日本史

古事記 ~人々が地上に現れる以前の神代の物語

現存する日本最古の書物「古事記」。

天武天皇が編纂を命じ、奈良時代の初期である712年(和銅5年)に完成した。そこには人々が地上に現れる以前の神代の物語が綴られている。

歴史が動き出す以前、いにしえの人々が信じた不可思議な世界がそこにあった。

ヤマタノオロチ

日本列島をつくり出したイザナキイザナミの夫婦は、天照大御神、ツクヨミ、スサノオを産み、天照大御神は天岩戸に隠れてしまう。

しかし、アメノウズメの踊りに惹かれた天照大御神は天岩戸を開いたことで天地には光が戻り、天上の世界「高天原(たかまのはら)」で暴れたスサノオは地上に追放されてしまった。

ここまでは、古事記のなかでもよく知られた一節である。

その後、出雲国に降り立ったスサノオは涙に暮れる老夫婦と娘に出会った。話を聞くと八つの頭と八つの尾をもつ「ヤマタノオロチ(八俣遠呂智)」の生贄として、娘のクシナダヒメ(櫛名田比売)を差し出さなければいけないという。そこで、スサノオはクシナダヒメとの結婚を条件に一計を案じ、オロチを酒で酔わすと頭を切り落としてこれを退治した。

オロチの身体からは太刀が現れ、スサノオはこれを天照大御神に献上する。この太刀こそ「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」である。

その後、スサノオは出雲に宮を築き、クシナダヒメとの間に多くの神をもうけたのだ。

古事記の天孫降臨までの神々
【※ヤマタノオロチ(月岡芳年・画)】

大国主とスサノオ

古事記
【※出雲大社にある大国主の銅像】
出雲の「オオナムチ(大国主/おおくにぬし)」には「八十神(やそがみ)」という兄弟がいた。しかし、八十神はオオナムチを嫌っていた。

あるとき、オオナムチは、因幡のヤガミヒメに求婚する八十神に荷物を持たされ、共に因幡に向かうこととなる。その途中でワニ(鮫のこと)に皮をむかれ、八十神に傷がひどくなる嘘の治療法を教えられて泣いている白うさぎと出会った。オオナムチは正しい治療法を教え、兎がその通りにするとたちまち傷か癒えた。これが「稲羽の素兎(しろうさぎ)」の話である。

八十神はヤガミヒメに求婚するが、ヒメは兎を助けたオオナムチと結婚するという。怒った八十神はオオナムチを殺害した。オオナムチは2度命を奪われたが母であるサシクニワカヒメ(刺国若比売)によって蘇生する。執拗な八十神から逃れるため、オオナムチは根の国(死者の国)のスサノオを訪ねた。

根の国でオオナムチはスサノオの娘「スセリヒメ」と出会い、互いに恋に落ちた。しかし、スサノオはオオナムチを認めずに蛇、ムカデや蜂のいる部屋に寝かされたが、スセリヒメの機転によって難を逃れる。さらにスサノオはオオナムチを草原に導き、火を放つがオオナムチはまた危機を脱した。オオナムチはスサノオが眠った隙にスセリヒメを背負って逃げ出す。

スサノオは葦原中津国(あしはらのなかつくに/地上)へと通じる黄泉平坂(よもつひらさか)まで追うが、遂にあきらめ「持ち出した生太刀・生弓矢を使って従わない八十神を追い払ってオオクニヌシとなり、スセリヒメを正妻として宮に住め」と命じた。

こうして大国主となったオオナムチは、八十神を退けて国づくりを始めたのである。

国津神の平定

大国主は、出雲の御前(美保岬)にやってきたスクナビコナとともに国を固めるが、間もなくスクナビコナは常世国(とこよのくに/異世界)へ去ってしまう。

嘆く大国主のもとへオオモノヌシがやってきて「私を祀れば国作りを助ける」という。こうしてオオモノヌシは御諸山(三輪山)に祀られた。

古事記
【※三輪山(神体山)と大神神社(おおみわじんじゃ)の大鳥居】

一方、高天原の天照大御神は「葦原中津国は私の子供が統治すべきだ」と主張し、八百万の神々と協議の上、地上の神(国津神)を平定するために、アメノホヒを地上に降した。

ところがアメノホヒは、3年経っても報告すらしない。そこでアメノワカヒコを使わしたが、今度は8年経っても報告がない。次いで、雉のナキメを遣わしてアメノワカヒコを問いたださせるが、ナメキは弓矢で射殺されてしまう。ナメキを射た矢は高天原にいた高皇産霊神(タカミムスビ)の手に届く。「アメノワカヒコが邪心を持つならばこの矢が当たるだろう」と地上に投げ返され、アメノワカヒコの命を奪った。

天照大御神と神々は、タケノミカヅチを地上に遣わした。タケノミカヅチは大国主に国を譲るように迫る。

大国主が息子のコトシロヌシに返答を任せると、コトシロヌシは「国は譲りましょう」といって身を隠してしまった。タケノミカヅチは「ほかに意見をいうものはいるか」と問う。大国主の息子タケナミカタがタケノミカヅチに力比べを挑むが敵わず、諏訪まで逃げたが降参した。これが相撲の起源であるとされている。

大国主は、天に届くほどの宮殿を建てることを条件に国を譲る。タケノミカヅチは高天原に戻り、このことを伝えた。

天孫降臨

地上の統治者には、天照大御神の孫であり、アメノオシホミミの息子ニニギが選ばれた。

ニニギが降ろうとすると、道の辻で高天原と葦原中津国を照らす神がいる。アメノウズメが名を問うと国つ神サルタヒコと名乗り、先導するために天津神(高天原の神)の御子(ニギギ)を出迎えているという。

古事記
【※ニニギ】

天照大御神は「八尺勾玉(やさかのまがたま)」と鏡、草那芸剣(くさなぎのつるぎ)の三種の神器を与え、アメノウズメを始めとした5神を共にしてニニギを降臨させる。

一行は筑紫の日向国(ひむかいのくに)の高千穂の峰に降りた。ニニギは「ここは大変よい土地だ」というと、立派な宮殿を建てた。この場合の高千穂とは、九州南部の高千穂峰と宮崎県の高千穂町のどちらかを指すとされているが、定かではない。

このようにして、古代の神々は日本の大地に降りたのである。これが「天孫降臨」と呼ばれることになったのだ。

最後に

やがてニニギは、葦原中津国でみずからの寿命と引き換えにコノハナサクヤビメを妻とした。このことで、神でありながら現在でも天神御子の寿命が短くなったのである。

やがて、その血は神武天皇へとつながり、古事記の物語は人の時代へと移るようになる。

 

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