宗教

古来の「霜月祭り」から現代のブラックフライデーまで 〜11月に受け継がれる“感謝のかたち”

11月もいよいよ後半。一年の終わりが近づくと “感謝の祭り”が行われます。

日本では11月23日(日)は「勤労感謝の日」、アメリカでも11月27日(木)は「Thanksgiving Day(感謝祭)」があります。

そして、その感謝祭に合わせて行われるのが、小売店が消費者に向けておこなう感謝のセール、「ブラックフライデー」です。

画像 : アメリカのブラックフライデー Powhusku CC BY-SA 2.0

これは、アメリカの感謝祭の翌日の金曜日のことで、百貨店や大型小売店などで在庫一掃セールが行われ、毎年熱狂的な盛り上がりをみせています。

近年では、日本でもさまざまな企業がこの「ブラックフライデー」を大々的に行うようになり、定着してきました。

約1000年の時を経て、11月には、米や野菜の収穫を神に捧げる古来の神事から、働く人々をねぎらう勤労感謝の日が生まれ、さらに小売店が消費者へ感謝を示すセールが定着し、いまでは一年頑張った自分へのささやかなご褒美に活用されることも増えています。

今回は、その長い変遷をたどっていきます。

11月の感謝の神「霜月祭り」

旧暦の11月(霜月)に行われる感謝の神事が「霜月祭り」です。

全国各地にさまざまな形で伝わっていますが、とくに知られているのが「霜月神楽」と呼ばれる儀式です。

神前に大きな釜を据えて湯を沸かし、笹などを浸してまわりに振りかける湯立の作法が行われるため「湯立神楽」とも呼ばれています。

たとえば、代表的な「霜月神楽」の一つとして知られるのが、南アルプス連峰を望む日本のチロルとも呼ばれる長野県・遠山郷の「霜月祭り」です。

画像 : 遠山の霜月祭の像。右には湯立てを模した飲泉があり、飲用可。 道の駅遠山郷にて2009年(平成21年)撮影 NALA Wiki CC BY-SA 3.0

この祭りでは、その年の収穫に感謝し、五穀豊穣や無病息災、魂の再生を祈る「湯立て神事」が行われます(国重要無形民俗文化財)。

遠山郷では平安末期から鎌倉期にさかのぼるともいわれる長い伝承があり、夜になると湯立てを何度も繰り返し、神社に据えた大きな湯釜で沸かした湯を神々に供え、参列者も浴びて清めます。

全国から神々を招き、湯でもてなし、太陽と生命の再生を祈る儀式と考えられており、一年最後の祭りにあたるため、穢れを払い新たな年を迎える意味も込められています。

「千と千尋の神隠し」の原点?

「霜月祭りは知らない」という人でも、映画『千と千尋の神隠し』の世界観を思い浮かべるとイメージしやすいかもしれません。

「湯立て神事」では、まず、釜に湯を沸かし「湯開き」の儀式を行い、全国の神社の名前を読み上げながら、湯木を湯につけるふりをする「一の湯」を行います。

画像:程野正八幡宮の湯立て wikic 岡庭圭佑

そして、夜には神々の面をかぶった人々が「神々の息吹きのかかった湯」を観客に跳ね飛ばす儀式を行い、皆でご利益をもらいます。

最後は、湯でおもてなしをした神々にお帰りいただく「神送り」の儀式。

招待した神様の中には、災いを呼ぶ神様や御霊の神様なども含まれているので、最後にはおかえり頂かないと困るからだそうです。

こうした「日本中の神様がお湯に浸かりにやってくる」ような湯立ての祭りは、遠山霜月祭をはじめ各地に伝わっており、その雰囲気は『千と千尋の神隠し』の湯屋のイメージとも重ねて語られることがあります。

神々がお風呂に入って「ほぉ〜」っとため息をつきリラックスするところを想像すると、親しみを感じるお祭りですね。

伝承ではこの祭りは、平安時代の末から鎌倉時代にかけて始まったともいわれています。

収穫を神に感謝する祭りから「勤労感謝の日」へ

画像:新嘗祭「神嘉殿の儀」政府広報オンライン CC BY 4.0

新嘗祭」は、宮中や全国の神社で行われる感謝の祭りです。

その年の収穫を祝い、翌年の豊作を祈願する大切な祭祀で、古事記や日本書紀にも新嘗祭に相当する記述があり、古代から続く行事とされています。

新米を神に供え、収穫に感謝する儀式は、もとは宮中でのみ行われていましたが、現在では全国の神社でも広く執り行われています。

祭りの内容は地域によって異なりますが、新米や野菜、水、酒、塩などを感謝と祈りを込めて神々に捧げ、それを下げていただくことで厄を祓い福を授かるとされ、その後に各社独自の儀式や行事が続きます。

明治6年(1873)には、明治政府の布告によって「新嘗祭」は、1年に8日設けられた祝祭日の一つとして、正式に祭日となりました。

その後、第二次世界大戦後の1945年12月15日、GHQが「神道指令」を発し、国家神道を廃して神道を宗教として扱う体制が整えられました。

さらに、1948年に制定された「国民の祝日に関する法律」により、11月23日は国民が「生産と働きに感謝する日」として「勤労感謝の日」と定められました。

アメリカの感謝祭「Thanksgiving Day」

画像:Thanksgiving Dayの食卓 unsplash Megan Watson

一方、アメリカでは11月の第4木曜日に「Thanksgiving Day(感謝祭)」が行われます。

神事を行う日本とは異なり、家族や友人と集まりターキーを焼いて収穫や日々の恵みに感謝を捧げるイベントのような祝日で、起源は、今から400年以上前の1621年にさかのぼります。

この年、現在のマサチューセッツ州プリマスに建設されたプリマス植民地で、イングランドから渡ったピルグリム(英国清教徒)と、先住民ワンパノアグ族が収穫を祝い、3日間にわたって宴を開いたことがこの感謝祭の原点とされています。

ブラックフライデー

そして、ブラックフライデーは、その「Thanksgiving Day」の翌日の金曜日に行われる大規模セールを指します。

語源については諸説ありますが、アメリカの小売業者がこの時期に大幅な売り上げ増を見込めるようになり、黒字が見込めることから「ブラック」と呼ばれるようになったとか。

「Thanksgiving Day」は木曜日に行われるため、多くの人が日曜日まで4連休をとって帰省し、家族と過ごします。
そのため、いつもよりも客足が多く売り上げ増加が見込めるのです。

日本では、2014年に日本トイザらスが大規模な「ブラックフライデー」セールを実施したことをきっかけに、一気に広く認知されるようになりました。

2025年のブラックフライデーは11月28日(金)ですが、日本では勤労感謝の日(23日)が控えることもあり、21日(金)ごろから月末にかけてセールを展開する企業が多くなっています。

アメリカの場合は、実店舗に開店前から長蛇の列ができ、開店と同時に先を競って店内に入る「ドアバスター」たちで熱狂的な騒ぎになることでも知られています。

日本の場合はセールの開催期間が長いので、実店舗に並ぶより、オンラインサイトでじっくり考えてショッピング自体を楽しむ人が多いようです。

画像:ブラックフライデーの店頭 unsplash Ashkan Forouzani

豊かさへの感謝

近年、ブラックフライデーは単なるセールではなく、1年間頑張って働いてきた自分へのご褒美として楽しまれるようになっています。とくにECサイトがブラックフライデーを展開したことで、自宅でゆっくり商品を選びやすくなり、年末のボーナス時期とも重なって、自分自身をねぎらう買い物を楽しむ人が増えています。

日本では、もともと11月は自然や神々の恵みに感謝する霜月祭りや新嘗祭が行われ、のちに勤労感謝の日として「働く人々」への感謝へと意味が移ってきました。

そこに海外発のブラックフライデーが加わったことで、感謝の対象が「自然や神様」から「労働を支える自分自身」へと、受け止め方がさらに変化してきたといえます。

神事と大規模セールはまったく異なるものですが、一年の節目にそれぞれの形で豊かさを受け取り喜ぶという点が重なっているのは、興味深いところです。

参考:
大嘗祭の起こりと神社信仰: 大嘗祭の悠紀・主基斎田地を訪ねて 森田勇造
遠山霜月祭の研究 櫻井弘人
文 / 桃配伝子 校正 / 草の実堂編集部

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アパレルのデザイナー・デザイン事務所を経てフリーランスとして独立。旅行・歴史・神社仏閣・民間伝承&風俗・ファッション・料理・アウトドアなどの記事を書いているライターです。
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