アメリカのテレビを独占するモンスターコンテンツ
アメリカのテレビの視聴者数を見ると、とあるコンテンツが上位を独占している。
1位 1億1440万人:第49回 (NBC・2015年2月)
2位 1億1220万人:第48回 (FOX・2014年2月)
3位 1億1190万人:第50回 (CBS・2016年2月)
4位 1億1130万人:第51回 (FOX・2017年2月)
4位 1億1130万人:第46回 (NBC・2012年2月)
6位 1億1100万人:第45回 (FOX・2011年2月)
7位 1億870万人:第47回 (CBS・2013年2月)
8位 1億650万人:第44回 (CBS・2010年2月)
9位 1億600万人:コメディドラマ“M.A.S.H”・シリーズ最終話 (CBS・1983年2月)
10位 1億340万人:第52回 (NBC・2018年2月)
9位の『M.A.S.H』最終回を除いて50回以上続く何かのイベントがランクインしているが、正解はNFLのチャンピオンを決めるスーパーボウルである。
日本においては馴染みの薄いスポーツであるが、歴代視聴者数トップ10のうち9位以外はスーパーボウルが独占という、正に「独擅場(どくせんじょう)」状態で、アメリカに於けるアメリカンフットボールの存在の大きさが分かる。(時代と人口が違うので簡単に比較は出来ないが、視聴率で見ると『M.A.S.H』は今でも他の追随を許さない77%という史上最高の視聴率を誇っている)
スーパーボウルは全世界で中継、及び配信されており、日本でも多くのNFLファンがリアルタイムで見ているが、一般的な知名度は高いとは言えない。(第52回スーパーボウルを見ていた当時FAのダルビッシュ有がフィラデルフィア・イーグルス優勝の瞬間に「#Eagles」とツイートしたら、本気なのか冗談なのか東北楽天ゴールデンイーグルスに移籍したと勘違いした日本の野球ファンからのリプライが殺到するという、NFLファンから見れば悲しい事件が発生している)
#Eagles 🎉🎉🎉
— ダルビッシュ有(Yu Darvish) (@faridyu) February 5, 2018
ネットやSNSで探さない限りフットボールファンと出会う機会は限られているが、メディアで取り上げられる機会が少ない事もあって、とにかく日本ではアメリカンフットボールの認知度は低い。
日本でNFLを放送しているNHKだが、NFLとの放映権契約が2020年で切れるため、更新されなければ今年が「ラストシーズン」となってしまうので何とか更新して欲しいところである。(SNSで知り合った関係者から、NFL中継の契約は2020年まではあるから2019年は大丈夫と聞いた話をTwitterに載せたら多くのNFLファンに拡散され「バズった」過去があるが、来年以降は本当に分からない)
少し前までは週に3試合放送していたのが1試合のみになるなどNHKも苦境に立たされているが、日本でNFLファンが少ない事の証明であり、自身が日本に於いてマイノリティである事は承知しているが、何故人々はここまでアメリカンフットボールで熱狂するのだろうか。
今回は、初心者の「壁」となるルール解説を中心に、アメリカンフットボールの魅力に迫る。
初心者のつまづく壁 ルールを解説
チェス(将棋)に例えられるように、フットボールは戦略的要素が強いスポーツであり、11人の選手を動かすコーチのプレーコールを含めた駆け引きが醍醐味だが、それは見ているうちに分かるようになるのでここでは書かない。
フットボールを紹介する際に最も難易度が高いのはルールを教える事だ。
勿論、ルールブックを隅から隅まで読むよう言っている訳ではない。
そもそも、毎年のようにルールが変わるため、ルールを完璧に理解している人間は存在しない。(子供の頃からプレーしているプロの選手でも知らないルールがあって視聴者と一緒に驚く事はザラである)
フットボールで覚えるべきルール(というより基本)は三つしかない。
1…3回の攻撃で1stダウンを更新する
2…クリア出来なければ4thダウンでパントかFGかギャンブルを選択する
3…ギャンブルで失敗したらその位置から相手の攻撃になる
この三つを押さえれば、フットボールは十分楽しめる。(反則などのルールはいくつもあるが、それを決めるのは審判であり、見ている側は気にしなくていい)
攻撃回数を数えるダウンは4thダウンまであるから攻撃権は4回では?という疑問はごもっともだが、それに対する答えが3つ目の基本である。
https://www.instagram.com/p/CIpWs98ByT4/
4thダウンで失敗したらその位置から相手の攻撃となるため、試合終盤に4点差以上で負けているといったシチュエーションでない限り、3rdダウンをクリア出来なければ「4回目の攻撃」としてパントかFGという二通りのキックを選択するのがセオリーである。(敵陣20ヤードで残り1ヤードだから無理矢理クリアを狙う場合も最近は増えているが、失敗しても即ピンチにはならないという心理的余裕と、クリアして攻撃を繋げる自信がある事が前提である)
ボールの形状からラグビーを連想するが、攻守が完全に分かれている事と、3回の攻撃で1stダウンを更新出来なければ攻守交代する事を考えると、むしろフットボールは野球に近いスポーツである。(4回ある攻撃権のうち3回の攻撃で10ヤード進むというのが分かりづらいだけで、ルール自体は野球よりも簡単である)
得点方法
フットボールの得点方法だが、大まかに3パターンある。
TD(タッチダウン)…6点
FG(フィールドゴール)…3点
セーフティ…攻撃側の選手がエンドゾーンで倒れた場合守備側に2点
セーフティを目にする機会は年に一回あるかないかであり、基本的に得点はTDかFGのどちらかである。
FGの3点よりもTDの方が入る得点は多いが、TDを決めた場合、PAT(ポイント・アフター・タッチダウン)といってボーナスポイントを狙う機会が得られる。
敵陣2ヤードからTDを決めたら2点
敵陣3ヤードから18ヤードFGを決めたら1点(NFLの場合は敵陣15ヤードから30ヤードFGを決めたら1点)
INT(インターセプト)やファンブルで守備側がボールを奪ってそのままエンドゾーンに入ったら守備側に2点入るが、PATの失敗から守備の得点になる事はほとんどないため、基本的にTDを決めたチームが1点と2点のどちらを狙うかに注目すればいい。
プロアマ関係なくFGの方が成功率が高いため基本的には1点を狙うが、試合の最終盤に同点、もしくは逆転のため2点が必要になった時は2ポイントコンバージョンを狙う。(2017年のフィラデルフィア・イーグルス対ダラス・カウボーイズの試合でキッカーのジェイク・エリオットが脳震盪で試合に出られなくなったため、事実上2ポイントしか選択肢がなくなったという例もあるが、キッカーの負傷は滅多に起きないレアケースである)
エンドゾーンまで2ヤードしかないため一見すると簡単に見えるが、エンドゾーンにディフェンスの選手が密集しているため、成功率は良くて5割と想像よりも低い。
近くて遠い2ヤードの攻防もフットボールの醍醐味であり、2ポイントコンバージョンが試合を決めるケースも多々あるため、TDが決まったら時間と点差に注目して欲しい。
NFLとカレッジのルールの違い
フットボールは15分4Q(クォーター)の60分で試合が行われる。
もっとも、頻繁に時間が止まるため実際は3時間超えの長丁場になる事もザラである。
勝っているチームは少しでも時間を使って相手の攻撃時間を奪い、負けているチームは少しでも時間を節約しながら得点を狙う。
両チームの時間の使い方もポイントだが、NFLとカレッジ(基本的にはほぼ国際ルール)では時間に関するルールで細かいところが違うので、代表的なルールを紹介する。
カレッジでは1stダウンを更新する度にメジャー(1stダウンの位置を示す人)の移動を待つため時間が止まる(平均は測っていないが、時間が再び動くまで約7秒程度)
NFLはタイムアウトを使うか、前後半残り5分以降にサイドラインに出なければ1stダウン更新後も時間は動き続ける
カレッジは前後半2分を過ぎても時間は動き続けるが、NFLは前後半残り2分で自動的に時間が止まる(ツーミニッツウォーニング)
文章よりも実際に試合を見て流れを掴んだ方が早いが、時間に関するルールだけでも結構違う。
どちらのルールが優れているという事はないが、プロのNFLよりもアマチュアのカレッジの方が頻繁に時間が止まるため、試合時間はNFLより長くなる傾向にある。(2017年のカレッジ決勝で、クレムソン大学が1stダウンをクリアした瞬間に即セットして、時間が動き出した瞬間にスパイクで時間を止めて、時間消費1秒という裏技を使ったが、これはチームとして相当な熟練度がなければ出来ない芸当である)
延長ルールはどちらがいい?
[4Q終わって同点だと延長(OT…オーバータイム)に入るが、NFLとカレッジではOTのルールが大きく違う。NFLルール
試合時間10分でタイムアウトは2つ
残り2分で時間が止まる
先攻チームのTDかセーフティで即試合終了
先攻チームがFGを決めた場合は後攻チームも攻撃権を得る
後攻チームもFGを決めたら次からのドライブで先に得点したチームが勝利
10分経って決着が着かなければ引き分け(プレーオフの場合は先に得点が入るまで続く)
カレッジルール
敵陣25ヤードから攻撃開始
後攻チームの攻撃終了時に点差が着くまで続ける
3OT以降のTDは2ポイントが義務付けられる
テレビの放送枠の関係もあり、NFLは試合時間を少しでも短くしようと考えており、少し前までは先攻チームはFGでも勝ちだった。
後攻チームが攻められないのは不公平という声もあって、先攻チームがFGなら後攻チームも攻撃出来るようルールが変わったが、お互いに得点出来ないまま試合が続くと、この後行われる試合や番組編成に支障が出るため、レギュラーシーズンで延長に入った場合はいわゆる「ケツ」が決まっており、10分経っても決着が着かなければ引き分けになる。(少し前まではOTも15分だったが2017年から10分に短縮された)
一方のカレッジは、後攻チームの攻撃が終わって点差が着くまで続く。
引き分けがなく、勝敗が決まるまで続くという意味では誰もが納得するが、同点だと試合が終わらないため、下手すれば日付が変わっても試合が続く場合がある。
2018年のLSU(ルイジアナ州立大学)対テキサスA&Mの試合は7OTという超長丁場の試合となり、19時39分(中部時間18時39分)に始まった試合が終わった時は翌日の0時32分(中部時間23時32分)で、中部時間地域のカレッジステーション(テキサス州)で行われたため現地はまだ11月24日だったが、1時間早い東部時間地域では既に日付が変わっていた。
74対72というスコアはバスケでもやっていたのかと錯覚してしまうが、基本的に3時間程度で終わるフットボールの試合が5時間近く(正確には4時間53分)続くのはさすがに長すぎる。
試合後フィールドに飛び降りるなどやりたい放題はしゃぎまくる観客の笑顔を見ると、試合に勝った上に歴史的な試合の目撃者となって楽しかっただろうが、NFLでここまで長引くのは有り得ない。
テレビの編成や試合時間といった「大人の事情」もあるが、試合が長引くと選手の消耗が激しすぎてケガのリスクも高くなる。(カレッジは100人以上の選手「部員」がいるが、NFLでは練習生を除くと1チーム53人、試合に出場出来る人数は46人しかいない)
NFLのメディアルールなど更に深いところはまた別の機会に書きたいが、誰もが納得する形で勝敗を決める公平さとケガのリスク(及びテレビなど大人の事情)のどちらを取るかに正解はなく、今でも議論は続いている。
フットボールを楽しもう
今回はアメリカンフットボールの基本と、時間とOTに関するルールを紹介したが、3rdダウンとパントを理解すればそれだけで十分楽しめる。
フットボールは知識や視野が広がれば見える世界が変わるため、「このスペースを作るためのラインのブロックが良かった」「レシーバーが空いていたのに何故投げなかった?」といった自分だけの注目ポイントが生まれるのも魅力である。(ディフェンスのセットからカバーを読む楽しみ方もある)
ちなみに、ライン際のパスでカレッジは片足だけ入っていればいいが、NFLは両足残してキャッチしなければならない。
細かいところで違いはあるが、試合を見る余裕が出来たらレシーバーの足は入っているかにも注目して欲しい。
時間を巡る駆け引きにミラクルプレーの連続など魅力を語ればキリがないが、一度試合を見て自分なりの楽しみ方を見付けていただけたら幸いである。
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