中国文化に特化した観光地で多く目にする「チャイナドレス(チャイナ服)」は、華やかで優雅な雰囲気を纏った伝統衣装として知られている。
細かい刺繍に高貴な色合いを合わせた「チャイナドレス」は種類も豊富な上、子供から大人まで着用できる可愛らしさも兼ね備えている。
中国本土はもちろん、世界各国に住む中華系の人々はチャイニーズイヤーと呼ばれる『春節(旧正月)』に着用して新年を家族で過ごしている。
「チャイナドレス」の原点ともいわれている満州族の服飾文化
今や結婚式や新年を祝う節目に着用する正装としてのイメージが強い「チャイナドレス」は、中国文化を象徴する格式の高い服装として位置付けられているが、「チャイナドレス」誕生の由来を辿ると、『満州族』と呼ばれる人々が男女共に着ていた伝統衣装がモデルになったといわれている。
中国東北地方の『満州』と呼ばれた地域に定住し、主に狩猟を行いながら生活を送っていた『満州族』は、日常的に乗馬をする機会も多かったため、乗馬の妨げにならない動きやすさを重視した洋服を求めていた。
「チャイナドレス」の典型として知られる両脇に施された『スリット』のデザインは、そんな『満州族』の人々の願いから生まれたともいえる。
女性の高い美意識を象徴した「旗袍(チーパオ)」
中国では昔から『長い衣』という意味を持つ「旗袍(チーパオ)」という名称で呼ばれており、デザイン性もシンプルなものが多かったが、西洋文化の影響を受け始める1920年代頃から「旗袍」に美的センスを取り入れる流れが起き始めた。
男女ともにウエストを強調させるデザインが主流であった西洋服に人々の関心が高まったことから、「旗袍」にも体のラインを際立たせるデザインが考案されるようになったのだ。
着る洋服で変わる自身のシルエットや、体型の変化といった女性たちの見た目への強いこだわりもデザインに考慮され、袖や裾丈の長さが短いものが人気を集めるようになり、「旗袍」でオシャレを楽しむ風潮が確立していった。
1940年代に入ると中国国内のファッション業界は目覚ましい発展を遂げ、いかに「旗袍」を美しく着こなすかに重点が置かれていく。
より体の曲線に密着した素材に、肌の露出部分も増したノースリーブタイプも多く登場し、『見せるオシャレ』の多様化が進む。
また、西洋から伝わったハイヒールやコート、スカーフといったファッションアイテムを「旗袍」に合わせて着こなすスタイルも大流行する。
流行の中心であった「旗袍」が日常から消えた時代
「旗袍」を始めとした女性たちのファッションを心から楽しむ日常が永遠に続くかと思われた中、事態が一変する時代が訪れる。
それは、毛沢東率いる共産党によって1966年に開始された『文化大革命』である。
人々の生活は政治的基準で判断され、中国各地で日常的に行われた国家権力による市民への過剰な服装管理により、自由に服装を選ぶ権利が奪われていった。
流行を楽しむことなど許されるはずもなく、肌を露出する「旗袍」を見に纏うことは非難を浴びることに繋がるため、1978年の改革開放の時代を迎えるまで「旗袍」は街から姿を消すこととなった。
中国文化の代名詞「旗袍」が親しまれる続ける現代
10年という長い『文化大革命』の時代を乗り越えた中国では、結婚式や歌手のパフォーマンスといった公の場を中心に「旗袍」を着用する機会を少しずつ取り戻し始める。これを機に祝福や歓迎を目的とした祝いの場で「旗袍」を着用する風潮が広まっていく。
明るい色鮮やかな素材に、繊細な刺繍が施された「旗袍」は、普段着として着用される場面が少なくなってしまったが、海外のファッション業界から注目を浴びることとなり、90年代には中国を象徴する伝統衣装として世界に発信されるまでに至った。「チャイナドレス」の名で「旗袍」が日本で親しまれるようになったのもこの頃である。
海外での「チャイナドレス」の知名度が上がると同時に、中国文化に関連するイベントでは「チャイナドレス」を身に纏いながら、中国の伝統文化に触れる人々の姿が増えた。
中華圏の人々が暮らす国や地域でも『春節(旧正月)』を迎える時期に伝統衣装を着用し、家族で新年を祝う習慣が代々、受け継がれている。
毎年、日本の中華街を中心に行われている『春節パレード』は、自前の「チャイナドレス」を着用する参加者で盛り上がりを見せていることでも有名だ。
生活の実用性を優先し作られた「旗袍」は、政治問題に翻弄されながらも、守るべき中国の伝統と女性の美意識を際立たせる役割を果たし続けている。
時代に合わせたデザインに対応しながらも、伝統の要素を現代にもしっかりと残すために、『高い襟』に『スリット』、『装飾ボタン』といった「旗袍」の特徴を変えていない部分を見ると、時代の変化に対応することの大切さと、変わらない伝統の良さを「旗袍」は世界に向けて発信しているのだということが読み取れる。
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