母)を中心にその艦載機、複数の護衛艦、潜水艦で構成される。
有事となったときにはまず、巡洋艦から敵国の主要な施設に巡航ミサイルを撃ち込む。基地、滑走路、発電所など遠距離から敵の戦力を削ぐわけだ。その後は、空母の艦載機であるF/A-18ホーネットが敵の迎撃機を征圧しながら、地上に残った施設を爆撃するといった手順になる。
※巡航ミサイルの発射
実際はもっと複雑だが、簡単にいえば「打撃群により敵の戦力を大幅に削る」ことが目的だった。空の脅威が減ったところに海兵隊や陸軍が上陸し、地上戦闘を展開するのが現代の戦い方なのだ。
※エイブラハム・リンカーンを中心とする空母打撃群
空母打撃群を構成する艦艇の総乗組員は7,000人以上になる。
一隻の空母、5~10隻の護衛艦、1~2隻の補給艦から構成されており、空母だけでも乗員は5000人以上という規模だ。内部には売店などもあり海上を移動する小さな街とも言われる。これにより、空母は周囲を護られながら、艦載機の運用能力を発揮させることができるのだ。
「アメリカの空母は小国なら単体で壊滅させられる」と言われる所以である。
原子力空母のメリット・デメリット
2017年現在、原子力空母を運用しているのはアメリカ海軍のニミッツ級10隻とフランス海軍の「シャルル・ド・ゴール」の計11隻だけだある。
他の国も空母は運用しているが、原子力を燃料とする高度な技術が必要なため、また製造費の高さからディーゼル、ガスタービンなど通常型エンジンを使った小型空母だけだ。
現在、アメリカ海軍のニミッツ級は、原子力空母として最初に量産・配備された空母である。就役時には、第二次世界大戦中の技術から最新の技術までを採用した、アメリカ空母技術の集大成といわれた。
※ニミッツ級「トルーマン」の飛行甲板
では原子力空母というのは利点だけだろうか?
一番のメリットは、燃料消費の必要がないため理論上は世界中の海をいつまでも回れることだろう。同じ理由で燃料消費を気にせず長距離航海時には高速で移動できる。
液体燃料が必要ないというのは、重量軽減にもなり、代わりに他の物資を増加できる。発電電力が大きいために最新電子機器の莫大な消費電力に対応できるといったものがある。
欠点としては、原子力推進のエネルギーの大きさを活かすために構造が巨大化して費用が莫大になる。さらに当然ながら使用済み核廃棄物の処理や、万が一の原子炉事故のリスクを抱えている。
また、炉心交換や改装のために長期間、前線から離れなくてはいけない。この場合約18ヶ月程度で出来るようだが、そのためにアメリカ海軍は10隻の原子力空母を所有しながらも、すべてを同時に運用するのではなくローテーションで行っている。
巨大な海上基地
では、メリット・デメリットのどちらにも挙げられた大きさを見てみよう。
全長:約330m
全幅:約77m
最大速度:30ノット以上
その他、排水量などはここでは省略した。330mといってもピンと来ないが、日本だと大阪にある「あべのハルカス」が高さ300mである。これを横に寝かせたよりも長いということだ。
航空機とヘリコプターで最大90機までを艦載し、4機の蒸気カタパルトで射出できる。さらに甲板には射出時の摩擦軽減のため専用の塗料まで塗っているという。なお、一隻あたりの建造費は4000億円以上にもなる。
※ニミッツ級航空母艦
ニミッツ級は1975年に就役したニミッツに始まり、カール・ヴィンソン、ジョージ・ワシントン、ロナルド・レーガンなど錚々たる艦名が並ぶ。まさにニミッツ級はアメリカの力の象徴なのだ。
艦載機
空母の艦載機と言えばトム・クルーズ主演の映画「トップガン」で、F-14トムキャットが発艦するシーンが印象的だった。
現在では、トムキャットはすべて引退(トップガンは存在する)し、次世代のF/A-18ホーネットが主力の座を誇っている。トップガンではパイロットと後部座席のタンデム(二人乗り)という構造もストーリーの展開に絡んでゆく。
※F/A-18 ホーネット
しかし、F/A-18は一人で操縦できるため、現在はタンデム機というのは珍しくなってしまった。それは、コンピュータ技術の進歩により火器管制のための人員が必要なくなったためだ。また、劇中では空中戦の際には二人で敵を探していたが、現在は空中戦の前に敵を落とすことが前提のためにその必要もない。
最後に
世界がキナ臭くなると、こぞってメディアがアメリカ軍の空母を追う理由がわかった。
原子力空母は海軍だけではなく、アメリカ全軍にとって重要な存在なのだ。ちなみに日本にも横須賀を母港とする原子力空母があることを追記しておこう。
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