バイカル湖は、ロシアの南東に位置し、世界でもっとも深い湖として知られている。
シベリアという日本からもそう遠くない地域にありながら、観光で訪れることもない土地。その魅力について解説する。
ターコイズブルーの世界
バイカル湖は例年、1月から5月の間は湖面が凍結する。氷の厚さは1m以上にもなり、自動車の通行も可能になるほどだ。3月になると表面を覆う氷にひびが入り、生まれたクラックが積もった雪ごと氷を空に向けて立ち上がらせる。
そこに光が差し込むと、隆起した氷はカットガラスのような質感、そして、ターコイズのような色で神秘的な美しさを見せる。
これは、バイカル湖の透明度が世界一高いためだ。世界最大の湖であるカスピ海は塩湖だが、バイカル湖は淡水湖としては世界で二番目の面積を誇り、淡水の貯水量も世界一である。しかも、地球上にある液体での淡水の2割をバイカル湖が占めているというから驚きだ。
そのため、1996年にはユネスコから世界自然遺産に登録されている。
バイカル湖 は世界最古の湖
アジア最大の淡水湖であるバイカル湖の面積は琵琶湖の約46倍、最大水深は1,741mもある。そして、もうひとつの世界一は「世界最古」の湖ということだ。
10万年以上の歴史を持つ湖は世界に20ヵ所程度あるが、バイカル湖は3000万年前には海とは切り離された。それ以前は海溝だったと思われ、それが最大水深の理由でもある。
しかも、巨大な断層の上にあるため今も亀裂が広がっており、年に2cmずつ広がっているという。ということは、それにともない深さも増しているわけだ。
また、外界から遮断されているという理由から生態系も独自の進化を遂げており、ガラパゴス諸島と並んで「生物進化の博物館」ともいわれる。
キャビアで有名なチョウザメや、淡水に生息するアザラシとしては世界で唯一のバイカルアザラシなど1000種類以上の固有種が生息するが、確認されていない固有種も多いと予測されている。事実、「バイカル」とはタタール語で「豊かな湖」を意味するのだ。
25万人の凍死者が眠る悲劇
自然豊かで「シベリアの真珠」と呼ばれるバイカル湖だが、もうひとつ忘れてはいけない「負」の世界一が残る。
1917年に勃発したロシア内戦により、赤軍から逃れた白軍50万人と、帝政時代の貴族や女子供を含む計125万人もの人々がこの地にやってきた。
「大シベリア冬季行軍」と呼ばれる大規模な逃避行である。その行軍中には寒さなどで倒れるものが相次ぎ、バイカル湖に辿りいたときには25万人となってしまった。
そして、真冬のバイカル湖を渡ろうとしたときに悲劇が起きた。
湖上を走る厳寒の風に晒され、気温は一気に氷点下70℃になり、実に25万人もの人々が亡くなった。やがて、春が来て雪解けの季節になる。バイカル湖の湖面も雪が溶け出すと、25万の凍死者の遺体はゆっくりと湖の底へと消えていったという。
今でもその亡骸は深い湖の底で眠ったままだ。
勿論、25万人が同時に凍死したという点でも世界に例のない歴史を残している。
現在のバイカル湖周辺
ここまでの話で、この土地が人も住めない特殊な場所だと思ってしまったかもしれない。バイカル湖の周囲には針葉樹の森が広がり、気候も比較的安定している。積雪もシベリアとしては多くもなく、人が住むには十分な環境が整っている。
沿岸では古くから漁業が盛んであり、製紙業とともにこの地の産業を支えてきた。
さらに湖に浮かぶ最大の島・オリホン島は、奄美大島ほどの面積を持ち、そこでも1,500人ほどが生活している。冬場はこのオリホン島との交通路として凍結した湖に道路標識が立てられ、冬季限定の道路が作られる。
ソ連が崩壊してからは外国人観光客も増え、それにともなって観光業も盛んになっていった。ターコイズブルーの氷が見られるようになったのもそのおかげだ。
悪魔のクレーター
2011年6月のことである。
この湖で4人の男性を乗せた遊覧船が突如として消息を絶った。すぐにレスキューチームにより捜索が行われたが、その行方は不明のままである。
実は、以前からバイカル湖の漁師たちの間では3つの目撃談が相次いでいた。
「行列」「古代の城」「古い時代の船舶」が蜃気楼のように浮かび上がっては消える。しかも、特定の場所ではなく、湖の異なった地域で目撃されているという。
また、遊覧船が消息不明となった場所は「悪魔のクレーター」と呼ばれる水域の近くだった。ここはバイカル湖でももっとも水深があり、船舶が次々と謎の失踪を遂げる場所として有名だという。この水域では突然、湖面が渦を描き出し、そのクレーターのような渦がすべてを飲み込んでしまうといわれている。
巨大な湖だけにこうしたミステリアスな話も多い。
最後に
冬には極寒の地となるが、夏には14℃ほどの過ごしやすい気温となる。
ツアーで訪れるなら、イルクーツクからバスや観光列車も出ているので、一度は行ってみたいものだ。
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