過労死やサービス残業といった社会問題が注目を集めていますが、未だにそれら厳しい労働環境による悲しい事故が後を絶ちません。
そのような中、政府は「働き方改革」というフレーズで総称し、日本の様々な労働環境を改善しようと法整備を進めています。この働き方改革は私たちの職業生活にどのような影響を与えるのでしょうか。政府発表の様々な資料を基に考えていきたいと思います。
働き方改革 実現会議
厚生労働省によると働き方改革とは、総理が議長となり労働界と産業界のトップと有識者が集まった「働き方改革実現会議」において、「非正規雇用の処遇改善」「賃金引上げと労働生産性向上」「長時間労働の是正」「柔軟な働き方がしやすい環境整備」「女性・若者の人材育成など活躍しやすい環境整備」「病気の治療と仕事の両立」「子育て・介護等と仕事の両立、障害者の就労」「雇用吸収力、付加価値の高い産業への転換・再就職支援」「高齢者の就業促進」「外国人材の受け入れ」といったトピックに分け、ロードマップを設定しているものです。
このロードマップで設定している現状の課題は、正規非正規社員の不合理な処遇差、長時間労働がなくならない様々な風潮、単線型のキャリアパスに存在するとしています。
単線型のキャリアパスとは、新卒で入社してそのまま働いていく事が普通で、その「レール」から逸れると普通の生活を送るのもなかなか難しくなってしまうということだろうと読み取れます。近年では第二新卒という言葉が広まってきましたが、新卒か中途かという労働市場では、やりたいことをやるために若いうちに退職しても、中途では即戦力を求められ就職が難しいという実態が依然としてあります。また、一度就職したものの早く辞めてしまう若者に対する世間の風当たりは強く、厳しい目で見られてしまう可能性も高いです。
この「風潮」は厄介で、長時間労働というテーマでも、自分が帰れないで働いているのだからあなたも一緒に残業しなさいといった風潮は未だにあります。自分がつらい思いをしているのだからあなただけつらい思いをしないのはおかしい、ということなのでしょうが、これは会社ではなくても様々な組織で起こりうる風潮だといえます。これらの事柄に対してメスを入れてく姿勢は評価していかなくてはならないのですが、改革の中身で、法律で条文を作って定義していくところまでしかロードマップでは行っておらず、実際の運用や企業に対する罰則規定までは書かれていないのです。
どのような形で罰則を科すかどうかは、あくまで個別での司法判断であり、依然として労働者側の負担は大きいです。勤務実態の正確な記録システムなど、様々な形で不透明な部分がないように努力している企業の例も多数みられるので、罰則だけではなくて労働環境改善のために動いた企業へのサポートも何かあれば、企業全体に効果は広がっていくのではないでしょうか。
残業代ゼロ法案
続いて、「残業代ゼロ法案」などと批判されている高度プロフェッショナル制度を含む、労働基準法の一部改正案を見ていきます。
注目したいのは、具体的な数字を定義してそれを遵守するように示したことだといえます。従来の労働基準法でも数字での定義やボーダーラインの明示はなされていましたが、時間外労働の中小企業への猶予措置を廃止するなど、日本企業全体を含めての改革であることを象徴しているといえます。
高度プロフェッショナル制度とは、少なくとも年収が1075万円以上で、高度な専門的知識を必要とする業務に従事する場合に、健康確保措置を講じ、本人の同意を得たうえで労働時間規制等を適用除外にするという内容です。対象業務は具体的には「金融ディーラー、アナリスト、金融商品開発、コンサルタント、研究開発」があたります。
職務の範囲を明確にし、専門的知識を定義付けし、労使間の同意があればということなので、労働者が知らないうちに搾取されるということは普通であれば考えにくいといえます。
それよりも「企画業務型裁量労働制」の見直しという論点で、この対象業務に「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCAを回す業務」という業務内容が追加されています。この「企画業務型裁量労働制」とは端的に言うと「みなし労働」制度です。
高度プロフェッショナル制度と同じく健康確保措置を講じることや、労使間の同意が必要であること、そしてその労使間の決議を労働基準監督署に届け出ないといけないなど一定の制約はあります。この企画業務型裁量労働というのが解釈するのに厄介な問題で、一部営業職にも適用することは可能ということになりました。特に無形商材を扱っているような会社の営業社員だと、制度の利用によっては仕事に際限がなくなってしまう可能性があります。
また、現状でも固定残業代制度というものを設定している企業があります(特に営業、販社は多い)例えば、固定残業代30000円(月20時間程度)といった形で掲載されているが、まず仕事は何が起こるかわからない部分があるので毎月一定である可能性は低いです。また、どれだけ残業してもしなくても残業代が変わらないので会社で既定の残業時間より多くなる傾向にあります。つまり、業務自体のムダや問題点が見えにくいという生産性課題があります。
新しく制度化する高度プロフェッショナル制度と、現状存在する固定残業代制度を明確に分けて、実態として存在するグレーな雇用契約を無くしていかなければ改革は終わらないと思います。企画業務型裁量労働制を誰に適用するのかは慎重に定義すべきであり、監督機関の厳しいチェック体制を整えていくところまで進んでくれることを期待しています。
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