三國志

「三国志」は中国では意外と人気がなかった 【中国で人気の武将とは】

「三国志」は中国では意外と人気がなかった

画像 : 劉備三兄弟。public domain

中国史に高い関心を持つ日本人は多い。

特に、三国志に関してはプレイステーション2時代に爆売れした『三国無双』シリーズが受け皿となって知名度が上がり、劉備や曹操などの登場人物も広く知られるようになった。

しかし、意外にも本国の中国では、三国志は日本ほど傑出して人気があるというわけではないという。

中国ではどの時代が人気なのか?

中国国内でも、2000年頃から漫画やアニメ、ドラマの影響で三国志の知名度が一気に上昇し、ある程度の人気は獲得しているようである。

ただし、五代十国から宋の時代、そしてアヘン戦争から現在に至る近代中国史の方が、人気が高いという。

「三国志」は中国では意外と人気がなかった

画像 : 岳飛 public domain

特に、中国国内では岳飛(がくひ)を代表とする宋代の人物が圧倒的な人気であり、三国志好きの日本人が曹操や劉備などを語るように、岳飛はとてつもなく魅力的な英雄として話題に登るようである。

中国の三国志人気は昔より上昇中?

日本ではコーエーというゲームメーカーから三国志に入門して、そこから吉川英治氏の「三国志」を読んだり、横山光輝の漫画「三国志」を楽しんだという人が多いだろう。

しかし2000年頃までの中国では、そういった入門しやすい漫画や小説といった三国志向けの媒体が少なかったようで、陳寿が著した三国志(正史)や明代に書かれた三国志演義などの原著がメインだったようである。

当時の中国の子供がどういった娯楽を好むかまでは詳しくないが、そういった小難しい原著を手に取って挑める子供はごくわずかだという事は、想像に難くない。

しかし、2000年代になると中国でもドラマが作られたり、ユーモラスな分析や現代的な例えなどを加えた三国志品評の書物『品三国』が登場し、これがベストセラーとなる。

こうして若い人達を中心に、三国志人気が高まったのである。

中国では人気の国も人物も違う?

それでは中国人にとって、三国志の英雄はどのように映っているのだろうか?

日本では昔から劉備趙雲関羽あたりが人気で、最大勢力である魏の曹操は、1994年からモーニング誌で連載が開始された「蒼天航路」の登場までは、完全に悪役というイメージだった。

「三国志」は中国では意外と人気がなかった

画像 : 曹操孟徳 public domain

現在の中国では、魏と曹操の評価がかなり高まっており、逆に蜀と劉備の評価は落ちているというのが実情のようだ。(趙雲や関羽などの人気はそれなりにある)

曹操はカルト的な人気があり、一部界隈では「曹老板(ボス)」という相性で、最高の英傑の一人として扱われている。

曹操および魏が人気になったことには、もちろん理由が存在する。

まず、中国人は国をしっかりと統一して強い国にしてくれる人物が大好きであり、この時代の第一人者は間違いなく曹操だからである。

それがくじかれたのがハリウッド映画にもなった「赤壁の戦い」であり、この戦いで敵として立ちはだかった蜀の劉備と呉の孫権は、邪魔でしかないという考え方だ。

劉備は、天下統一の邪魔をして治安も乱した敵という認識すらあり、人気が急落していると言われている。
三国志演義などで劉備が好きになったという人も、知識の幅を広げた結果、劉備も蜀も嫌いになったというパターンが多いようだ。

面白いところが、日本ではほとんど人気がない蜀を滅ぼした武将・鄧艾(とうがい)も、かなり人気があるようだ。

「三国志」は中国では意外と人気がなかった

鄧艾 画像:wiki c

鄧艾は吃音(どもり)というハンデがありながらも極めて優秀な人物だった。そういったハンデがある人物が活躍するのも好きなお国柄である。

さらに、彼は家柄よりも能力を優先する能力主義であったので、現代の若者を中心として、合理的な思考を持った理想的な上司として見られている。

そして、起業家になりたいという若者にとって理想的な上司の一人として、曹操も挙げられている。

これも時代の変化と言ってしまえばその通りなのだが、調べれば調べるほど中国人にとっての三国時代の理想の国は、曹操の魏になってくるのである。

 

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 魯粛の実像【三国鼎立の立役者・正史三国志】
  2. 『三国志』耳と鼻を犠牲にして貞操を貫いた女傑~ 夏侯令女の伝説
  3. 【三国志以前の大事件】 党錮の禁とは ~汚職まみれの宦官たちが清…
  4. 【関羽と魯粛の会談】蜀と呉の戦を収拾した単刀赴会の真実
  5. なんで男性ってみんな三国志が好きなの?江戸時代から日本で大流行し…
  6. 龐統は呉のスパイだった?【三国志の珍説】
  7. 『三国志演義』で描かれた凄まじい”関羽の呪い”とは?
  8. 三国志の名門「袁家」はなぜ滅亡したのか?【袁紹の死と後継者問題】…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

全身入れ墨の美人盗賊~ 雷お新 「伊藤博文を美人局で脅し、死後、入れ墨は人体標本に」

明治の初め、美貌を武器に暗躍した雷お新という女盗賊がいました。全…

【文豪たちをメロメロにさせた魔性の美人記者】波多野秋子 ~人気作家を虜にした心中事件

大正12年(1923)6月、人気作家の有島武郎が、軽井沢の別荘でひとりの女性と心中した。約1…

サラ・ベルナールについて調べてみた【新芸術様式アール・ヌーヴォーの立役者】

サラ・ベルナール (1844~1924)という女優をご存じだろうか。彼女は、当時新し…

シリーズ最高傑作『三國志13』の楽しみ方 ~天下統一編~

天下統一までの道前回は『三國志13』の戦闘面以外の楽しみ方を紹介したが、今回はシリーズの…

【世界初の軍縮条約】ワシントン海軍軍縮条約はなぜ締結されたのか?

世界初の軍縮条約ワシントン海軍軍縮条約は、1922年(大正11年)にアメリカ、イギリス、イタリア…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(週間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP