自然&動物

イングランドで愛される犬と猫たち【公務員として働く猫】

日本でもペットを愛する人々はとても多い。
平成29年の調査では、犬は約13パーセントの世帯が飼育、猫は約10パーセントの世帯が飼育しているそうだ。
犬、猫合わせて約1800万頭以上がペットとして飼われている。
動物を家族のように愛する文化は日本に限ったことではなく、世界中でペットは飼われているが、イングランドの王室では犬が、官庁では猫がそれぞれ重要なポストを担っている。

エリザベス女王2世の愛犬

イングランドで愛される犬と猫たち【公務員として働く猫】

画像:コーギー

現在のイギリス女王エリザベス2世がこよなく愛しているのは、かわいいかわいいコーギーである。
幼少期からこれまで、数多くのコーギーを飼育してきた。常に7匹ほどをペットとして飼っており、一時は同時に13匹も飼育していたという。

18歳の誕生日に父親にあたるジョージ6世から贈られたコーギーには「スーザン」と名付け、とても可愛がっていた。新婚旅行にも一緒に同行したというから、その溺愛ぶりは相当であった。
このスーザンから、エリザベス女王はコーギーのブリーディングを始めた。
2018年4月にはスーザンから14代目にあたるウィローが亡くなった。この死にエリザベス女王はとても悲しみ落ち込んだという。

ちなみに、女王はすでにコーギーのブリーディングをやめている。自分が死んでしまったときに残されるコーギーがいては可哀想だというのが理由だ。
本当にコーギーたちを愛しているからこその選択と思える。

公務員の肩書きを持つ猫

画像:ラリー(Wikiより引用)

イギリス首相官邸には、公式に公務員として飼われている猫がいることを知っているだろうか。
ロンドンの首相官邸には首相官邸ネズミ捕獲長という肩書きを持った猫がいる。
現在はラリーという猫がその役職を担っている。

首相官邸があるダウニング街は、昔からネズミがたくさん住み着いていて、ネズミ対策として猫をペットとして飼う風潮があった。
この風潮は1500年代のヘンリー8世の時代まで遡る。
1924年に正式に首相官邸ネズミ捕獲長(Chief Mouser to the Cabinet Office)という肩書きができ、これまで12匹の歴任者が首相官邸のネズミを捕まえてきた。
ちなみに年間10ポンドの俸給から猫の生活費を捻出している。

画像:パーマストン(Wikiより引用)

さらにいうと、首相官邸のそばの外務省ではパーマストンという猫が、大蔵省であはグラッドストーンという猫がそれぞれネズミの制圧に励んでいる。

パーマストンのネズミ捕獲能力は非常に高く評価されており人気も高いが、実のところラリーとはかなり仲が悪いらしい。
道端で激しい喧嘩をしているところをスクープされている。

再現された国王の犬

画像:キャバリア

現在の女王の犬好きと、現在イングランドのために働く猫の話をしたが、イングランドと動物の関係は現代に限らない。
16世紀以降のイングランド王室では小型犬を愛玩するのが流行した。
フランスでもパピヨンが流行し、肖像画を犬と一緒に描いてもらうことが貴族の女性たちのステータスになっていたこともある。
かわいい犬を連れていることが、高価なネックレスを着けているかのように意味のあることだったのだ。

ある意味アクセサリーのように使われる動物がかわいそうな気もするが、もちろん当時の貴族や王室の人々には動物たちへの深い愛があったはずなので、Win-Winの関係だったのだろう。

17世紀イングランドに話を戻すと、キャバリア・キングチャールズ・スパニエルという犬種がいる。
大きな耳が垂れていて、30センチ前後の体に大きなくりっとした目が特徴的な犬で、優しくのんびりとした性格で社交的である。
人に撫でられたり、スキンシップをとったりするのが好きで愛らしく、いかにも高貴な人々の社交に向いていそうである。
主に「キャバリア」と呼ばれるこの犬だが、その意味は「騎士」という意味である。
騎士道の精神を持ち、女性に優しく接する男性という意味合いだ。

※チャールズ1世 wikiより

また、名前にある「キングチャールズ」はイングランド国王であったチャールズ1世チャールズ2世のことであり、彼らがこの犬をたいへん可愛がっていたことから付けられた。
チャールズ2世は2匹のキャバリアを飼っていて、常に足元には犬の姿があったと言われている。

日本にも犬将軍と呼ばれる歴史上の人物がいるが、チャールズも国王の公務をするにあたって犬たちを同伴させていたので、こちらも犬国王と呼んでいいだろう。
チャールズ王たちは17世紀の国王だが、キャバリアという犬種ができあがったのは実は19世紀になってからだという。
それ以前には、パグが大流行したことから交配が進み、パグのような平たい鼻の犬種(キングチャールズ・スパニエル)にかわってしまっていた。

しかし国王と共に描かれた犬を再現したいという理由から、キングチャールズ・スパニエルという犬種から当時の絵に近い特徴を持った犬を使って固定化させた。
ブリーダーたちの努力から、現在の我々はチャールズ国王たちの愛玩心を再現することが可能なのである。

 

アバター

matsu3204

投稿者の記事一覧

大学時代にイングランド史を専攻。イングランド史に限らず、西洋史全般が好き。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 象への虐待について調べてみた 「タイやインドの観光の陰」
  2. 【オスマン帝国】後宮の女性たちが定期的に受けていた「恥ずかしい検…
  3. 【若く美しいカリスマ皇帝が豹変】 狂気に取り憑かれたカリギュラの…
  4. 【フランス最後の皇帝】 ナポレオン3世の栄光と苦悩
  5. 【チューリップバブル】世界最古のバブルについて調べてみた
  6. グランピングが日本で注目される理由 「アウトドア界の新しい逸材」…
  7. 台風について詳しく解説 【命名法、種類、熱帯低気圧との違い】
  8. イタリア中世の自治都市コムーネ・ヴェネチア共和国とは?

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

台湾の日本統治時代の監獄 「嘉義監獄」に行ってみた

日本統治時代の監獄台湾の嘉義市(ジアーイー/かぎし)では日本統治時代の監獄が保存され、現在は観光…

禁門の変 ~幕末のターニングポイントとなった京都市街戦

朝敵となった長州藩禁門の変(きんもんのへん)は、元治元年7月(1864年8月)に京で発生…

「チョコレートの歴史」について調べてみた

チョコレートの起源カカオはメソアメリカ(紀元前2000年以降栄えた文明。メキシコ高原から…

知られざる剣豪・高田三之丞「天下のお尋ね者から尾張柳生新陰流No.2へ」

高田三之丞とは高田三之丞(たかださんのじょう)は江戸時代の始め、尾張柳生新陰流のNo.2…

こんなにいるの? 古今東西さまざまな「ケンタウロス」の伝承

ケンタウロスは、ギリシャ神話に登場する「上半身が人間、下半身が馬」という異形の種族として広く…

アーカイブ

PAGE TOP