古代から現代まで、意図的に力をくわえて頭蓋骨を変形させる「人工頭蓋変形」は、世界各地の文化圏で見られる奇妙な習慣だ。
しかし日本に限っては、意図的に頭蓋変形が行われていた可能性については言及されていたものの、なぜか詳細な研究は行われず、意図的・人為的な頭蓋変形の習慣が、日本の古代社会に存在したのか否かについて、明らかにされてこなかった。
そこで九州大学を含む生物学人類学者と考古学者の国際研究チームは、弥生時代から古墳時代にかけての大規模な墓地遺跡である、鹿児島県種子島の「広田遺跡」から出土した古人骨について研究を行うことにした。
短頭と扁平な後頭骨の特徴を持つことから、意図的に変形されたものなのか、それとも意図しない生活習慣や自然現象による結果なのかを明らかにすることを目的として、研究が行われた。
そして「意図的に人為的な頭蓋変形が行われた」とする研究成果が、査読付き学術誌『PLOS ONE』(2023年8月17日付)に掲載され、大きな反響を呼んだ。
なお本記事では、以降、意図的・人為的に行われた頭蓋変形を「人工頭蓋変形」と表記する。
人工頭蓋変形とは
「人工頭蓋変形」(Artificial Cranial Deformation)とは、頭蓋骨の形状が意図的・人為的に変更される、身体改造の一形態ことを指す。これは歴史的に、特定の文化圏や民族において、さまざまな方法で頭部の形状を変えるために行われてきた。
この人工頭蓋変形が行われた動機や背景については、社会的なアイデンティティ、美的価値観、または特定の宗教的な信念に関連しているとされている。
後述するが、この習慣は古代より存在しており、現在においても、一部の地域で引き続き行われている不思議な習慣なのだ。
広田遺跡と広田人
日本で頭蓋骨の変形と古くから関係している場所の一つが、「鹿児島県種子島の広田遺跡」といわれている。
また「広田人」は、弥生時代末期から古墳時代にかけて、つまり3世紀から7世紀にかけて約400年もの間、種子島に住んでいたとされる。
この遺跡は、その「広田人」の大規模な埋葬遺跡である。
広田遺跡は、1957年〜1959年、そしてその後2005年〜2006年にかけて調査され、多数の人骨が発掘されたが、そのほとんどの頭蓋骨が変形していることが後述の研究によって明らかになっている。
研究チームによる調査内容と結果
今回の研究では、広田遺跡から出土した頭蓋骨の「2次元(2D)アウトラインベースの幾何学的形態分析と3次元(3D)表面スキャンイメージングを組み合わせたハイブリッドアプローチを採用した」とのことである。
また、九州の縄文人と山口県の弥生人の頭蓋骨を、比較データとして分析したそうだ。研究チームは、頭蓋骨の形態を視覚的に評価する革新的な方法として、頭蓋骨外形状のイメージングと統計解析というアプローチを用いたとしている。
その結果、広田遺跡から出土した頭蓋骨は、ほかの頭蓋骨とは明瞭に異なり、「短く扁平な形態を特徴とする頭蓋骨形状」であることが明らかになった。
後頭部の扁平化、矢状縫合とラムダ縫合に沿った頭蓋骨をつなぐ部分にあるくぼみの存在は、広田人が意図的・人為的に頭蓋骨変形を行っていたことを強く示唆するとしている。
また、同数の男性と女性の遺骨が変形しているが、性別による頭蓋形態に有意な差は認められず、男女ともに意図的な頭蓋変形が行われていたことが示された。
つまり広田人の頭蓋骨の独特の変形はすべて、頭部をわずかに短くして後頭部を平らにする目的で「意図的」に行われたものだったということだ。
人工頭蓋変形の謎
広田人がなぜ、幼児の頭蓋骨に手を加えたのか? この習慣の動機や背景はまだ不明ではあるが、研究チームは、「広田の人々は、集団のアイデンティティを保持するために頭蓋を変形させたのではないか」と仮設を立てているそうだ。
副葬品から海外の貝類が見つかっているが、考古学的証拠からも裏付けられるように、貝類の長距離交易によって生じる島外、あるいは外部の集団との交渉を容易にした可能性があるという。
世界の人工頭蓋変形
人工頭蓋変形の証拠は、フン族、中世ヨーロッパの女性、マヤ、アメリカ先住民族、現在のペルーにある古代パラカス文化の人々など、歴史上の多くの集団で発見されている。
人工頭蓋変形は現在でも主に太平洋のバヌアツで行われており、細長い頭で描かれている神々の一人に似て見えるように頭蓋骨を変形させている。
まれに、コンゴ民主共和国の一部では、生まれつき頭が細長い少女がおり、これはステータス・シンボルであると報じられている。
世界の人工頭蓋変形の方法例
以下に、広田人ではなく、海外で行われてきた意図的・人為的な頭蓋変形の方法の一例を紹介する。
古代エジプトでは、頭の周囲に布を巻いて圧力をかける方法が主流だった。
乳児の頭に布や板を巻き付けて、頭の形を長く伸ばしていく。この方法は数ヶ月から数年かけて行われ、頭が長く伸びた形に定着するという。
また、インカやマヤでは、頭を板や木製の枠に固定して圧力をかける方法が用いられた。
乳児の頭を特定の方向に押し続けながら成長を促す方法で、頭の形を長く伸ばすだけでなく、頭の側面を平らにする効果もあるという。
なお、これらの人工的に頭蓋変形を行う習慣や文化を、遺産として認定しようとする働きがあるそうだ。
さいごに
日本の古代社会において、「意図的な頭蓋変形を確認した」のは本記事で紹介した研究が初である。
今後の、広田遺跡出土古人骨と副葬品のさらなる調査により、東アジアや世界におけるこの習慣の社会的・文化的意義について、新たな知見が得られる可能性が期待されている。
参考文献 : POLS ONE
タイトル:Investigating intentional cranial modification: A hybridized two-dimensional/three-dimensional study of the Hirota site, Tanegashima, Japan
著者名:Noriko Seguchi, James Frances Loftus III, Shiori Yonemoto, Mary-Margaret Murphy
DOI:10.1371/journal.pone.0289219 https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0289219
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