昭和20年(1945年)8月15日、日本の敗戦が昭和天皇の玉音放送によって国民に知らされました。
これは前日に日本国政府がポツダム宣言(正式名称:Proclamation Defining Terms for Japanese Surrender/日本への降伏要求の最終宣言)を受諾したことを意味します。
ところでこのポツダム宣言について、誰がどのような内容を発したのか、よくわからないという方も少なくないでしょう。
「アメリカが日本に対して降伏を迫ったんでしょ?」確かにそれも間違ってはいないものの、今回はもう少し詳しく知るために、実際の内容をわかりやすく噛み砕いて紹介したいと思います。
目次
ポツダム宣言の基本的知識

画像 : ポツダム会談に臨む首脳たち。蒋介石は不在 public domain
まずはポツダム宣言について、誰がどのような内容を発したのか、5W1hでまとめてみましょう。
When(いつ):1945年7月26日、
Where(どこで):ポツダム(ドイツ・ベルリン郊外)で、
Who(誰が):アメリカ大統領・イギリス首相・中華民国政府主席が、
Why(なぜ):戦争を終結させるため、
Who(誰に):日本国政府に対し、
How(どのように):13ヶ条で構成される、
What(何を):日本軍への降伏要求を合意した。
※アメリカ大統領はハリー・S・トルーマン、イギリス首相はウィンストン・チャーチル、そして中華民国政府(現台湾)主席は蒋介石(しょう かいせき)です。
ちなみに、ポツダム会談にはソビエト連邦(現ロシア)の共産党書記長であったヨシフ・スターリンも同席していましたが、なぜか署名していません。一方で蒋介石はポツダムにおらず、電報での連名となりました。
日本側では昭和20年(1945年)8月10日未明の御前会議で、「天皇の国法上の地位を変更しないこと」を条件とする外務大臣案を採択し、条件付きでポツダム宣言を受諾する意向を決定します。
8月14日、この方針をスイスおよびスウェーデンの日本公使館を通じて連合国側に正式通告。
翌15日、昭和天皇の玉音放送によって国民に広く知られ、この日が後に「終戦の日」として記憶されることになりました。
実際に、ポツダム宣言が外交文書として確定したのは9月2日。
東京湾に停泊していた戦艦ミズーリ上で、重光葵(しげみつ まもる 日本政府全権)と梅津美治郎(うめづ よしじろう 日本軍全権)らが、同宣言の誠実な履行などを定めた休戦協定(降伏文書)に調印しました。

画像 : 降伏文書調印式に出席する重光葵外務大臣を代表とする日本全権団 public domain
この9月2日をもって、昭和16年(1941年)12月8日に始まった大東亜戦争(太平洋戦争)が幕を下ろしたのです。
それではさっそく、ポツダム宣言の内容について見ていきましょう。
英語原文は分量が多く、多くの方が通読しないと思われるため省略し、外務省による翻訳も言い回しがややこしいため、わかりやすく噛み砕いていきます。
※わかりやすさ優先のため、逐語訳ではありません。
第1条「最後のチャンスをやろう」
一 吾等合衆國大統領、中華民國政府主席及「グレート、ブリテン」國總理大臣ハ吾等ノ數億ノ國民ヲ代表シ協議ノ上日本國ニ對シ今次ノ戰爭ヲ終結スルノ機會ヲ與フルコトニ意見一致セリ
【意訳】米国・民国・英国首脳(以下、我々)は、数億国民の代表として協議した結果、日本国に降伏のチャンスを与えることに決めた。
第2条「お前たちに助けは来ない」
二 合衆國、英帝國及中華民國ノ巨大ナル陸、海、空軍ハ西方ヨリ自國ノ陸軍及空軍ニ依ル數倍ノ増強ヲ受ケ日本國ニ對シ最後的打撃ヲ加フルノ態勢ヲ整ヘタリ右軍事力ハ日本國ガ抵抗ヲ終止スルニ至ル迄同國ニ對シ戰爭ヲ遂行スル一切ノ聯合國ノ決意ニ依リ支持セラレ且鼓舞セラレ居ルモノナリ
【意訳】我々の軍隊は強力であり、日本国への攻撃準備は万全である。我々は日本が完全に抵抗をやめるまで攻撃を続ける。
この攻撃はほぼ世界中の支持を得ている。つまり日本国を助ける国はどこにもない。
第3条「ナチス・ドイツの末路」
三 蹶起セル世界ノ自由ナル人民ノ力ニ對スル「ドイツ」國ノ無益且無意義ナル抵抗ノ結果ハ日本國國民ニ對スル先例ヲ極メテ明白ニ示スモノナリ現在日本國ニ對シ集結シツツアル力ハ抵抗スル「ナチス」ニ對シ適用セラレタル場合ニ於テ全「ドイツ」國人民ノ土地産業及生活様式ヲ必然的ニ荒廢ニ歸セシメタル力ニ比シ測リ知レザル程度ニ強大ナルモノナリ吾等ノ決意ニ支持セラルル吾等ノ軍事力ノ最高度ノ使用ハ日本國軍隊ノ不可避且完全ナル壞滅ヲ意味スベク又同様必然的ニ日本國本土ノ完全ナル破滅ヲ意味スベシ
【意訳】我々に抵抗したドイツの姿は、日本国の末路を示している。ドイツは土地・産業・生活すべてがボロボロになった。
当時とは比べ物にならない武力が日本に集中している今、これ以上の抵抗がどういう結果を招くか、よく考えるといい。
第4条「破滅の軍国主義か、理性的な方向転換か」
四 無分別ナル打算ニ依リ日本帝國ヲ滅亡ノ淵ニ陥レタル我儘ナル軍國主義的助言者ニ依リ日本國ガ引續キ統御セラルベキカ又ハ理性ノ經路ヲ日本國ガ履ムベキカヲ日本國ガ決定スベキ時期ハ到來セリ
【意訳】私利私欲の野望で日本国を滅亡の危機に陥れている軍国主義者と運命を共にするのか、それとも理性的な道へ方向転換するのか、それを決断すべき時が迫っている。
第5条「ただちに答えろ。条件変更も回答延期も認めない」

画像 : 決断を迫るアメリカ(イメージ)
五 吾等ノ條件ハ左ノ如シ 吾等ハ右條件ヨリ離脱スルコトナカルベシ右ニ代ル條件存在セズ吾等ハ遲延ヲ認ムルヲ得ズ
【意訳】我々は以下の条件を提示する。条件変更や代替案は一切認めない。言うまでもなく、回答の引き延ばしも認めない。
第6条「軍国主義者を抹殺せよ」
六 吾等ハ無責任ナル軍國主義ガ世界ヨリ驅逐セラルルニ至ル迄ハ平和、安全及正義ノ新秩序ガ生ジ得ザルコトヲ主張スルモノナルヲ以テ日本國國民ヲ欺瞞シ之ヲシテ世界征服ノ擧ニ出ヅルノ過誤ヲ犯サシメタル者ノ權力及勢力ハ永久ニ除去セラレザルベカラズ
【意訳】我々は軍国主義者をこの地球上から一掃しない限り、平和と安全と正義の新秩序は確立されないと考えている。
そのため、日本国民を騙して世界征服の野望を燃やした軍国主義者を社会的に抹殺しなければならない。
第7条「日本国は占領下に置かれる」
七 右ノ如キ新秩序ガ建設セラレ且日本國ノ戰爭遂行能力ガ破砕セラレタルコトノ確證アルニ至ル迄ハ聯合國ノ指定スベキ日本國領域内ノ諸地點ハ吾等ノ玆ニ指示スル基本的目的ノ達成ヲ確保スル爲占領セラルベシ
【意訳】平和と安全と正義の政府が樹立され、日本が二度と戦争を起こせないようになるまで、我々は日本国に占領軍を配置する。
第8条「日本国の主権・領土を限定する」
八 「カイロ」宣言ノ條項ハ履行セラルベク又日本國ノ主權ハ本州、北海道、九州及四國竝ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルベシ
【意訳】カイロ宣言を履行し、日本の領土は本州・北海道・九州・四国プラスアルファの小島のみとする。
第9条「日本軍は完全に武装解除せよ」
九 日本國軍隊ハ完全ニ武装ヲ解除セラレタル後各自ノ家庭ニ復歸シ平和的且生産的ノ生活ヲ營ムノ機會ヲ得シメラルベシ
【意訳】日本軍は完全に武装解除・解散させよ。復員した将兵は家庭に帰り、平和で生産的な生活を送る機会を得られるようにしなければならない。
第10条「戦争犯罪人を罰し、国民の基本的人権を保障せよ」

画像 : 連合国によって「戦犯」とされ、極東軍事裁判(いわゆる東京裁判)に臨む東条英機 public domain
十 吾等ハ日本人ヲ民族トシテ奴隷化セントシ又ハ國民トシテ滅亡セシメントスルノ意圖ヲ有スルモノニ非ザルモ吾等ノ俘虜ヲ虐待セル者ヲ含ム一切ノ戰爭犯罪人ニ對シテハ嚴重ナル処罰ヲ加ヘラルベシ日本國政府ハ日本國國民ノ間ニ於ケル民主主義的傾向ノ復活強化ニ對スル一切ノ障礙ヲ除去スベシ言論、宗敎及思想ノ自由竝ニ基本的人權ノ尊重ハ確立セラルベシ
【意訳】我々は日本人を奴隷にしたり、日本国を滅ぼしたりするつもりはない。ただし我々の捕虜を虐待するなど戦争犯罪人については厳重に処罰しなければならない。
また民主主義を求める日本国民に対する一切の障害を除去し、言論・宗教・思想の自由など基本的人権を保障しなければならない。
第11条「産業を復興し、戦争被害を賠償せよ」
十一 日本國ハ其ノ經濟ヲ支持シ且公正ナル實物賠償ノ取立ヲ可能ナラシムルガ如キ産業ヲ維持スルコトヲ許サルベシ但シ日本國ヲシテ戰爭ノ爲再軍備ヲ爲スコトヲ得シムルガ如キ産業ハ此ノ限ニ在ラズ右目的ノ爲原料ノ入手(其ノ支配トハ之ヲ區別ス)ヲ許可サルベシ日本國ハ將來世界貿易関係ヘノ參加ヲ許サルベシ
【意訳】日本は日本国内外に対する賠償を行えるよう、産業経済の復興が許される。ただし再軍備につながる産業は別である。必要な原材料は植民地支配や領土拡大と異なる形での調達を許可する。
日本は将来的に国際貿易関係への復帰を許されるべきである。
第12条「いつか占領は終わる」
十二 前記諸目的ガ達成セラレ且日本國國民ノ自由ニ表明セル意思ニ從ヒ平和的傾向ヲ有シ且責任アル政府ガ樹立セラルルニ於テハ聯合國ノ占領軍ハ直ニ日本國ヨリ撤収セラルベシ
【意訳】ここまでに掲げた目的が達成されて、日本国民の自由な意思によって平和政府が樹立されたら、占領軍はただちに日本国から撤収しなければならない。
第13条「以上を踏まえて」
十三 吾等ハ日本國政府ガ直ニ全日本國軍隊ノ無條件降伏ヲ宣言シ且右行動ニ於ケル同政府ノ誠意ニ付適當且充分ナル保障ヲ提供センコトヲ同政府ニ對シ要求ス 右以外ノ日本國ノ選擇ハ迅速且完全ナル壞滅アルノミトス
【意訳】我々は日本国がただちに①日本軍の無条件降伏、そして②日本政府による日本軍降伏の保障を要求する。
さもなくば、日本には破滅の道しか残されていない。
ポツダム宣言まとめ
以上となります。
【ポツダム宣言の内容ざっくりまとめ】
① 軍国主義者の社会的抹殺
② 日本国に対する占領
③ 日本国の主権=領土を限定
④ 日本軍の武装解除
⑤ 戦争犯罪人に対する厳罰
⑥ 国民の基本的人権を保障
⑦ 産業復興と被害賠償
⑧ 占領軍の撤収条件
ちなみに文中「カイロ宣言を履行せよ」という旨がありました。
このカイロ宣言とは1943年12月1日にルーズベルト米大統領・チャーチル英首相・蒋介石民国主席がエジプトの首都カイロで発表したものです。
主な内容は、①日本が占領した地域からの撤退、②満洲・台湾・澎湖諸島の中華民国への返還、③朝鮮の独立などが盛り込まれていました。
ただし日本の領土が国際法的に確定したのは、昭和26年(1951年)9月8日に締結され、翌年4月28日に発行したサンフランシスコ平和条約(正式名称:Treaty of Peace with Japan/日本国との平和条約)となります。
敗戦から80年の節目となる令和7年(2025年)。今回ポツダム宣言を読み返したことで、平和と独立の大切さを考えるよすがとなれば幸いです。
※参考文献:
山田侑平 訳『「ポツダム宣言」を読んだことがありますか?』共同通信社出版センター編、2015年7月
文 / 角田晶生(つのだ あきお) 校正 / 草の実堂編集部
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