西洋史

【近代から現代へ】 第一次世界大戦とアメリカの参戦理由 「ウィルソンの理想主義が大衆社会を招いた?」

第一次世界大戦とアメリカの登場

第一次世界大戦とアメリカの参戦理由

画像 : 第一次世界大戦 public domain

第一次世界大戦は、近代と現代を区分する重要な分岐点として歴史に名を刻みました。

この衝突はヨーロッパの内部的な矛盾と、勢力均衡の崩壊に起因しています。

詳しくは前回の記事「【近代から現代へ】 ヨーロッパの「帝国主義」という欺瞞」を参照していただけると幸いです。

【近代から現代へ】 ヨーロッパの「帝国主義」という欺瞞
https://kusanomido.com/study/history/western/80892/

第一次世界大戦が終結すると、世界情勢は大きく変貌し、まったく新しい様相を見せ始めます。

この変化の中で最も顕著なのは、1917年にアメリカが第一次世界大戦に参加したことです。

大戦が終結する直前にアメリカが参戦したことは、世界の政治構造に深い影響を与えました。

異例の参戦理由

アメリカが第一次世界大戦に加わった理由ですが、今までとは全く異なる理由によるものでした。

第一次世界大戦を通じてアメリカは、直接的な攻撃や自国の利益が明白に侵害されたわけではありませんでした。

これまでのアメリカは、ヨーロッパの諸問題から距離を置く「モンロー主義」を軸とした、孤立主義や中立主義の政策を掲げていました。

1914年に始まった第一次世界大戦の勃発時にも、アメリカは中立を宣言しています。

しかし1915年、ドイツの潜水艦がイギリスの客船ルシタニア号を撃沈し、100名を超えるアメリカ人が命を落とす事件が発生しました。

ドイツが「無制限潜水艦作戦」を実行したためです。

画像:ドイツの無制限潜水艦作戦によって撃墜されたルシタニア号 public domian

第一次世界大戦中、ドイツはイギリスの海上封鎖に対抗するため、イギリス海域に商船の立入禁止水域を設け、違反する商船はすべて無警告で撃沈すると宣言していました。

この事件をきっかけに、アメリカの世論は反ドイツに傾きます。

たしかにルシタニア号事件は、アメリカが参戦する理由の一つとなりました。しかしながら、アメリカ本土が直接攻撃されたわけではありません。

アメリカによる第一次世界大戦の参戦は、非戦闘国としては異例の行動でした。

日本が日英同盟に基づいて参戦したのとは異なり、アメリカの決断は過去の前例から大きく逸脱しており、世界史における重大な転換点であったと言えるでしょう。

アメリカの参戦理由は民主主義を守るため!?

画像:第一次世界大戦への参戦を決断したウィルソン米大統領 public domain

第一次世界大戦におけるアメリカの参戦は、表面上は「ドイツによる民間人に対する無制限攻撃への対抗措置」として説明されています。

しかし、ウィルソン大統領が議会で述べた参戦理由は、さらに深い意味を持ちます。

ウィルソン大統領は「 “アメリカ人”の権利を守る」という目的ではなく「 “世界の民主主義”を守るためにアメリカは参戦する」と宣言しました。

上記のような表現は、戦争理由としては歴史上初めて採用され、またアメリカ国民に対しても強い説得力を与えたのです。

ウィルソン大統領は政治学者であり、理想主義者として知られています。
20世紀初頭から「民主主義は世界化されるべきである」という考えをすでに提唱していました。

この理念はアメリカが世界に与える役割を正当化し、実際に歴史を動かす力となります。

ウィルソンの登場によってヨーロッパの内紛(第一次世界大戦)は、単なる地域的な問題ではなく、世界史の枠組みとして理解(解釈)されるようになったのです。

さらにウィルソンは、国際連盟の構想を提案します。しかしアメリカ議会によって批准されず、アメリカの国際連盟参加は実現しませんでした。

第一次世界大戦後、アメリカは孤立主義の傾向を再び強めますが、第二次世界大戦を経て、再びアメリカは国際舞台で積極的な役割を果たすのです。

自由や民主主義という理念を守るために、アメリカは世界に関与する

ウィルソンが示した方向性は、第二次世界大戦後の世界史を決める要素ともなりました。

ヨーロッパの「古典外交」は終焉

アメリカが掲げる理想主義の登場は、ヨーロッパの勢力均衡に基づく発想を修正するものでした。

もちろんヨーロッパの勢力均衡論が、完全に意味を持たなくなったわけではありません。しかしアメリカの影響によって、従来のヨーロッパ外交(同盟)に関する考え方はそのままでは通用しなくなります。

ヨーロッパの外交は秘密外交としての性格を持ち、エリート政治家や外交官が中心となって運営されていました。

しかしアメリカの登場によって、ヨーロッパの「古典外交」は通用しなくなり、ウィルソンが示したように、理想的な言葉を用いて大衆の支持を得る必要が生じたのです。

画像:大衆社会の到来を予見したウォルター・リップマン public domain

ジャーナリストのウォルター・リップマンは、ウィルソンの理想主義がいかに世論に意識したものであるか、そして政治がいかに世論によって動かされるようになったのかを指摘しています。

「19世紀のヨーロッパ外交」と「20世紀のアメリカ外交」の決定的な違いを示しており、アメリカの理想主義が世界に与えた影響の大きさを物語っています。

参考文献:佐伯啓思(2015)『20世紀とは何だったのか − 西洋の没落とグローバリズム』PHP研究所

 

村上俊樹

村上俊樹

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“進撃”の元教員 大学院のときは、哲学を少し。その後、高校の社会科教員を10年ほど。生徒からのあだ名は“巨人”。身長が高いので。今はライターとして色々と。
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