神話、物語

アメリカ開拓地の怪物伝説!木こりたちが語る恐怖の「フィアサム・クリッター」とは

フィアサム・クリッター

画像 : ウィリアム・トーマス・コックスの著書「木こりの森の恐ろしい動物たち、砂漠と山の獣たち」では様々なフィアサム・クリッターが紹介されている。 public domain

20世紀初頭のアメリカは、ニューヨークなどの大都市を除けば、まだまだ未開拓の荒野であった。
開拓を進めるべく木こりたちは日夜、脇目も振らず馬車馬のように働いていた。

しかし、娯楽も何もない辺境の地で、ルーチンワークをこなすだけの毎日に、木こりたちも次第に飽き飽きしてくる。

そんな中で生まれたのが「フィアサム・クリッター」という架空の怪物たちの伝説である。
実在しない怪物をでっち上げ、それにまつわるナンセンスな与太話を披露する…

退屈しのぎには丁度良かったのか、木こりたちは日夜大喜利のように、様々なエピソードを語り合った。

こうして、他愛もないホラ話から生まれたフィアサム・クリッターであったが、次第に大陸全土に噂は広まり、やがて今日まで語られる神話として定着した。

今回は、そんな滑稽で魅力的なフィアサム・クリッターについて紹介したい。

1. カクタスキャット

画像 : カクタスキャット(CactusCat) イメージ 草の実堂作成

カクタスキャット(CactusCat)は、代表的なフィアサム・クリッターの一つである。

見た目はアメリカ原産の猫ボブキャットに類似するが、サボテンのように全身が棘だらけであり、尻尾は奇妙に枝分かれしているという。

カクタスキャットは夜中にサボテンを切り裂き、流れ出た樹液をそのまま一晩おいて発酵させる。
次の夜には酒になっているので、それを飲みにカクタスキャットは再び現れるという。
(実際はサボテンは糖質が少なく、酒を作るのは難しいとされている)

酩酊したカクタスキャットは奇声をあげたり、通りかかった人に暴力を振るうこともあるそうだ。

その辺の酔っぱらいと大差ない、はた迷惑な生物である。

2. ダンガベンフーター

画像 : ダンガベンフーター public domain

アメリカ大陸の最も危険な生物の一つとしては、ワニが挙げられるだろう。

フロリダ州やルイジアナ州には無数のワニが生息し、水辺に近づかないよう注意を促されている。
そんな恐ろしいワニだが、フィアサム・クリッターと化すことでより恐るべき怪物となった

ダンガベンフーター(Dungavenhooter)は、メイン州~ミシガン州間の沼地に棲息するとされた、ワニのような怪生物である。
見た目は巨大なクロコダイルそのものだが、口がなく巨大な鼻の穴を持つという特徴がある。

この怪物は茂みの中で、人間が通りかかるのを虎視眈々と待ち構えているという。
そして近づいてきた人間を、強靭な尻尾で叩きのめして撲殺する。

獲物が死んだ後も攻撃は続き、なんと粉末状になるまで殴り続けるというのだ。
通常、いくら殴ったとしても粉にはならない筈だが、そこはフィアサム・クリッター特有の不思議な魔力が働いているのだろう。

最後は粉になった獲物を、鼻から吸い込んで食べてしまうという。

3. ハイドビハインド

画像 : ハイドビハインド(Hidebehind) イメージ 草の実堂編集部

開拓民の主な仕事といえば、樹木の伐採である。

しかし、仕事に出かけた木こりがいつまで経っても野営地に戻らず、そのまま行方不明になることも開拓時代には珍しくないことだった。

そんな木こり失踪事件の犯人だと噂されたのが、ハイドビハインド(Hidebehind)という化け物である。

hideは「隠れる」behindは「後ろに」を意味する。
その名の通り、この怪物は人間の背後に隠れるのが得意だとされ、一度たりともその姿を目撃されたことはないという。

ハイドビハインドは人間の内臓が好物であり、そのステルス性を活かし木こりを背後から襲撃する。
そして巣穴に引きずり込み、生きたまま貪り喰うとされている。

開拓民にとって未開の森での伐採作業は、常に死と隣り合わせのものであった。

いかに屈強な木こりといえど、グリズリーやピューマなどの野生動物に襲われればひとたまりもなく、白人に恨みを持った先住民によるゲリラ的な襲撃も度々発生していた。

同僚が一人また一人と消えていき、次は自分の番かも知れないという恐怖。

その耐えがたい恐怖とストレスが、ハイドビハインドの伝説を生み出したと考えられている。

4. スナリーギャスター

画像 : スナリーギャスター(Snallygaster) イメージ 草の実堂作成

スナリーギャスター(Snallygaster)は、メリーランド州フレデリック郡に伝わるドラゴンである。

この生物の伝説は1730年代、同地に入植したドイツ系移民の間で囁かれるようになった。

スナリーギャスターの姿は爬虫類と鳥が融合したかのようで、鋭利な歯が並んだ金属のようなクチバシを持つという。また、タコのような触手も備えており、この触手で人間を音もなく捕らえ、空高く運び去っていくとされている。

当然こんな生物が実在するわけがなく、単なる与太話で終わるはずだったのだが、時は流れて1909年、なんとスナリーギャスターと思しき怪物の目撃談が新聞記事に載せられたのだ。

この報道は一大センセーションとなり、怪物の皮に懸賞金までかけられる事態となった。
当時の大統領もこの怪物に関心を示し、自らの手で狩ってやろうと息巻いたという。

しかしこれらの報道は後に、新聞社が購読数を増やすために仕組んだデマだったことが判明した。

現代でもデマによる情報被害は問題となっており、AIの発展などでこれからますます加速していくものと思われる。

情報リテラシーの向上は、今後の人類の課題とも言えるだろう。

参考 : 『Fearsome Critter Database』
文 / 草の実堂編集部

アバター

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. アバター
    • 名無しさん
    • 2024年 10月 27日 4:08pm

    あのね…
    この媒体には「校正作業」は無いの?
    ちょっと日本語の使い方が酷過ぎませんか?
    折角、
    ナイスな情報をイイ感じのイラストまで挿してるというのに
    なんですか?

    例:ダンガベン・フーター
    『この怪物は茂みの中で、人間が通り過ぎるのを虎視眈々と待ち構えているという。』
                 ↓
    『通り過ぎる』ではなく、こういう場合は『通りかかる』を使う。
    『通り過ぎるのを待つ』状態というのは
    気配を悟られぬようにやり過ごす様である。

    0
    0
    • アバター
      • 草の実堂編集部
      • 2024年 10月 27日 5:44pm

      ご指摘ありがとうございます。
      後ろから襲い掛かる場合もあるかと思い可としましたが、気になる方がいたようですので修正させていただきました。
      他にもございましたら、お手数ですがご指摘していただけるとありがたいです。

      1
      0
  2. アバター
    • 名無しさん
    • 2024年 10月 27日 6:00pm

    編集部様

    御返答、痛み入ります。
    なるほど、背後を突くために
    件の物の怪は、左様な…

    当方の想像力が及ばず
    暴言に値する書き込み、
    どうかご容赦下さいませ。

    0
    0
    • アバター
      • 草の実堂編集部
      • 2024年 10月 27日 7:50pm

      いえいえ、ご指摘いただけることはありがたいですし
      まだまだ気づかない部分も多いと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。

      0
      0
  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 【光る君へ】いにしへの…で有名な女流歌人・伊勢大輔(いせのたいふ…
  2. 【最も美しい死刑囚】20歳で処刑された中国少女「陶靜」が選んだ愛…
  3. 『インド人女性5億人を救った』アルナーチャラム・ムルガナンダム …
  4. 【クトゥルフ神話の生みの親】ラヴクラフトとは ~世界的人気小説家…
  5. 【カッとなって殺人】キレやすかった戦前の小学生 〜小6の連続通り…
  6. 日本全国に鎮座する「一の宮」はどんな神社?その歴史と創立の理由を…
  7. 『女優は下賤な存在だった』 日本最初期のお嬢様女優・森律子の波乱…
  8. 【光る君へ】藤原惟規(高杉真宙)は紫式部(まひろ)の弟?それとも…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

【権力争いで蹴落とされた神社】 世俗の力関係が反映された3社とは

日本には約8万社の神社が存在すると言われています。その中でも、特に格式の高い神社は、…

応仁の乱の原因は史上最も「ゆるくて醜い」家督争いだった

両軍合わせて27万もの軍勢を動員し、11年にも及んだ「応仁の乱」。どの勢力が戦い、勝者は誰だった…

平安時代の「内裏」での女性の役職とは? 【光る君へ】

紫式部を主人公にした大河ドラマ「光る君へ」で今注目されている「平安時代」。平安時代といえば、…

NHKマイルカップの歴史を調べてみた

NHKマイルカップ(3歳オープン 国際・指定 牡・牝 定量 1600m芝・左)は、日本中央競…

史上初めて数学教授になった マリア・ガエターナとは 「歴史に残る女性数学者たち」

現代でも数学を専門に学ぶ女性は、男性と比べて多くないイメージがある。数学の大学教授となった最…

アーカイブ

PAGE TOP