古代文明

『140万年前』 人類の近縁種が、ヨーロッパ大陸を東から西へ移動していた

人類の近縁種「ホモ・エレクトス」

画像 : ホモ・エレクトスpublicdomain

2024年3月6日、学術誌『Nature』で「人類の近親種たちは140万年前にヨーロッパ大陸を東から西へ移動してきた」とする衝撃的な研究論文が発表された。

チェコ科学アカデミーの研究者、ローマン・ガルバ氏とその研究チームは、以下のように発表した。

「現在の人間(ホモ・サピエンス)がアフリカ大陸を離れたのは約27万年前のことだが、すでに絶滅した人類の近縁種「ホモ・エレクトス」は少なくとも180万年前にはユーラシア大陸に移住していたと考えられる。」

今回の説が生まれたきっかけは、ウクライナ西部のコロレボ遺跡で発見された石器が、約140万年前、人類最古どころか人間になる前の近縁種「ホモ・エレクトス」が使っていたものだったことが、研究調査により判明したことであった。

画像: ウクライナのコロレボ遺跡で発掘された140万年前の石器 cc : Roman Garba

画像 : ウクライナ コロレボ遺跡の場所 cc RosssW

「ホモ・エレクトス」は約200万年前にアフリカ大陸に出現し、アジアやヨーロッパに広がった絶滅種で、かつては「ピテカントロプス」とも呼ばれた古代の人類近縁種である。

彼らは、私たち現代人類であるホモ・サピエンスはもちろん、ネアンデルタール人よりも古い時代に生きていたという。

ホモ・エレクトス

画像 : ホモ・エレクトス (ピテカントロプス)の頭蓋骨 cc Luna04~commonswiki

石器は140万年前のものと判明

今回の研究で、1970年代に発掘されていたウクライナ・コロレボ遺跡の石器が約140万年前のものだと判明したことは快挙だという。

これまでの研究技術では、石器の正確な年代を特定することができなかったのだ。

今回、ガルバ氏が率いる研究チームが「宇宙線」を使用した最先端の年代測定技術を採用したため、「石器は約140万年前にホモ・エレクトスが使っていたこと」「現時点で、コロレボ遺跡はヨーロッパにおいて人類最古の証拠となること」が特定できたのだという。

石器に宇宙線を照射することで、それがいつ地中に埋まったかを計測できるようになり、今まで計測不能だった大昔の遺物の分析が可能になったのである。

さらに、石器はもっとも原始的な「オルドワン」という様式で作られていたことまで明らかになった。

画像: オルドワン石器  CC Didier Descouens

「オルドワン」は打撃を加えて石を加工する技術で、コロレボ遺跡の石器は片側に刃を作り、「道具」として使用していた形跡も残されていたという。

画像: ウクライナのコロレボ遺跡で発見された石器の数々  cc: Roman Garba

ホモ・エレクトスが東から西へ移動した数々の証拠

コロレボ遺跡から出土した約140万年前の石器は、約130万年前から約70万年前までの3つの「間氷期」をまたいで現代にあらわれたことも明らかになった。

「間氷期」とは、氷河期と氷河期のあいだの温暖な気候の時代のことである。

この時代は食料や資源も潤沢になるため、ホモ・エレクトスを含む人類の近縁種たちは温暖な間氷期を活用し、何十万年もの月日をかけて新天地を模索しながら、ウクライナのコロレボ(遺跡)のような高緯度地域や、東ヨーロッパの広大な平原に移動していった可能性が高いという。

さらに、ウクライナのコロレボ遺跡はアジアとヨーロッパの中間地点に位置しているため、彼らはパンノニア盆地(現在のハンガリーやチェコ)を通過して「東から西へとヨーロッパ大陸に拡散していった」という驚きの移動ルートも研究論文で発表されたのである。

画像: (a) 論文で発表された人類の近縁種の分散ルート       (b) ウクライナ、コロレボ遺跡 cc: Roman Garba

この仮説は、ウクライナ、スペイン、フランスの各地から約120万年前~180万年前の3つの遺跡で発見された石器の年代にも基づいているという。

また、研究チームが過去200万年間の人類の近縁種の生息地適合性を調べると、ホモ・エレクトスは約180万年前にはカスピ海と黒海のあいだを東西に走るコーカサス山脈、約120万年前には現在のフランスやスペインに居住していたことも判明し、時期が符号している。

画像 : カスピ海とその左側の海が黒海 public domain

今回採用された最先端の宇宙線による年代測定技術の主任研究員を務める藤岡敏行氏は、今回の研究結果に対しこのように語っている。

「ヨーロッパには、初期人類がいつから住んでいたのか確実に示す遺跡がほとんどなかった。

しかし、今回の研究でウクライナのコロレボ遺跡の石器が約140万年前に使われていたことが明らかになり、ヨーロッパにおける古代人類の起源を探る上での重要な手がかりが掴めた。

この発見によって、ホモ・エレクトスを含む人類の近縁種たちがどのようにヨーロッパに移住してきたのか、これからより詳しく理解できるようになるだろう。」

更新され続ける人類の起源と進化の歴史

今回の研究では、人類の近縁種がこれまで考えられていたよりはるか昔から、驚異的な行動力と適応力によって世界各地に広がっていたことがわかった。

画像 : 古代人類が東から西へと移動した、中南アジアと東ヨーロッパ public domain

しかし、この仮説はあくまでも2024年時点での推論であり、今後、新たな遺跡が発見されればまた覆される可能性もある。

人類の起源や進化は謎に包まれており、常に新しい発見によって日々、更新されている。

今回の研究発表を手がかりに、さらなる調査が進められ、人類の起源と移住経路がより詳しく解明されることが期待される。

参考 :
Oldest stone tools in Europe hint at ancient humans’ route there | Nature

 

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フィリピン在住の50代IoTエンジニア&ライター。
antiX Linuxを愛用中。頻繁に起こる日常のトラブルに奮闘中。二女の父だがフィリピン人妻とは別居中。趣味はプチDIYとAIや暗号資産、マイクロコントローラを含むIT業界ワッチング。

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