所信表明
大井造船作業場に来て、1か月間の新入訓練が終わりに近づくと、私たち新入4名の第一関門である、「所信表明」と言う、作業員全員の前で行う儀式があります。
表明文は定形文があり、少しだけ自分でアレンジすればOK!です!
但し! この定形文を丸暗記するのですが、少―し長いのです! 表明の際はもちろんキョウツケ大声!絶叫!が当たり前。
大井では「あやまり」とか「順守事項」とか「今回の表明」、など全て叫ぶときに、大井独特の節回しがあります。
文面に書くのは大変難しいのですが、例えば・・
「私は!—大井に!—来て!—諸先輩方の!—ご指導を!—受け!—一日も!—早く!—仕事を!—覚え!—一日も!—早く!—社会に!—復帰!—したいと!—思い!—ます!——-はーふー!」
と言う感じです。
実際はこんなに短くはありませんが。
デカイ声を出すので息が続かないのですね。水泳に例えると息継ぎです。
10分、15分やると過呼吸? 酸欠? 顔が真っ赤になったり、青くなったりと、そのうちぶっ倒れるのでは?!
これを一字一句、間違えなく絶叫するのです。
ちなみに私は3~4回ほど間違え、それなりのお仕置きを後から受けました。
この「所信表明」を聞いて各班長が判断し、それぞれの班に引っ張ります。
私は3~4回も間違えたので当然スカウトも無く、ババ抜きの最後のババ如く、花の造船現場に出る事が叶わず、内勤の賄い夫? に配役となりました。
一度は、あのデカイ船を作る仕事に携わってみたかった!これで、一緒に移送されて来たライバル3人には追い抜かれ、かなりの差を付けられてしまったな! などと感傷にしたる暇なく配役となり、掃除、洗濯、衣類修理、三度のメシ、アイロンがけ、風呂掃除、 朝の5時から夜6~7時! 寮内の賄いは忙しく、しかも、日祭祝の休みは無いし代休は半日だけ。
頭ふらふら!身体ふらふら!
ついに後輩ができる
考える時間さえ無い急がしい毎日を、ふらふら状態で何とか頑張り、ふと気が付くと何と、新入が来ていました! 後輩が出来たのです。
3か月程経っても出来の悪い俺の目から見ても、まだまだ動作、口上、あやまり方、頭の下げ方がまるでダメ。
俺:「おい! おまえら!なんだ!そそのキョウツケは! しっかりしろ!おー!」
新入:「はーいわかりましたーー」
俺:「ななんだ!その!ふざけたあやまりかたは!こら!おー!おー!」
俺:「はい!どうもすみませんでした!だよ!おー!わかったか!おー!」
「あやまり」に関しては、この寮ではナンバーワンを自負している私。これだけは人には譲れません! 伊達にあやまり続けてきたわけじゃない。
いつの間にか注意指導する側になっていた自分にも驚きました。
次々と新入が来て、段々と先輩ズラが出来るようになり、注意指導も型にはまってきました。型にはまりだすとやりたくなる、俺の悪い癖!なんとなく寮内で少し偉くなってきた感じです! しかし後輩の前で自分が注意指導を受けたら格好悪いし、そんな後輩たちの刺激もあり、怒られることも少なくなり、段々と寮生活が楽しくなって来ました。
1類に出世するも
怒られつづけて3か月、 1類に出世して、後輩達を怒鳴り飛ばし!「あやまり」が俺にも来るようになりました。
しかし! 怒られる方より、怒る方がエネルギーを使う事を知りました。
風呂に入れば、椅子、桶、までとはいきませんが後輩が席を譲るようになり、「おおっそうか!ありがとう!」 なんて余裕も出てきたし。
「お前ら覚え事など大変だろう? がんばれよ!間違えないようにな!」
なんて自分を棚に上げて
「解らないことは何でも聞いて来い! 風呂出たらタオルはきちんとかけろよ!」
なんて先輩ズラをしたりして!
居心地のいい寮に変化していくのが不思議です。
「電気を点けたり消したり係」「テレビスイッチ係」
毎週末に1・2類集会があります、主に映画観賞です。
その時はポテチ、クッキィー、チョコレート、せんべい、何でも食べ放題!100インチくらいの大画面で映画を観ます!
しかし全員集まるところには、注意指導はつきもの!
映画放映中に注意指導があると、待機している部屋の、「電気を点けたり消したり係」が、スイッチのそばですかさずスイッチを入れ明るくします。また「テレビスイッチ係」もすかさずテレビの電源をOFFに。
注意指導が終わると部屋の「電気点けたり消したり係」は注意指導が終わった瞬間電気を消します。その時同時に「テレビスイッチ係」もテレビを点けます。
部屋の「電気点けたり消したり係」と、「テレビスイッチ係」の息が合わないと、また注意指導が始まってしまいます!
「電気点けたり消したり係」と「テレビスイッチ係」は、楽しみな娯楽時間にそのような係を押し付けられているような人なので、なかなか息が合わず、また注意指導!
「てめーなにやってんだー!」
と全員からの絶叫! 焦れば焦るほどまた息が合わず!
「ふざけんな! てめー! 映画が終わちゃうだろー!ばっきゃーろー!」
「電気点けたり消したり係」と「テレビスイッチ係」は頭の中が真っ白! 点けたり!消したり!消したり!点けたり! その光景がおかしくて、笑っちゃーいけないところですが、関係ない人達は他人事!クスクスと久し振りに笑ったような気がしました。
大井造船作業場の「いいところ」
大井造船作業場では、
1ミリの誤差も許さない!些細な間違いも許さない!何であろうとまず謝る!反省して報告に行く!大勢の人前でも堂々と話ができる!
少しくらい怒られてもへこまない!時間は必ず守る!下の者に本気で教える!間違いを注意し指導できる!
どんなに辛い事、苦しい事があっても我慢し耐える! 身体をきたえる!何でも一生懸命やる!
上記の事を身体で教えてくれた大井造船作業場の「いいところ」ではないかと思います!
現在の大井造船作業場はどのように進化しているかは解りません、生涯で一度だけ行く事の出来る刑務所なので二度と行く事が出来ません、そのような訳で18~19年前、私が実経験した出来事を書いてみました。
大井で養った自信を他の道に一生懸命使ってしまう馬鹿者もいるようですが・・・・・?
俺:「はい!どうもすみませんでした!」
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