日本で発見された新種の恐竜
恐竜の進化の歴史を左右する可能性を持ったメラクセスの命名に盛り上がった2022年だが、実は、2021年には日本でも新種の恐竜が命名されている。
2004年に発見された化石が、17年の月日を経て命名される事になるのだが、新種の恐竜と判明してから、命名されるまでには膨大な時間が必要だった。
今回は、長い研究の末に恐竜の歴史に名前を刻む事になったヤマトサウルスを紹介する。
化石愛好家の大発見
2004年5月、淡路島に位置する兵庫県洲本市で大型脊椎動物の化石が発見された。
地層の年代から化石の主は約7200万年前の白亜紀後期に生息していた鳥脚類恐竜で、2021年にヤマトサウルス・イザナギイと命名された。
発見者の岸本眞五(兵庫古生物研究会代表)は、2021年4月に行われた会見で「今まで見たことないような物体だった。恐竜ということが頭に浮かび、その時に膝がガクガクと震えました」と、当時の感動と興奮を語っている。(ニュース映像参照)
世紀の大発見となったヤマトサウルスだが、現場は岸本が約30年近く通っていた海底の地層で、岸本も実は恐竜の化石を探していた訳ではなかった。
岸本が発見したのは下顎の化石だったが、彼のメインである海棲生物とは歯や顎が明らかに違う(当時の海棲生物にはない特徴を持った化石である)事に気付き、これが草食恐竜の化石である可能性が高いという結論に至った訳だ。
ヤマトサウルスと命名されるまで
発見されたヤマトサウルスの化石はごく一部で、今も完全には発見されていないが、姿を想像するヒントはあった。
最初に岸本が発見した下顎の部分だが、同時に残された歯の形状からカモノハシ竜の別名で知られるハドロサウルス科の恐竜である事がまず分かった。
翌2005年、ヤマトサウルスの化石を研究した札幌医科大学と兵庫県立人と自然の博物館のチームから、ランベオサウルス亜科の恐竜として論文が発表された。
当然ながらヤマトサウルスという名前も当時はなく、当初はハドロサウルス科から分岐したランベオサウルス亜科の恐竜と分類されていたが、その後の研究に於いて下顎の化石から歯列や歯骨が同時期の恐竜とは違う事が確認され、ハドロサウルス科の新種の恐竜であるという結論に至った。
既にヤマトサウルス・イザナギイ(Yamatosaurus Izanagii)という名前を出しているが、単純に○○サウルスだから「大和のトカゲ」という意味ではなく、属名のイザナギイまで含めて「伊弉諾(いざなぎ)の倭竜(やまとりゅう)」となる、日本人として誇りに思える名前になった。
日本で見付かった恐竜で命名されたのはヤマトサウルスで9例目であるが、日本誕生の地と言われる淡路島で発見されたヤマトサウルスに与えられた「イザナギ」の名は、後述するハドロサウルス科の原点とも言われる恐竜に相応しいものだった。
ヤマトサウルス発見の意義
(特別授業【2日目】後半)#ヤマトサウルス はハドロサウルス科の中でもどんな恐竜だったかを探りました。骨の特徴を細かく分析して…
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明日に向けて問題です
アジア大陸、北米大陸両方から
見つかっているハドロサウルス科は?
正解は明日朝!
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〈小林快次〉 pic.twitter.com/Rz2YyvR4RH— 小林快次『恐竜まみれ』Official (@dino_mamire) May 6, 2021
ここでは数行で纏めているが、2004年の発見から命名するまでの17年の間に、化石から得られた354個の特徴を、70種類の他のカモノハシ竜と比較してようやく新種の恐竜であると断定された。(メラクセスも発見から命名まで時間が掛かっている事からも分かるように、一部しかない化石から恐竜の種類を判断するのは困難であり、最初に発見された23点の化石から新種のヤマトサウルスであると結論に達するのにかなりの時間が必要だった事も納得である)
新種の恐竜と明らかになった時点で大ニュース以外の何ものでもないのだが、研究が進むにつれてヤマトサウルスは白亜紀後期に繁栄したカモノハシ竜の中でも特に原始的な特徴を持った種である事が明らかになった。
簡単に解説すると、ヤマトサウルスの烏口骨は他のカモノハシ竜よりも小さく、後のカモノハシ竜の方が進化している事が確認出来た。
【第5問正解】カムイサウルスの鳥口骨〈左〉には大きな突起があります。ヤマトサウルスには突起なし。どちらも白亜紀末に生きた日本の恐竜ですが、突起のない原始的なヤマトサウルスと、突起のある進化型のカムイサウルス。同じハドロサウルス科でも、違う恐竜。生活スタイルも違ったのかもしれません https://t.co/66AKAUf6zO pic.twitter.com/vvjquf8H38
— 小林快次『恐竜まみれ』Official (@dino_mamire) May 5, 2021
詳しくはヤマトサウルス命名の会見で解説を担当した北海道大学総合博物館の小林快次教授のTwitterに書いてあるが、白亜紀後期の同時期に、同じ日本で生きていた恐竜でもここまで大きな違いがあるのは、今後の研究に於いて非常に興味深い発見である。
そして、原始的な特徴を持ったカモノハシ竜という事は、白亜紀後期に一大勢力を築いたハドロサウルス科の進化の歴史を研究する上で非常に重要な手掛かりとなる大発見だった。
まだまだ残る謎と今後の期待
淡路島の恐竜化石、新種だった 04年発見、命名「ヤマトサウルス」
小林快次先生
「絶滅したはずの恐竜が東アジアでは生き残り、進化した恐竜とすみ分けていた可能性がある」
「ヤマトサウルス化石は5月12日~7月11日、兵庫県立人と自然の博物館(同県三田市)で展示」https://t.co/sKwhvGNGd2— 小林快次『恐竜まみれ』Official (@dino_mamire) April 27, 2021
カモノハシ竜の進化に於いて重要な手掛かりとなる可能性を持ったヤマトサウルスだが、研究が進んだが故に新たな謎が生まれている。
真っ先に浮かぶのは、原始的カモノハシ竜であるヤマトサウルスと、ヤマトサウルスよりも進化した姿を持ったカムイサウルスが同時期の日本に生息していた点だ。(北海道と兵庫は遠いので両者の生息地域が重なっていなかった可能性も勿論あるが、仮に共存していたら進化前と進化後のカモノハシ竜が日本に生息していた事になる)
もう一つは、ヤマトサウルスはいつ頃現れ、いつまで存在していたのかという恐らく永遠に解けない謎だ。
化石が発見された地層の年代や、放射年代測定によって恐竜の生息していた時代が推定されるが、あくまで「その化石の主」が生きていた時代を割り出したものであり、もっと前に生きていた可能性は十分ある。
ヤマトサウルスは約7200万年前に生息していたと書いたが、ヤマトサウルスに似た特徴を持った原始的なカモノハシ竜が9200万年前に現れた事を考えたら、ヤマトサウルスも9200万年前に現れて2000万年もの間姿を変えず生きて来たのではないだろうか。
本当に9200万年前に現れたとして、地球の歴史では一瞬でも実際には非常に長い2000万年という期間をヤマトサウルスは本当に生き残れたのか(ヤマトサウルスとカムイサウルスは北と南で住み分けていたのか、共生していた場合は生存競争のない優しい世界だったのか)明かすべき謎はまだまだ多い。
また、ヤマトサウルスと同じ原始的なカモノハシ竜の化石が中国やモンゴルの同年代の地層から発見されており、小林教授は「絶滅したはずの恐竜が東アジアでは生き残り、進化した恐竜とすみ分けていた可能性がある」と語っている。
日本で発見された新種の恐竜として話題になったヤマトサウルスだが、今後の研究によってはカモノハシ竜だけでなく、東アジアの恐竜の進化や生態系が明らかになる可能性もある。
ファンの心理としては期待しかないが、歴史を変える可能性を持ったヤマトサウルスから今後も目が離せない。
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