古代文明

【楔形文字は語る】甦る メソポタミア文明

集約的な農業と都市の発達、そしてやはり文字の発明です。この3つを重要な柱として文明は発生し、展開していきます

こう語るのは、東京・池袋にある「古代オリエント博物館」館長の月本昭男教授である。メソポタミア文明、またインダス文明もこの3つの柱を特徴としている。

メソポタミアは、チグリス・ユーフラテスの2つの河の間という意味だが、そこは両河が運んだ土でできた沖積平野であり、土地自体が肥えている。

しかし、メソポタミア地方に雨は少ない。天水農業が出来ない土地でどのように文明が発達したのだろうか?

メソポタミアとシュメール人

メソポタミア文明

メソポタミア地方の年間降雨量は400ミリ程度で日本の4分の1程度だ。

そこで、メソポタミアの人々は運河を掘削し、アナトリア高原の雪解け水がとうとうと流れる大河から水を引き、大豆や小麦の穀類、そら豆やレンズ豆などの豆類を栽培した。農耕自体の発生は1万年前頃まで遡ることができ、やや遅れて牧畜が加わる。集約的農業は、前6,000年頃、メソポタミア南部のシュメール人が支配する地まで広がった。

やがて、メソポタミアの地で文字が発明されるとともに使いこなし、最初に都市国家の発展を支えたのがシュメール人だった。前3,300~前3,200年頃には、すでに高度な都市整備を進めていたのである。もっとも、日本のアイヌのように文字がなくても文明は起こり、文学も生まれる。しかし、文字の利点は、記録を残すことで文明を継続させることにあった。

例えば、凶作の記録はどれだけの備蓄が必要になるかという参考になる。経済活動にも計画性が生まれるということだ。

残された楔形文字

メソポタミア文明
【※楔形文字】

メソポタミア文明を代表する楔形文字は、シュメール人がシュメール語を書き表すために発明した文字である。その後、シュメール人は前2,000年頃、歴史の表舞台から姿を消す。

しかし、シュメール人は滅ぼされたわけではないという。この時代、南メソポタミアの北部では、アッカド語を話すバビロニア人やアッシリア人が共生していた。徐々に彼らが優勢になり、アッカド語を使う人々が文明の担い手となる。それを受け入れ、自分はシュメール人だと自己認識する人々が減り、やがて消えていったのだ。

なお、インダス文明が興り、姿を消す時期は、シュメール人の活躍時期に近い。

この文明は、前2,600年頃、インダス川の流域、現在のインドとパキスタンにまたがる地域に成立した都市国家群である。いまだに解明されていないが、インダス文字を使っていて、文字が彫られたインダスの印章は商取引の印として使われたとされる。インダス文明はインダス川中流域を中心に交通が整備され、商人の活躍が盛んであった。

時代を超えた文字

メソポタミア文明
【※ハンムラビ法典に描かれているハンムラビ(左側)、ちなみに右側の王座に座っている人物は太陽神シャマシュ】

シュメール人の消滅は、当時の政治情勢とも関係があるだろう。前2,000年頃から有力な都市国家は支配領域を広げ、領土国家へと姿を変えていく。

ハムラビ法典で知られるバビロニアはその代表的な国家だ。北方ではアッシリア人を中心とした帝国の歴史が展開されていく。ハムラビはシュメール人、アッカド人の次にメソポタミアを支配したセム系民族によるバビロン第1王朝第6代の王で、「目には目を」で知られる法典を制定したことで有名だ。

メソポタミアの地で戦争と平和が繰り返され、やがて前539年、ペルシア帝国がオリエント全体を支配する。前出の月本館長によれば、それでもシュメール人が発明した楔形文字が消滅することはなかった。ペルシア帝国で話されたのは、アッカド語ともセム語とも異なる、ペルシア独自の言語であった。

ペルシア人は楔形文字もメソポタミア文化も継承している。200年経ってペルシアはマケドニアのアレキサンダー大王に滅ぼされるが、それでもメソポタミアの町々は伝統を保ちつづけてきた。

ギルガメシュ叙事詩

メソポタミア文明
【※ライオンを捕獲したギルガメシュのレリーフ(ルーブル美術館蔵)】

アレキサンダー大王亡き後、メソポタミアを支配したセレウコス朝でも楔形文字の文化は残る。前3世紀、都市ウルクで楔形文字ルネッサンスと呼ばれる復古運動が起こったという。

ウルクはシュメール人の時代を代表する都市であった。復古運動で、ギルガメシュ叙事詩をはじめ、何千年にもわたるメソポタミア文書が大量に書写された。そして、ギルガメシュこそ、前2,600年頃のウルクの王である。

月本館長はギルガメシュ叙事詩の訳者としても著名な人物だ。メソポタミア文学を代表するこの作品は、死ぬべき運命に生まれた人間の人生哲学が素朴なかたちで表現されているという色々なテーマがあり、一言では表せないが、ギルガメシュの英雄的人生観、ギルガメシュの親友エンキドゥの死を目の当たりにして不死を求め始める不死的人生観、そして、死は免れないが、不慮の事故や病気は神を祀れば避けられるという宗教的人生観にも出会う。

これには前800年頃、篤く供養されれば人はあの世で安寧に暮らせるという伝統的なメソポタミアの生死観が足され、ギルガメシュ叙事詩はまとまりがついたようだ。

最後に

シュメール人が生み出した複雑な象形文字。それは、書記と呼ばれるエリート層だけが読み書きできるものだった。

やがて後1世紀に消滅して土の下に忘れ去られたが、19世紀になり遺跡と共に発掘され、現代に蘇ったのだ。

古代オリエント博物館公式HP→http://aom-tokyo.com/

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