日本史

天皇と人間宣言について解説 【天皇の概念の推移】

天皇とは

天皇と人間宣言について解説

画像 : 天皇旗

海外で暮らしていると、日本の天皇についてよく尋ねられる。

大統領のようなものか?それとも国王のような位置づけか?

天皇の定義については以下の通りである。

「日本国憲法において日本国および日本国民統合に象徴と規定される地位、またはその地位にある個人」

7世紀頃に大王が用いた称号にはじまって、歴史的な権能の変遷を経て現在に至っている。

「天皇」は大和朝廷時代の大王が用いた称号であり、奈良時代から平安時代にかけて政治・祭祀の頂点だったが、摂関政治・院政・武家の台頭により政治的実権を失っていった。

帝国憲法法上は、天皇は「神聖不可侵」であること、国の元首であり、政治権を総攬することが規定された。

神聖不可侵」とは天皇の神格化のことではなく、「不敬行為を許さぬこと、政治上の責任を負わないこと、一般に国法の適応を負わないこと、皇位を廃することは不可能である」という4つの法律的内容を持つとしている。

特に戦後の日本国憲法においては「日本国及び日本の国民統合の象徴」と規定された。

戦時中における天皇崇拝

第二次世界大戦の敗北を受けて、日本人の天皇への概念が変わったといえよう。

二度の大戦において天皇は「現人神」と呼ばれた。

「この世に人間の姿で現れた神」を意味する言葉であり、生きながらも死者と同じ尊厳を持つ。

王政復古の形式をとった明治新政府は、大日本帝国憲法第三条において「天皇ハ神聖ニシテ侵スへカラス」と定め、神格化された天皇を国民統合の精神的中核とする国家体制を形成した。現人神概念は実証主義と切り離された概念論的な概念として扱われたのである。

神聖な存在として、多くの若者が「御国のために」「天皇陛下万歳」といって死んでいったのだ。

第二次世界大戦後の天皇

天皇と人間宣言について解説

画像 : 昭和天皇

第二次世界大戦敗戦後、天皇のいわゆる「人間宣言」によってその神格性が「架空のもの」であると念押し的な意味合いで言及されたため、公の場で「現人神」と言う呼称を用いられることはなくなった。

ただし、これに一部の右翼・保守派、宗教者の一部は疑念を抱き、現在でも天皇を「現人神」として神聖視している者もいる。

人間宣言

人間宣言とは、第二次世界大戦敗北後、連合国占領下の日本で1946年1月1日に発布された昭和天皇の詔書である。

天皇を現御神とするのは架空の概念である」と述べ、自らの神性を否定した。

だが「天皇の先祖が日本神話の神であること」や、歴代天皇の神格は否定しておらず、神話の神や歴代天皇の崇拝のために天皇が行う神聖な儀式を廃止するわけでもなかった。

占領当局は「天皇は他国の元首より優れた存在で、日本人は他の国民より優れている」といった説教を非合法化し、天皇自身で自分の神格を否定させるのが目的だった。

自分を神と主張したことのない昭和天皇は、占領当局の意向に同意したというわけだ。
この詔書は、日本国外では「天皇が神から人間に歴史的な変容を遂げた」と歓迎された。

1977年の記者会見にて昭和天皇は、戦国民主主義は日本に元からある五箇条の御誓文に基づくものであるということを明確にした。

神格の放棄はあくまで二の次で、本来の目的は日本の民主主義が外国から持ち込まれた概念でないことを示すことだった」と述べた。

この人間宣言は三島由紀夫の自決事件など、日本国内で大きな問題を引き起こすこととなった。

天皇と人間宣言について解説

画像 : 演説する三島由紀夫

現代の皇室についての世論

このように、時代によって天皇に対する概念は変わってきた。

世論調査では、皇室に関心がある人や親しみを感じている人は高い割合となった。

平成天皇について言えば、災害が起きれば自らお言葉を述べられ、ご自分で出向かれ、国民と苦楽を共にし、共感するという在り方が、メディアを通して多く取り上げられた。

若者世代にしても、調査に応じた五割が皇室に関心を持っていた。

社会の変化と共に情報を伝えるツールも急速に進歩している。皇室と国民の距離も以前に比べれば身近になったといえるだろう。

天皇皇后の活動や考えが、私たち国民に伝わることで、私たち自身が象徴天皇とは何なのか考えるきっかけになるだろう。

 

アバター

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 長宗我部氏-始まりから四国平定まで
  2. 3万年前の航海を徹底再現!旧石器時代について調べてみた
  3. 日本人と桜の歴史について調べてみた
  4. 戦国時代の驚くべき裁判方法~ 湯起請と火起請とは 【焼けた鉄を長…
  5. 【夜を統べる月の神】 月読命の謎 「なぜ三貴子の中で全く存在感が…
  6. 幕末は戦国時代同様の下剋上状態だった? 将軍や藩主さえも殺される…
  7. 本当は怖い日本昔話 【桃太郎は捨てられて流された子だった?】
  8. 日の当たらない墓について調べてみた【吉見百穴 まんだら堂跡 ガマ…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

【光る君へ】祇子女王(稲川美紅)の女房名「進命婦」とは何? 歴史ライターが考察

隆姫女王の同母妹祇子女王(のりこじょおう)稲川 美紅(いながわ・みく)隆姫女王の同母…

頑固は損?ブレる人ほど成功する?遺伝子が明かす意外な真実とは

パーキンソン病は、手足が震えたり筋肉がこわばったりする病気、脳内のドーパミンが不足するのが原…

ねぇ、空気読も?北条義時の喪明けを一人で勝手に行なった北条朝時【鎌倉殿の13人 後伝】

元仁元年(1224年)6月13日、北条義時(演:小栗旬)が62歳で波乱の生涯を終えました。そ…

黄金の国「ジパング」とは岩手県のことだった説 ~後編 【コロンブスも影響を受けた?】

前編ではマルコポーロの東方見聞録と、かつては東北で金が多く採れたこと、そして「黄金の国ジパング」が東…

【フランスを破滅に導いた悪妃】イザボー・ド・バヴィエール ~私利私欲に溺れた亡国の王妃

14世紀から15世紀にわたる英仏の百年戦争時代、私利私欲に溺れて自国フランスを破滅に導いた亡…

アーカイブ

PAGE TOP