古代文明

西洋占星術の起源について調べてみた

現代の日本では、自分の誕生星座を知らない人はほとんどいないだろう。

それくらい広く浸透している星座占いとは、もとをただせば星の動きに人の運命を重ね合わせた占星術から生まれたものである。それは、人間が太古の昔から夜空に浮かぶ無数の星とその動きに魅了されてきた証しでもあるのだ。

最古の占い

西洋占星術の起源について調べてみた
【※バビロニア王国の首都、バビロンの想像図。左側に7層のバベルの塔が見える】

最初に星の動きに注意を向けるようになったのは、紀元前6,000年にメソポタミアの低地で発展したシュメール文明の人たちだった。そして紀元前2,000年頃に、メソポタミア文明を興したバビロニアの人たちが天の動きを観察し始める。それに基づいて様々な予測を打ち立てた。

これは「プロト占星術」と呼ばれ、今日まで連綿と続いている占星術の基となっている。同時にそれは天文学発達の第一歩でもあり、その後占星術と天文学は表裏一体を成していったのである。すでにプロト占星術でも星というものは神々の意思を知るための予兆(オーメン)だった。当時の記録には虹や雲の形、日食や月食、日出と日没といった天で起る様々な現象は、予兆と見なされていたことが記されている。

だが、この時代は天体だけでなく、鳥や動物がどんな仕草や鳴き声をあげたか、あるいは儀式の際に犠牲にした動物の肝臓の状態といったことまでが、予兆として捉えられていた。

予兆の書

これらの一例に「過去に日食が起こったあと、洪水が発生しているので、日食は洪水の予兆である」と考えたことなどが挙げられる。

これはいわば、過去の記録から生まれたものだ。それらは粘土板に記録されることで次世代へと伝わってゆき、蓄積されていったものでだった。記録の蓄積という観点から見れば、統計学の始まりともいえるだろう。

そんな数々の予兆を集めた『エヌマ・アヌ・エンリル』が、ニネヴェのアッシュールバニパル王の古文書館で発見されている。これは紀元前7世紀に刻まれたもので、7,000を超える予兆と、天に関する様々な観察が記された70の粘土板から構成されている。

それでもこの時代、星を基にしたプロト占星術は、多様な自然現象から予兆を読み説くことの一部でしかなかった。

空に引かれた三本の帯


【※ハレー彗星のことを記録したシュメール人の粘土板(紀元前164年)】

プロト占星術は、現代の占星術で用いられているホロスコープを作成し、星の配置によって占う手法とは大きく異なっている。だが、『エヌマ・アヌ・エンリル』のような文献と、暦を作成する際に蓄積された天文学的なデータが結実し、後の占星術へと発展していく基礎が構成されていったことは確かである。

実際、バビロニアの天文学ではすでに、今日の12星座の基になるものが発見されている。それには今でいう黄道(こうどう/地球から見た太陽の通り道)に当たるものが、並行して走る3つの帯として表されていた。それは赤道帯より北の周極星、赤道帯、赤道帯より南を通る帯の3つで、それぞれ、エンリル、アヌ、エアといった神々の通り道と考えられた。

そして、それには18の予兆が位置づけられていたのだ。紀元前5世紀の末頃になると、それが今も使われている黄道を12等分したものになっていった。紀元前419年に刻まれた粘土板に記された記録が最も古いものとされている。

最古の星占い

バビロニア人は惑星を観察した。

それが最初に現れた時や、動きに変化が現れた時、見えなくなった時などを記録。それらは天から告げられた予兆として、占いへと取り入れられたのである。そして、紀元前410年1月頃の惑星の配置を記したものが現存する最古のホロスコープといわれている。ただしそれは現代のもののように、円の中に惑星を配置したチャートではなく、単に惑星の位置を列挙したに過ぎない。

紀元前3世紀頃には、プロト占星術の理論的なテキストといえるものが記されている。

『木星が現れるときは金持ちになり、長生きできる』

『土星が現れると病気となり、不自由になる』

このように、現代占星術における惑星の意味とほぼ同じような解釈が成されている部分も見られるのである。もちろん、現代の占星術とは異なる解釈が成されているものもあり、同じように捉えることはできない。ただ、バビロニアで成立していたプロト占星術は、やがてギリシアに伝わり、本格的な占星術確立へと発展していった。

ギリシア文化で開花する占星術

ギリシアがポリスの集合体で国家としての体を成していない時代を経て、アレキサンダー大王がギリシア統一を果たすと、ギリシアの植民地となったアレキサンドリアでヘレニズム文化が生まれることとなる。

そして、この地がバビロニアの占星術を引き継ぎ、現代の占星術のルーツといえる「ヘレニズム占星術」へと発展させる場所となったのである。

こうして紀元前1世紀までには、惑星、サイン(星座)、ハウス(ホロスコープを用いる占星術における基本的な概念)といった現代占星術の基本的要素を基にしたホロスコープ占星術が完成した。だが、その解釈に関しては、まだまだ今と同じではなく、発展途上であると言わざるを得ないものだった。

最後に

メソポタミアで生まれた星占いは、バビロニア、ギリシア文化を経て、ヘレニズム文化でさらに洗練された。

アレクサンドリアで発達した占星術には、世界を構成する四元素、ピタゴラス主義者が説いた宇宙と人生の最高の法則としての調和と均整の理念、プラトンによる惑星の神聖など、当時のギリシア思想の影響を大いに受けていた。

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