ステルスという言葉は、アングロ・サクソン系単語で「盗む(スティール)」という動詞と同じ語源から派生している。
最近では「ステルス・マーケティング(ステマ)」という形で日本でも広まったが、それ以前にこの単語に興味を示していたのは、軍事関係者だけだった。
人間は知らないこと、未知の物に恐怖を抱く。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」のように姿が見えないということは不気味さに拍車をかける。
技術者たちはどうすれば「枯れ尾花」が「幽霊」になるのかを研究した。その結果、ステルス技術は素晴らしい早さで確立されたのである。
ステルスの原理
※F-117
「RADAR(レーダー)」という単語が軍事用語として登場したのは第二次世界大戦中だった。
「電波による補足と距離測定」の頭文字を取ったもので、地上の航空機に対する探知能力は大幅に向上した。レーダー波をアンテナから放ち、アンテナの動きによって上下左右に振る。敵がレーダー波の網にかかれば、一部は吸収されるが、ごくわずかなレーダー波が反射してアンテナに返ってくる。これにより、人間は目標との位置関係を視覚的に捉え、目標がどちらへ向かっているか推測し、戦術的判断を試みることが出来る。
レーダーを出し抜く方法には二種類のステルス技術がある。
機体の形状を変化させて物体のRCS(レーダー有効反射断面積)を減らすやり方と、RAM(レーダー波吸収材)によって機体をコーティングするやり方である。レーダーの誕生後間もない第二次世界大戦には双方の陣営がこの二種類の技術について実験を行い。ドイツはかなりの成果をあげた。しかし、この技術を実戦レベルで進化させるにはもうしばらく待たねばならなかった。
RCSを決定する要素は大きく三つあるが、幾何学的断面積は設計者にとってあまり苦労がない。直接跳ね返るレーダー波を減らすために、初期のステルス機であるF-117はあんな奇妙な形をしているのだ。
ある種の機体形状は表面や角でエネルギーを散らすため、直接反射するレーダー波を減らすことができる。入ってきたレーダー波はまるでクラブのミラーボールのような表面で偏向させられ、レーダー・アンテナには戻らなくなる。F-117がいくつもの平面からなるカットグラスのような「切子面」を刻まれているのはそのためだ。
※下方から見るF-117
あくまで原理としてだが、レーダー波に対して60度傾けた金属板に対しては、入ってきたレーダー波のほぼ99.9%が外れてしまうのだ。
アメリカ海軍のF/A-18がF/A-18Eに改良されたときも、ごくわずかだが機体形状にステルス性能を付与させている。
しかし、機体全体の形状をステルス仕様に変えることはほぼ不可能だ。例えばエンジンの空気取り入れ口、主翼の前縁部分、操縦席の補強材、機体の点検口の合わせ目などを消すことはできない。
※F/A-18E
一方のRAM(レーダー波吸収材)は、レーダー波を吸収して熱や弱い磁場へと転換させる。その物理的メカニズムは非常に複雑である。
こうしたコーティング材料は入ってくるレーダー波に共振し、振動によって熱に変えたり、電気誘導によって弱い磁場に変えたりする。
RAMは組成やコーティングの厚み次第で、レーダー波の約90ないし95%を吸収できる。
F-15やF-16といった現有の非ステルス機もRAMコーティングによって機体のRSCを70ないし80%削減できる。このRAMが機体形状の弱点を補足することでステルスは成り立っている。
ノースロップ・グラマンB-2B〈スピリット〉
※飛行中のB-2爆撃機
『護衛機も空中給油機も連れない2機のB-2があれば、32機の対地攻撃機、16機の戦闘機、12機の防空制圧機、15機の空中給油機と同じ任務をこなせる』
ある元米空軍将校の言葉である。
この「ブーメランのような」爆撃機が開発されたのは、F-117よりも後のことであったが、F-117の「実戦に耐えうる世界初のステルス機の開発」というアプローチとは異なり、当初から明確な目的があった。
当時、冷戦の相手国であるソ連は神経質なほどに、外国の侵攻を防ぐ防空システムを45年間の長きにわたって営々と築いてきた。この防空システムを打ち破るために西側が考えた最終シナリオは、防空網の層を核ミサイルでひとつひとつ剥がしながら、爆撃機で目標に突入するというものだった。
光速で飛行するか、テレポートでもして命中精度100%のビームでも撃てればいいのだが、もし仮に開発そのものが秘密のベールに包まれ、レーダーにもほとんど探知されず数発の核弾頭ミサイルを搭載した航空機が開発できれば、亜音速機(音速以上のスピードが出せない機体)でも十分に目的にかなうかもしれない。
こうして生まれたのがB-2爆撃機だった。
全翼機はレーダーに映りにくい形状だったが、問題は胴体後部に尾翼をもったものより安定性が低いことだった。
それを解決したのがコンピュータの進歩である。コンピュータの補正により安定性が確保された。また同時に設計から生産までを自動化するいわゆるCAD(コンピュータを用いて設計をする技術)CAM(CADで作成された形状データを入力データとして、加工・生産用のプログラムを作成する技術)が普及したことだろう。そのおかげで一世代前のF-117と比べると、まるで職人が削りだしたような滑らかな曲線を描く空気力学的な機体が完成した。
さらに、B-2は現代の飛行機のなかでも、プロトタイプどころか、開発時の調整すら必要なしに量産段階に入った最初の例である。先進的なコンピュータソフトにより、B-2は実際に組み立てる前にあらゆるコンポーネントがぴったり嵌るようチェックを終えていた。
B-2はたった一度の空中給油だけで18.280km以上の距離を飛行することができ、高度の自動操縦装置が搭載されているためにパイロットの疲労も最低限に抑えられている。武装はレーダー波に捕われないようすべて機内に収納されており、発射時だけ開かれる。
ちなみにスピリットには「幽霊」という意味もあるため、この機体にはうってつけだ。初飛行は1989年7月17日だが、この機体は今世紀の半ばまで十分必要とされるだろう。生産数は21機である。
※B-2爆撃機
ちなみにB-2爆撃機はアヒルよりもはるかに巨大だが、長距離捜索レーダーからするとRCS(レーダー有効反射断面積)は、アヒルの1/5になる。つまり、捜索レーダーにはせいぜいスズメ程度の大きさとしか映らないのだ。
しかし、F-117もB-2もステルス航空機黎明期の機体であり、F-117はすでにその役目を終えて全機が退役している。
そこで、アメリカ空軍はさらに高性能なステルス機の開発に着手したのだった。
ステルス技術の進化について調べてみた その2
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