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スポーツの新しい楽しみ方
スポーツには人の数だけ楽しみ方がある。
スタジアムに足を運んで応援する人、テレビやネット配信、ラジオといったメディアを通して楽しむ人、新聞やネットで結果だけ確認する人など、楽しみ方は様々だ。
今回、新たなスポーツの楽しみ方として提案したいのは「メディアルール」というものだ。
スポーツ大国であるアメリカでは特にメディアに関する細かいルールがあり、メディアルールを知るだけでも楽しめる。
今回は、アメリカ最大のスポーツコンテンツであるNFLのメディアルールを解説する。
シングル放送とダブルヘッダー
NFLはFOX、CBS、NBC、ESPNの4局が放映権を持っており、木曜のナイトゲームはNFL NetworkとFOX(地上波放送分はAmazon Primeでサイマル放送)、月曜のナイトゲームはESPN、日曜のデーゲームはFOXとCBSが放送している。
ここで注目するのは、試合の開始時間だ。
昼下がりに行われるアーリーゲームはFOX、CBSともに13時開始だが、夕方に行われるレイトゲームは16時5分と16時25分に分かれている。
その答えは、16時5分開始は「シングル放送の局の試合」で、16時25分開始は「ダブルヘッダーの局の試合」だからだ。
度々耳にする「ダブルヘッダー」はともかく「シングル放送」という言葉は大半の人が初めて聞くだろう。
その言葉を解説する前に、NFLはナイトゲームを除いて全米中継になる事はなく、当該チームの近隣地域の試合が放送される事が大半である。
要するに、地域によって放送する試合が違い、更には番組の放送スケジュール自体が違う訳だ。
例を出すと、NFL2020 Week15のフィラデルフィア・イーグルス対アリゾナ・カーディナルスの試合はFOXで放送されるが、シングル放送であるため、両チームのお膝元であるフィラデルフィアとフェニックスの近隣エリアでFOXを見ても13時台はNFLの試合を放送せず、全く違う番組を放送している。(木曜時点でフィラデルフィア地域のFOXの番組表を確認したが、13時から16時までTBA「未定」のままだった)
勿論、アーリーゲームがシングル放送の場合、レイトゲームは放送せず、16時以降はNFL以外の番組を放送している。
一方のダブルヘッダーは、アーリーゲーム終了後も16時25分からの試合が引き続き放送される。
ダブルヘッダー局の場合は、特に注目度の高い試合をレイトゲームに設定しているため、その局のナンバー1チームが登場する。(木曜に行われるTNFはシングル放送場合その局のナンバー1カード扱いであり、現在TNFを放送しているFOXのナンバー1チームは日曜の試合には登場しない)
勿論、ナンバー1カードという事もあってアメリカの広範囲で放送されるなど注目度は高い。
但し、日本だと朝の5時25分(6時25分)になるため、徹夜観戦のアーリーゲームからハシゴで見ようとするとどうしても眠くなってしまう、魔の時間帯であるのが辛いところだ。
フレキシブルスケジューリングとは
TwitterでNFL関連のツイートを見ると、試合時間が変更されたというアナウンスをよく見る。
これは「フレキシブルスケジューリング」というNFL独自のシステムであり、好調チーム同士の対戦など、注目度が高い試合を遅い時間に据えるのが目的である。
NFLに限らず、試合のスケジュールはシーズン前に発表されるが、前年好調だったチーム同士をナイトゲームに据えて熱戦に期待しても、必ずしも翌年好調とは限らない。
2020年を例に出すと、Week15はSNF(サンデーナイトフットボール)に当初サンフランシスコ・49ers対ダラス・カウボーイズの名門対決を設定していたが、49ersもカウボーイズもまさかの絶不調で、両チーム合わせて僅か9勝という体たらくだった。( https://nflcommunications.com/Pages/NFL-announces-Week-15-schedule-changes.aspx )
人気チームの全米放送とはいえ、これでは誰も見てくれない。
SNFを放送するNBCは他に数字を取れそうなカードをFOXとCBSから探す事になる。(両局とも本当に譲れないカードはプロテクトする権利があるため、NBCも好きなカードを選べる訳ではない)
そこでNBCはCBSで13時に予定されていたクリーブランド・ブラウンズ対ニューヨーク・ジャイアンツの試合を選び、49ers対カウボーイズの試合はCBSで13時開始となり、カードの順位、及び価値は大きく「降格」する事になった。(なお、19時以降に行われるナイトゲームは最終週のSNFを除いて各チーム最大5試合まで。但し、特例で3チームまで6試合目のナイトゲームが行える)
NBCの特権と思われがちなフレキシブルスケジューリングだが、自局でも発動させる事は可能である。
今シーズンでいえば、Week11はFOXがダブルヘッダーナンバー1としてダラス・カウボーイズ対ミネソタ・バイキングスを単独で設定していたが、両チームの成績が良くなかったため、同じくFOXで13時開始予定だったグリーンベイ・パッカーズ対インディアナポリス・コルツの試合を16時25分に移動させて、FOXの視聴者に注目カードを提供出来るように変更した。
日本だと生活リズムや仕事の関係でアーリーゲームがいいか、レイトゲームがいいか、ナイトゲームがいいかは人それぞれだが、NFLは視聴者が見たい試合を提供するべく常に努力している。
放送カードの譲渡やトレードも可能
少し前まで日曜のデーゲームはNFCビジターの試合はFOX、AFCビジターの試合はCBSという決まりがあったが、フレキシブルスケジューリングで好き勝手にカードを動かすと放送局のカード数のバランスが悪くなるなどの不具合が起きるため、現在はそのルールは撤廃されて、AFCビジターの試合をFOXが放送する事も、NFCビジターの試合をCBSが放送する事も出来るようになった。
例えば、フレシキブルスケジューリングで放送カードの枠が変わり、バランスが悪くなった時はカードの譲渡や交換も可能となっており、これを「クロスフレックス」という。
また、ニューヨーク(スタジアムはニュージャージー)に本拠地を置くジャイアンツとジェッツが同じ時間に同じ局で放送するのは物理的に不可能だが、放送局の壁がなくなった事により、13時にメットライフ・スタジアムでジェッツ対NFCの試合が行われ、同じ時間帯にジャイアンツのアウェイゲームが行われていたとしても、片方をFOXが放送して、もう片方をCBSで放送する事が出来るようになった。
家族内で贔屓チームが分かれた場合、どちらの試合が見たいかというチャンネル争いの解決は本人達に出来ないが、NFLの対応力はさすがである。
最大延長は何時まで?
13時→16時5分/25分→20時20分というスケジュールで行われる日曜のNFLだが、試合時間が延びた時の放送はどうなるのだろうか。
日本では野球中継延長で後の放送スケジュールが変わる事が多々あったが、NFLのメディアルールでも最大まで延長出来る時間は決まっており、試合の「当該地域を除いて」アーリーゲーム延長はシングル放送は16時25分まで、ダブルヘッダーの場合は16時20分までとなっている。
2018年Week5(ダブルヘッダーはFOX)を例に出すと、フィラデルフィアでは13時からニューヨーク・ジャイアンツ対カロライナ・パンサーズの試合を放送していたが、白熱の試合は延びに延びて、ニューヨークとカロライナを除く地域で放送出来る16時20分を過ぎてしまった。
フィラデルフィア地域のFOXもカメラが切り替わり、16時25分からダブルヘッダーナンバー1のフィラデルフィア・イーグルス対ミネソタ・バイキングスの中継が始まったが、視聴者の大半は、オープニングに登場するジョー・バックとトロイ・エイクマンの挨拶よりも、さっきまで放送していた試合の結末が気になっていた。(結果は最後のFGでパンサーズの勝利)
それ自体はルールなので誰も文句を言えないが、試合が始まるまでの5分だけでも待って放送してくれれば最後まで見られたとあって、視聴者の間では不満の声が続出した。
日本でも一昔前は野球中継の延長に関して様々な声があったが、何処の国でもスポーツ中継の延長に対する考え方は似たようなものである。
NFLのワンサイドゲーム対策
フットボールに限らず、大量点差のワンサイドゲームは見る気が失せるものである。
NFLではワンサイドゲーム対策として、後半途中に18点差以上になったら試合を変えられるというルールがある。
2014年のWeek11は当初13時開始予定だったフィラデルフィア・イーグルス対グリーンベイ・パッカーズの試合が、フレキシブルスケジューリングによって16時25分のダブルヘッダーナンバー1に変更されていた。
試合前日はライブのため幕張にいた筆者は、深夜バスの中でテキスト観戦ではなく、帰ってから試合がリアルタイムで見られるとFOXの決定に喜んでいた。
ただ、笑顔だったのはライブの思い出とともに帰宅した時までで、試合はパッカーズが一方的にイーグルスを蹂躙するワンサイドゲームであり、前半終わって30対6という惨状だった。
少しは意地を見せて欲しいと思っていたが、3Qが終わった時は39対13と更に点差が広がっており、FOXは多くの地域で裏カードであるデトロイト・ライオンズ対アリゾナ・カーディナルスに放送カードを差し替えた。
53対20のワンサイドゲームだろうが、ライブで幸せだった気分をぶち壊しにされようが、ファンとして最後まで試合を見たが、この試合の視聴率が悪かったのは言うまでもない。
なお、イーグルスのお膝元という事もあって、むしろ一番視聴率が悪かったであろうフィラデルフィアでは最後まで放送せざるを得なかった。
イーグルスのダブルヘッダーには更なる逸話があり、4年経った2018年のWeek11でダブルヘッダーを担当したFOXは、イーグルス対ニューオリンズ・セインツの試合をナンバー1に設定した。
この週は裏カードなしの「単騎勝負」で、シングル放送のCBSがアリゾナ・カーディナルス対オークランド・レイダーズの試合を放送しているアリゾナ州を除いて全米49州で放送という気合いの入れようだった。
前年度のスーパーボウル王者のイーグルスとNFC優勝候補のセインツの試合はナンバー1に相応しいカードではあったが、イーグルスはパスディフェンスに問題があるだけに、嫌な予感しかしなかった。
13時開始のアーリーゲーム開始前から強烈な睡魔に襲われ、起きた時は8時前で完全に寝坊という、ディビジョナルプレーオフと全く同じ失敗をしてしまったが、前半終了時に24対7(勿論、セインツがリード)というスコアを見ての通り、ほぼ全米放送する価値など1%もない、このまま寝ていた方が幸せなワンサイドゲームだった。
2年経った今でもこんな試合を最後まで見ていた自分の気力と根性を不思議に思うが、泣きたいのはFOXも同じで、こんな試合では誰も見てくれない。
16時25分開始の裏カードがあれば試合を差し替える事も出来たが、好カードを期待してレイトゲームを1試合のみにしたため、最後まで放送するしかない。
48対7(41点差)は、前年度のスーパーボウル王者として史上最悪の敗戦だったが、今思うと、最大の外れカードで単騎勝負してしまったFOXもメディアとして見れば「敗者」だった。
試合を見るだけがスポーツではない
今回はNFLのメディアルールの解説をしたが、試合を放送するメディアに関するルールだけでも無数にあり、それを調べるのも面白い。
勿論、試合中は真剣に贔屓チームを応援しているが、試合から離れたら翌週のカード順位や今後のフレキシブルスケジューリング発動の可能性を考えるのも一興であり、試合を見るだけがスポーツの楽しみ方ではないという事を教えてくれる。
日本のメディアという点では、Twitter上でNHKとNFLの放映権が更新されるかが度々話題になるが、アメリカのメディアも契約は2022年までで、FOXが第57回スーパーボウルを放送してからの放送は未定となっている。
テレビからネットへと時代が変わりつつあるが、来年以降どうなるか不透明な日本(NHK)と違って、アメリカのテレビからNFLが消える事は有り得ない。
果たして2023年以降どのような契約が結ばれるのか、新規参入する局が現れるのか、今後の発表が待たれる。
ファンを楽しませるための改革を止めないNFLとメディアから今後も目が離せない。
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