三好長慶の決断
今回は前編に続いて後編である。
思い悩み考え抜いた三好長慶が下した決断は、「自らが政権を握る」ことであった。
長慶は将軍や後ろ盾すら持たない「三好政権」を樹立することを決意したのである。
長慶は現在の大阪府高槻市の芥川城に本拠地を移すと、城下の水争いに近臣を派遣して直接採決を下すなど、公平な調停者として振る舞った。
また外交面では、明の使節が来日した時に武家の代表として天皇と共に対面をしている。
長慶は明の使節から高い評価を受け、歴史上の偉人になぞられるほどの人物として扱われた。そして優れた統治者として畿内を治め、将軍に代わる天下人と呼べる存在となったのである。
その時、足利義輝は?
一方の将軍・足利義輝は現在の滋賀県高島市、かつては「朽木」と呼ばれた場所に身を寄せていた。
義輝はこの地で都への返り咲きを虎視眈々と狙っていたのである。
将軍の名の元に全国各地の和睦調停を積極的に行い、地方勢力との結びつきを強めていた。
やがて義輝の行動は実を結ぶこととなる。
石山本願寺を味方につけ、六角氏と共に長慶に対抗できる体制作りを整えていった。
改元問題
その頃、決定的な事件が発生する。
1558年に即位した正親町天皇(おおぎまちてんのう)が「弘治」から「永禄」に改元を行なってしまったのである。
本来は武家の代表である将軍が、儀式の資金負担などを行いながら天皇と共に改元するのが通例であった。
しかし正親町天皇が選んだのは、将軍ではなく長慶であったのだ。
現職の将軍をないがしろにした改元に義輝の怒りは頂点に達し、前の元号である「弘治」を使い続け、長慶への対抗反発を表明した。
この「改元問題」から両者の緊張関係は高まり、義輝は京の都を奪還するために挙兵する。
まず中国地方の毛利が「弘治」の元号を使い続けて義輝側の支持を表明した。更に尼子・六角・朝倉・斎藤・織田と義輝を支持する反三好政権が浮き彫りになっていった。
まさかの「改元問題」で三好政権の基盤の弱さを突きつけられた長慶は、苦渋の決断を下すことになる。
苦渋の決断と三好政権の崩壊
永禄元年(1558年)11月、将軍・義輝と長慶は2度目の和睦に応じ、義輝を再び京の都へ迎い入れた。
長尾景虎、斎藤義龍、織田信長たちが次々と上洛し、将軍・義輝の帰京を祝した。
こうして三好政権は、およそ5年で幕を閉じることとなる。
「将軍がいなければ全国各地の大名たちを従えることはできない」と、長慶は思い知らされたのである。
諦めなかった長慶
しかし長慶は、まだ諦めていなかった。
巨大な山城・飯盛山城を改修したのである。
この山城・飯盛山城は信長より先駆けた日本初の総石垣造りで、当時畿内最大規模を誇った難攻不落の山城であった。
しかも、この飯盛山城に「源氏」の氏神を祀る宗教施設も造っていた。
源氏の氏神を自らの城に祀ることで、三好一族は源氏の末裔として足利氏にも対抗できる正統な家柄であることをアピールしようとしたのである。
そして長慶は積極的な対外戦争を仕掛け、その支配領域は何と13か国にも及んだ。
長慶は、この山城から源氏の嫡流として再び政権を奪取しようとしていたことが考えられる。
悲劇
ところが、この頃から次々と長慶に悲劇が襲う。
三好家を支えてきた2人の弟・十河一存と三好実休が相次いで死去してしまったのである。
さらに、永禄6年(1563年)8月には嫡男・義興がわずか22歳で早世してしまう。
唯一の嗣子を失った長慶は、亡くなった弟・十河一存の息子で甥である重存(義継)を養子に迎えた。
彼は十河家を継ぐべき人物であったが血筋が良く、関白だった九条家の娘が母だった。
そして永禄7年(1564年)5月、長慶は仁将と呼ばれた弟の安宅冬康を飯盛山城に呼び出し、誅殺してしまった。
これは松永久秀の讒言を信じての行為という説もあるが、この頃の長慶は親類や周囲の人物の相次ぐ死によって心身に異常をきたし、病で思慮を失っていたという。
そのまま長慶の病は悪化し、同年7月4日に長慶は飯盛山城で病死、享年43だった。
その後
養子となった義継がまだ若年だったために、松永久秀と三好三人衆(三好長逸・三好政康・岩成朋週)が後見役として三好家を支えたが、将軍・義輝に忠誠心を見せる大名が現れたことに三好三人衆らは脅威を感じていた。
長慶の死後、三好の権力低下は決定的なものとなるが、義輝の権威は上昇し、更なる政治活動を行おうとしていた。
しかし、永禄8年(1565年)5月19日、三好三人衆らの軍勢が義輝を襲撃する「永禄の変」が起き、室町幕府第13代将軍・足利義輝は殺害されてしまうのである。
享年30であった。
おわりに
約18年間にも及んだ三好長慶 vs 将軍・足利義輝の抗争は、2人の死で幕を閉じた。
それから3年後、最後の室町幕府の将軍となる足利義昭を奉じて上洛して来たのは、あの「織田信長」であった。
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参考文献 : 三好長慶 単行本
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