どんな病気でもそうだが、経験しなければその辛さはわからない。
仮に風邪ならば、多くの人はその辛さは共感できるし、具合の目安となる「数字」を体温という形にして目で見ることが出来る。
それが出来ない病気のなかでも、特に辛さを伝えにくいのが精神疾患である。
今回はその中でも「うつ病」を、しかも患者本人ではなく、うつ病を抱える人を見守る周囲の人に向けて、正しい接し方を調べてみた。
うつ病は心の風邪ではない
「鬱は心の風邪」
うつに関心のある人なら、一度は聞いたことのあるはずの言葉だ。
しかし、患者本人からしたら冗談じゃない、と言いたくなる。風邪なら大抵は数日で治るが、うつは長い治療期間が必要になる。早期であれば数ヶ月で回復すると書いてある書物やサイトを見るが、それは統計でしかない。しかも、そのデータは「適切な治療を、適切な期間だけ受けた場合」という前提がある。つまり、しっかりと休み、医師による診察も時間をかけて行わなければならない。しかし、多くの人が仕事や通学を抱え、うつの原因となったストレスに晒されながら通院するのが実情なのだ。
「心の風邪」という表現では軽すぎる。
さらに心療内科や精神科は多くあっても、精神疾患を患う人数のほうが増えているため、どこも一人当たりの診察時間は短い。俗に「5分診療」と呼ばれる状態だが、これでは患者の気持ちを十分に聞けるわけがない。
さらに、うつは他人にその症状が見えないからこそ、周囲に「休みたい」とは言い出せない。うつの度合いを数値化して相手に見せることが出来れば簡単だが、そのような装置が発明されるまでは、うつの人を取り巻く環境は改善されないだろう。
なぜ「休みたい」と言い出せないのかが理解できない場合は、うつの人とは関わらずに距離を取ることをおすすめする。
いずれにせよ、うつ病は症状に関わらず「長期間にわたって治療が必要」なのだと認識して欲しい。仮に短期間で治ればラッキーなのだから、心構えをする分には損はない。
うつ病にはマニュアルはない
うつ病は、単一の疾患ではなく症候群であり、さまざまな病因による亜型を含むと考えられている。
つまり、100人の患者がいれば全く同じ症状を持つ患者は極めて少ないということだ。これは、周囲の人に「マニュアル的な行動をしないでほしい」ということである。
難しそうに思えるが、一番分かりやすいのは本やネットの情報を鵜呑みにして「うつ病はこういう病気なんだ」という症状に対する固定観念を持たないで欲しいのだ。患者本人が何を望んでいるかを直接聞いてもらいたい。
うつ病の症状でもあまり知られていないのは、
- 「周囲の生活音(ドアの開け閉めや、食器の片付けなど)がものすごく大きなノイズとなって聞こえる」
- 「周囲の談笑が雑音にしか聞こえなくなって逃げ出したくなる」
- 「話しかけられても何を言われているのか理解できない」
- 「話しかけられて何を言っているか理解はできるが、答える気力がない」
といった、音や声に関する症状は、状態が深刻な場合に多い。
もし、うつの人と一緒にいて、相手の口数が減ったり、落ち着きがなくなったら「音がうるさい?」「静かな場所に行く?」とでも訊いてあげて欲しい。本人がそういう症状ならば、それだけで伝わるはずだ。
重ねて言うが、うつの人は自分から具合が悪いことを「言わない」のではなく「言えない」からである。言えば周囲の迷惑になったり、「うつの人は面倒だ」などと思われたくないから言えない。
本人は普通に接して欲しい
うつは確かに病気だが、肉体的な症状は少ない。さらに具合の上下動も激しいため、本人もいちいち「今日は調子がいい」とか「調子が悪い」などと言い切ることが出来ない。本人も調子がいいと思って外出してみたら急に具合が悪くなることもある。
しかし、周囲の人にお願いしたいのは、本人に対しては健常者と同じように接して欲しい。もちろん、具合が悪くなれば様子を聞き出すくらいは当然だが、大抵は少し休んだり、頓服薬を飲めば改善する。その間は、健常者と同じように別行動を取るほうがいい場合も多い。
本人が休んでいる間に「あなたが休んでいる間に、ちょっとお店を見てくるけどいい?」といった気軽な感じで離れるのもいいだろう。本人からしたら「自分のせいで迷惑をかけてしまった」という思いが強いので、「あなた(患者)はあなた、私は私」というように、「あなたの心配ばかりしていないで、私も楽しんでいるよ」という姿勢でいてもらったほうが、本人も楽である。
これは親密な間柄の人にこそ、そうしてもらいたい。
家庭でも同じように、家族は普段どおりの生活をして、過度な干渉は避けて欲しい。具合が悪ければ、本人は何も言わずに休むはずだ。
健康な人に「今の具合はどう?」「今日は調子がいい?」などといちいち訊かないように、欝の人に対しても過度に気を遣わないで欲しい。
なぜなら「自分のせいで周囲に心配をさせていると思い込む」という『症状』がうつを悪化させるためである。
うつの人に「がんばれ!」はNGワードではない
うつの人に「がんばれは禁句」というのも有名な話だが、実際にはそうとは言えない。
これはOKの場合とNGの場合があるからだ。
OKの場合は具体的な目標があって、本人がそれに向けて頑張っているとき。例えば、具合が悪くて病院に行くのも辛いけれど、頑張って準備をしているときなどは「頑張って支度してね」とか、長期の療養で職を失った患者が、頑張って就職先を探しているときに「いい会社が見付かるように頑張って」など、具体的なエピソードとともに言われる「がんばれ」は本人も応援してくれているんだと思える。
逆に、本人の気持ちを無視して「頑張れば病気も治せる」とか「頑張って外に出よう」といった「根拠のないがんばって」は、「他人事だと思って」とネガティブな感情を抱かせてしまう。
これこそがNGな「がんばって」なのだ。
先にも書いたとおり、うつの人は「他人に迷惑をかけたくない」という思いから、「放っておいてほしい」「健常者と同じように気を遣わないで欲しい」と考える。家族や恋人、親友に対してすらそう思うのだから、関係の浅い人には特に注意してもらいたい。健常者だって、根拠のない「がんばって」は言われても嬉しくないはずだ。それをうつの人にも当てはめれば同じということである。
うつ病改善へのキーワード
さて、ここまで読んで「やっぱり、うつの人って面倒だな」と思った人も多いだろう。正直、私もそう思う。
しかし、この面倒くささこそ、うつ病の症状そのものであるとも言える。「うつが蔓延している」「うつが広がっている」といった報道などで、うつ病の存在は認知されつつあるが、その症状は人それぞれだからメディアも伝えようがない。そこで、大雑把な解説や、研究対象としてしっかり管理された生活を送った患者のデータを基準にしてしまう。
それらは、多くの患者の実態とはかけ離れたものばかりだ。
だが、一貫して言えるのは「肉体に害が及ばない(自殺や自傷など)限りは、本人の思うように行動させること(例え一日中寝ているようでも)。日常生活では普通に接し、具合が悪くなったら過度な干渉はせず、ゆっくり休ませること」である。
ほら、これって健常者でも同じことが言えると思わないだろうか?健常者と同じように扱って欲しいということが、このまとめにも現われているだろう。ただ、健常者より「言えない」ことが多い点は注意してもらえばいい。
そして、うつ病改善へのキーワードは「褒めること」である。
うつ病の多くが「ずっと頑張りすぎて発病してしまう病気」のため、発病してからも「頑張りグゼ」が抜けずに無理をしてしまった人が多い。そんな人に対しては、
- 「今まで良く頑張ったね。辛かったのに大変だったよね」
- 「今も病気を治そうと頑張っているんだね。ゆっくり休んでいいんだよ」
- 「よくこんなになるまで頑張ったんね。凄いね」
というように、努力を認めて褒めることは、ほぼ間違いなくOKワードである。
自分から「辛かった」「今も辛い」と言い出せないからこそ、周囲に言ってもらえれば「理解してもらえた」という気持ちから、少しでも希望が見えてくる。
最後に
どんな病気にも完璧な対応はない。
この記事を読んで「自分はそんなことは思わない」という、うつの人がいるのも承知している。しかし、これが私の知るうつの人たちに共通した思いなのだ。だから、うつの人を見守る周囲の人たちには、少なくともこの程度の知識は持っていてもらいたい。
もちろん、他にもたくさん伝えたいことはあるが、これでまとめとさせていただいた。
今もうつに苦しむ人たちが、この記事を周囲の人にも読ませてみようと思ってもらえれば幸いである。
うつ病になった者からしたら、病気中は何も声をかけるなって感じ。
OKワードとなってる
「今まで良く頑張ったね。辛かったのに大変だったよね」他2つもありえない。
責められてる、もしくは笑われてるようにしか聞こえない。
違う
人によりけりかな……
少なくとも、私は頑張ってって言葉はどれもNG