人間の皮膚の装丁
人皮装丁本(にんぴそうていほん)とは、人間の皮膚を使って装丁された本のことである。
一般的に本の表紙の装丁は、紙や布、動物の皮(羊、豚、牛など)が使われている。特殊なものでは宝石で装丁された美しいものもある。これらの他に、樹の皮や爬虫類の皮、みの虫の巣などを使った一風変わったものがある。
このような装丁の本を「下手装本」といい、人間の皮膚を使った人皮装丁本はその最たるものだという。この人皮装丁本は、世界で少なくとも100冊はあるとされている。
人間の皮膚を鞣して作られた人皮装丁本は、16世紀頃には主にヨーロッパで登場していたとされ、17世紀には製本技術が確立していたという。
当時、処刑された犯罪者の体は科学の発展のために役立てられた。それだけでなく、皮膚は製革業者や製本屋に渡され、それを使い装丁が行われていた。
人皮装丁本の例では、死刑になった犯罪者の皮膚を使った裁判記録の写しを綴った本や、解剖された死体の皮膚を使った解剖学テキストなどがあり、他には亡くなった家族の遺言により、故人の皮膚を使った遺産としての本もある。
また、仏教では平城京において女性が皮膚を剥がしてそれに写経するという修行があったという。(※太政官奏「722年成立」の記述)
様々な人皮装丁本
19世紀前半のイギリスで「赤い納屋殺人事件」という殺人事件が起こり、当時この事件は世間で大きく報じられた。
犯人のウィリアム・コーダーは絞首刑になり、その処刑の際には見物人が押しかけたという。
彼の死体の皮膚は剥がされて鞣された後、自身が起こした事件に関する本の装丁に使われたのだった。これには戒めの意味があったとされている。
このような例の他に、自分の死後に「皮膚を提供する」と遺言を残した女性もいた。
フランスの天文学者、カミーユ・フラマリオン著の詩集「天と地」には人皮装丁が施されている。これは、彼の詩を愛し若くして亡くなったある伯爵夫人(サン・トウジ伯夫人だといわれている)の遺言により、夫人の肩の皮で装丁したものである。
その本の表紙には金文字のフランス語で「ある婦人の心からの願いを容れ、その人の皮で装丁す、1882年」と打ち出されてある。
また、フランスに帰化した藤田嗣治(ふじたつぐはる)画伯も人皮装丁本を所有していた。
古書研究家・斎藤昌三は、藤田画伯から白人の皮膚を鞣したと思われる人皮装丁本を見せられたことがあるという。
その本は1711年にスペインのマドリードで出版された小型の宗教書で、三味線の皮のように白っぽく、手触りも非常に滑らかなものであったと伝えている。
この本は戦前、藤田画伯が南米のエクアドルに旅行した際に、大統領の子息から贈られたものだという。それだけでなく、画伯はその時の旅行で頭蓋骨を抜き出して拳大に干し固められた首も、土産品として入手したといわれている。
ドイツにおいては、20世紀初め頃にパウル・ケルステンという男が人皮装丁本の製作に携わり、彼はそれを好事家相手のオークションに堂々と出品していた。しかし「人間の皮膚には値段の付けようがない」という理由で裁判沙汰になったという。
また、ドイツは2度にわたる大戦で物資の欠乏に苦しんでいた時、人工皮革製品の原料として人間の皮膚に着目した。第一次世界大戦時にもその種の噂はあったようだが、第二次世界大戦時にダッハオ(ダッハウ)収容所での自らの体験を綴った、医師のフォン・ホルトの日記にそのことが記されている。
その日記は「わが心に鐘は鳴り響く」というタイトルで戦後まもなく公刊されたもので、その中には「強制収容所で命を落とした人の皮膚を使って、収容所の士官達のために財布が作られていた」と記されている。
それだけでなく平時においてすらも「ある大学生組合では宴会用の合唱の本に、人間の皮膚で作った表紙を使っていた」という事実を告げている。しかもそれは女性の乳房の皮膚を用いたものであったという。
また、ブーヘンヴァルト強制収容所所長夫人のイルゼ・コッホは、夫の地位を利用して収容者を殺害し、その皮膚で色々な品物を作ったといわれている。特にイレズミのあるものに興味を持っていたという。
彼女はアドルフ・ヒトラーの「我が闘争」や家族のアルバム、日記などを装丁したとされるが、裁判ではその物的証拠が見つかっておらず真相は分かっていないという。
人皮装丁本の調査
ハーバード大学では、人皮装丁本と思われる書籍が3冊発見されている。
2014年にその中の1冊を調査されたが、人間の皮膚ではなく羊の皮で出来ていることが判明した。
この1冊には
「この本の装丁は、1632年8月4日にWavuma族によって生きたまま皮膚をはがされた、私の親友Jonas Wrightが残したものである」
という旨の意味ありげな記載がされていたが、人間の皮膚ではなかった。
この本は、スペインの法律に関する論文を記したものだという。
さらにその後、他の1冊を調べたところ、その本は99.9%の確率で装丁に人間の皮膚が使われていることが判明した。
この本は、あるフランス人小説家が死後の世界について書いたもので、装丁には女性の背中の皮膚が使われており、よく見ると毛穴まで確認出来る程だったという。
このように、人間の皮で作られた本は数多く存在している。
だがその目的は、犯罪への戒め、物資の欠乏や好事家の趣向、愛する人のためなど、理由は様々だったようである。
参考文献 古書のざわめき 青弓社 世界の奇書101冊 自由国民社
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