宗教

お盆、ご先祖様を迎える室礼(しつらい)について調べてみた

お盆とは

お盆とは

お盆は、亡くなった方々が浄土から現世に戻って来られる年に一度の日です。

旧暦では7月15日前後の行事でしたが、現在では月遅れの8月に行う地方も多いです。先祖の霊を家々に迎えて供養する魂祭りで、お祀りする精霊は家の先祖と新仏と無縁仏があり、この時に訪れる無縁仏の供養も共に行います。

一般的には13日にお迎えし、15日か16日に精霊送りをしますが、地域によりかなりバラつきがあります。

一般的な盆棚の室礼

盆棚は御霊を祀るために設けられた祭壇で、精霊棚とも言います。位牌を安置し、お供え物や故人の好物を置きご先祖様をお迎えします。一般的には13日に作りますが、新仏を迎える家ではそれよりも早く、1日から7日までにしつらえます。

飾り付けの形態は地域の習わしによって実に様々ですが、基本は祭壇をもうけ四隅に葉の付いた青竹を立て、竹の上部にしめ縄を張り巡らせます。しめ縄には稲穂・鬼灯・枝豆・昆布などを掛けます。鬼灯は提灯に見立てられ、精霊はこれを目当てに帰って来るので是非飾って下さい。そして以下のような品々を供えます。

1.花

棚には真菰で織った筵や茣蓙を敷き、仏壇から移した位牌を置き、盆花を供えます。

花の種類は特に決まっていませんが、「その土地でその時期に普通に咲いている花」が良しとされます。女郎花・桔梗・鶏頭・萩などが一般的でしょうか。バラなど棘の有る花は避けましょう。生花ばかりではなく造花も普通に用いられます。蓮の造花は良く使われます。

宮城県では12日の朝家人が山へ入り「盆花を迎えて来る」と言い、自分で刈って来た萩や桔梗など山の花を供えます。わざわざ「迎える」と言うのは、先祖も共に迎える意識が有るからです。

2.胡瓜の馬と茄子の牛

これも盆飾りの定番です。早く帰って来てもらうために胡瓜に苧殻で足を付け馬に見立て、ゆっくり戻ってもらおうと茄子を牛に見立てます。

3.水の子

洗った米と茄子や胡瓜を賽の目に刻んだものを混ぜて、きれいな水を満たした鉢や椀に盛ります。あの世で飢えや渇きに苦しむ人の咽喉でも、少しでも楽に飲み下せるようにとの思いを込めたものです。

4.野菜・果物

これは特に決まりはありません。百味五果と言って、いろいろ種類豊富にお供えします。高価なもの珍しいものでなくても、出盛りの新鮮なものが喜ばれます。もちろん故人の好物もです。

新盆の場合

亡くなられてから初めて迎えるお盆を特に新盆(あらぼん、しんぼん、にいぼん)や初盆(はつぼん、ういぼん)と呼びます。逆に新しく迎える仏様がいらっしゃらないお盆は吉事盆(きちじぼん)と呼びます。

正確に言うと、亡くなられてから49日の忌明け後初めて迎えるお盆のことを指します。忌明けを過ぎる前にお盆に入る時は、翌年が新盆になります。

新盆は吉事盆より早く精霊をお迎えし、長い期間お祀りを行います。地域で共同して灯籠木(とうろぎ)と呼ぶ高灯籠を立てるなど、共同祭祀の色彩が強まります。

灯籠木とは、杉や檜などで高い柱を立て、先端に亡き人の戒名を書いた「招き旗」と呼ぶ白い布を結び、横木を取り付け四角い灯籠を吊るします。新仏はこれを目印に降りて来られます。

遠い浄土から戻られるのですから、住み慣れた我が家であっても迷われることもあるでしょう。表札代わりの戒名を書き、道に慣れるまで3年から5年は立て続けるのが良いとされます。

施餓鬼

餓鬼道に落ちて苦しむ者に飲食を施して供養する法会です。お盆に個人の家で迎えるのは先祖の霊ですが、そこに浮精霊(ふけじょろ)とか餓鬼仏と呼ばれる無縁仏も共に訪れると考えられています。

戻る当ての無い無縁仏様たちは、家族に迎えられる仏様たちを羨まし気に眺めながら、ついふらふらと一緒に来てしまわれるのです。

そんな時「貴方の家ではありませんよ」と邪険にしてはいけません。それでなくてもお供えもして貰えずお経もあげて貰えない仏様は、お腹を空かせ寂しい思いをしておられるのです。

今年限りのご縁を結び、お腹いっぱいお供えを召し上がって、この世に留まることなく、16日にはきちんとあの世へ帰って貰わなければなりません。僧院では施餓鬼は特定の日を決めずに、毎日行うこともあります。

施餓鬼のための祭壇を餓鬼棚とか水棚と言って、盆棚とは別に庭先や縁側に作る地域があります。

滋賀県湖西の高島では無縁仏を「ホウカイサン」と呼んで、縁側の隅で祀りますが、同じ滋賀県でも信楽では餓鬼仏と呼び、祭壇も家の門近くや河原に、土を四角に盛ったり桶を伏せたりして作ります。

兵庫県篠山では、盆棚のすぐ下に柿の葉に盛った餓鬼用の供物が用意されます。佐賀県神埼では蓮の葉を使います。

小豆島の内海地区では、8月14日の早朝に河原で竈を作り、椎茸や野菜・油揚げを入れたお精進の五目飯を焚きます。それを13枚の柿の葉に盛って餓鬼仏に供えます。

水難や出産で命を落とした者の霊を、水辺や船から弔う「川施餓鬼」を行う土地もあります。

神奈川県湯河原では、15日の午後海岸に盆棚をもうけて施餓鬼をします。

同県川崎市大師河原では、「川施餓鬼」の船を3艙ばかり出してその1艙にお坊様が乗り込まれます。その1年間に水難で亡くなった者の霊を供養され、その間浜では念仏講の人たちが線香を焚き念仏を唱えます。

お盆が過ぎると昼間は暑くとも夜は秋の虫の音が聴こえ始め、気分は安芸を待つ心に変わります。

(注:お盆の迎え方や飾り付けは、宗派・地域によって違うことにご留意下さい)

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インドにおける仏陀と南伝仏教

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