2019年2月15日から17日にかけ、ドイツ南部ミュンヘンで毎年恒例の「ミュンヘン安全保障会議」が開催された。
会議には、安全保障関係の研究者や実務家だけでなく、外務大臣や国防大臣など各国の閣僚も出席するので、毎年、大変注目を集める。
2019年の会議では何があったのか。以下、3つのことを紹介したい。
ミュンヘン安全保障会議の会場

画像 : 第53回会議 wiki c Jim Mattis
まず見えたのは、米中、米露など大国間の対立だ。
米国のペンス副大統領は、同会議で講演し、中国の大手通信機器会社ファーウェイを安全保障上の脅威だとし、安全保障を脅かす恐れのある中国企業の製品を利用しないよう各国に呼び掛けた。
また、ロシアを巡っては、中距離核戦力廃棄条約(INF)におけるロシアの違反を強く主張した。
当然のように、同会議に参加した中国の楊潔篪共産党中央政治局委員やロシアのラブロフ外相からは、米国の主張を否定・非難する声明が出され、大国間の利害対立が鮮明となった。
次に、今回の会合からは欧米の対立もはっきりと見えた。
ペンス副大統領は、イラン核合意について、欧州も脱退してイランへ政治経済的な圧力を掛けるべきだとの姿勢を示したが、英国やフランス、ドイツは、同合意から一方的に脱退したトランプ政権に深い不信感を抱いている。
また、トランプ政権はシリア政策について米軍の早期撤退を掲げているが、イスラム国の復活を懸念する欧州諸国は米軍の早期撤退に疑問を投げ掛けている。先週の同会議で演説したドイツのメルケル首相も、米軍撤退を進めるトランプ政権の政策に懸念を示した。
そして、3つ目が欧州の存在力低下である。
今年のミュンヘン安全保障会議には、フランスのマクロン大統領は国内事項を理由に参加しなかった。また、来月には英国のEUからの離脱(ブレグジット)が控えている。
今日、欧州の大国は存在力を失い、多国間主義や国際主義を強く訴える姿はドイツのメルケル首相くらいしか見えない。また、フランスのルペン氏やオランダのウィルダース氏のように、近年欧州では保守政党が各国で支持を拡大しており、EUの存在意義とは何なのかを問う声も増えてきている。
今回、同会議に参加した東欧ハンガリーは、中露寄りの外交姿勢を示し、米国や欧州を一蹴したという。
ミュンヘン安全保障会議の発表者

画像 : ミュンヘン安全保障会議の発表者 ヴォルフガング・イッシンガー(2009-2022年:議長) wiki c Sebastian Zwez
2019年の会議からは、以上のようなことが見えたが、このような状況は日本にとって決して好ましいものではないだろう。
2016年のアフリカ開発会議(TICAD)の際、安倍首相は「自由で開かれたインド太平洋戦略」を打ち出したが、このような自由・民主主義、法の支配など、普遍的な価値観の拡大を狙う戦略を重視する大国指導者は現在どこにいるだろうか。
米中露の指導者からそのような声が聞かれる可能性は現実的ではなく、主要国では日本やドイツ、フランスくらいしかない。
普遍的価値の普及を主導してきた欧米間の対立が激しくなるだけでなく、米国は自国第一主義に走り、欧州は内部分裂する様相を呈している。その一方、政治的な力の空白を突くように、中国やロシアはその覇権的行動をエスカレートさせている。
このようなリーダーレスな世界が今後一層進むのであれば、日本外交はより多くの難題に直面するかも知れない。
日本外交の基盤は日米同盟で、米国追従外交などと評されることもあったが、今後は主体性を持った外交が一層求められることになるだろう。
日米同盟が基盤であることに変化はないにしても、米国と距離を置く国、中国との関係を重視する国が今後増えるとなると、日本は主体的にそれら国々と独自のパイプを作っていく必要がある。
今回のミュンヘン安全保障会議は、米中露、欧米の対立構図を強く示すこととなったが、今後の日本外交を考えると、我々はいくつかのヒントをここから学ぶことができるだろう。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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