スペースシャトルの最後の打ち上げは2011年というから、すでに7年前ということになる。
円筒形のロケットではなく、翼のある機体は我々の未来感を現実のものとさせ、同時に繰り返し打ち上げる姿は「強いアメリカ」の象徴だった。国際宇宙ステーションの建造にも功績を残したスペースシャトルに代わり、今ではロシアのソユーズが唯一の有人宇宙船として活躍している。では、各国が今後に向けて取り組んでいるロケット・プロジェクトはどのようなものなのだろうか。
宇宙を疾走する史上初の車
日本時間2月7日、午前5時45分(現地時間2月6日15時45分)にアメリカ・フロリダ州にある宇宙基地から一基のロケットが打ち上げられた。
本体の左右に2本のロケットーブースターを装備した巨大なロケットは、その重々しさとは裏腹に見事な上昇を見せ、3本ある1段目のロケットエンジンは打ち上げ後に切り離される。3本中2本が自動制御により、地上に垂直に着陸するという驚きの光景を見せた。
これが、民間宇宙ベンチャー企業「スペースX」の「ファルコンヘビー」ロケットである。
打ち上げの様子はYouTubeでも配信され、全世界で230万人の人々が見守る中、赤いテスラ・ロードスターが初めて宇宙空間を疾走したのだ。この電気自動車は、同社CEOイーロン・マスク氏のもので、ロードスターは火星軌道の先にある小惑星ベルトまで到達できる太陽周回軌道に投入された。
目標はさらに先へ(ファルコンヘビー)
ファルコンヘビーは、同社の低コスト次世代ロケット「ファルコン9」の発展型である。ファルコン9は、国際宇宙ステーションも周回する低周回軌道に約23トンの打ち上げ能力を有した中型クラスロケットで、商業用ロケットとしてはすでに実績がある優れたロケットだ。
低コスト化を徹底したことで、打ち上げ価格も他の同規模ロケットの100億円を大きく下回る約66億円を実現した。この、すでに実績あるロケットの第1段目を2本追加したことでファルコンヘビーは、より重量のある荷物を宇宙空間に届けられるようになった。
全長70m、重量は1段目ロケットを合わせて1,420トンもあるが、低軌道ならば、64トンもの物資を運ぶことが可能である。これは、日本のH2Aの6倍以上であり、スペースシャトルと比較しても2倍以上の重量だ。もっと分かりやすく言えば、乗客乗員を乗せたままのボーイング737を宇宙に届けることができる。
ここまでの能力は過剰ではないかと思うだろうが、スペースXの目的は低軌道に物資を届けることだけではない。将来、火星に向けて有人宇宙船を送り込むことにあった。
欧州・ロシア(アリアン5,アンガラ・ロケット)
次世代型ロケットに希望を託すのはアメリカだけだはない。
ヨーロッパでは、各国が共同で設立した「ESA(ヨーロッパ宇宙機構)」がアリアン・ロケットで商業的な成功を収めていた。フランスを中心にヨーロッパ12ヶ国、計53の企業が出資して設立した「アリアンスペース社」は、ロケットの製造は他社に外注し、打ち上げのみを行っている。通信衛星などの民間企業の衛星を数多く打ち上げた信頼性もあり、最新の「アリアン5」では、低軌道へ21トンの貨物を届けることができる
次世代型のアリアン6は現在開発中で、開発コストの削減などを目指して2020年の打ち上げを目指しているが、「5を改良するか、6を開発するか」の主張の食い違いで開発は遅れている。
また、ロシアでは旧型のソユーズと併用する形で「アンガラ・ロケット」を、打ち上げ、開発してきた。ロシアのアンガラ川の名を冠したこのロケットは、2回の打ち上げに成功し、低軌道へ約4トン~24トン(ロケットの構成で変わる)の物資を打ち上げることができる。
現在は派生型(改良型)を開発中だが、有人宇宙船を搭載できる能力はなく、もうしばらくはソユーズに頑張ってもらうしかない。
日本(H-IIA,H3ロケット)
2018年2月27日、種子島宇宙センターから「H-ⅡA」ロケット38号機が打ち上げに成功した。
高性能デジタルカメラを備えた偵察衛星「光学6号機」を乗せ、無事に軌道に投入することができた。開発は「JAXA(宇宙航空研究開発機構)」と三菱重工の共同で行われたが、製造・打ち上げは三菱が行っている。
38号の番号からも分かるように、H-ⅡAは38回の打ち上げを行い、失敗は6号機の一基のみという高い信頼性を示した。
今後も2023年度まで国内外の人工衛星、探査機を打ち上げる予定だが、低軌道へ投入させることのできる重量は約15トン。費用は一回平均約100億円だが、ファルコンヘビーが64トンを運ぶ能力を持ちながら、1段目をすべて回収して再利用することを前提にした場合は約96億円になることを考えると、その差は大きい。
打ち上げ成功回数もアリアン5が92回を記録している。
そこで、日本でも2020年の実用化を目指して「H3」を開発中だ。打ち上げ成功率は世界でも最高水準のため、残るは世界の民間市場への参入とローコスト化ということになる。
次世代ロケットの進む道
次世代ロケットに共通する課題は費用の削減である。性能の向上はもちろんだが、性能を上げるために莫大な開発費がかかるようでは本末転倒だ。そこで、各国が行っているのが、「すでに性能実証済みの現行ロケットを改良すること」「構成するパーツをモジュール化して柔軟な運用を可能にすること」となった。
ファルコンヘビーは、ファルコン9の第1段目を2本追加させ、アリアン6もすでに実績のあるエンジンで構成し、一回の打ち上げで2機の人工衛星を宇宙へ運ぶようになる。さらにアンガラはユニバーサル・ロケット・モジュール(URM)という共通規格のエンジンを組み合わせることで、貨物の大きさに柔軟に対応できるようになった。
これらはすべてローコスト化への布石であり、宇宙開発も価格競争の時代へと変わってゆくのだ。
最後に
池井戸潤の小説が原作のテレビドラマ「下町ロケット」は、下町の町工場がロケットの心臓部ともいえる燃料バルブを作り出すという物語だが、公式なアナウンスはないもののH-ⅡAをモデルにしたのは明らかだ。しかし、2020年以降の民間ロケット競争が激化する業界においては、職人の技術に頼ってばかりいては生き残れない。
より多く、より確実な打ち上げが求められるからである。(すべてのデータは2018年4月現在のものになります)
関連記事:ロケット・ミサイル
「スカッドミサイルとPAC3について調べてみた」
「北朝鮮のミサイルの性能と脅威について調べてみた」
「ヒトラーの功績 について調べてみた【後世への遺産】」
この記事へのコメントはありません。