日本の国土が、静かに、しかし確実に塗り替えられている。
北海道の広大な森林や水源地、沖縄の軍事拠点周辺の土地買収が取り沙汰されて久しいが、今、その触手は日本の「屋根」とも称される中部地方、とりわけ長野県へと深く伸びている。
観光資源の確保という名目の裏で進行する外国資本による不動産買収。そこには、単なるビジネスでは片付けられない安全保障上の懸念が潜んでいる。

画像 : 長野県北安曇郡白馬村を流れる松川と白馬連峰MaedaAkihiko CC BY-SA 4.0
信州の「心臓部」を狙う外国資本
長野県、特に白馬村や軽井沢といった国際的な知名度を誇るリゾート地では、外資を含む土地取得への警戒が根強い。
かつてのバブル期に見られた国内投資とは異なり、現在は取得主体や資本の流れが見えにくい案件もあり、地元で警戒感が強まっている。
白馬村では、インバウンド需要の回復を見越した開発や土地取得が進み、外部資本の流入に対する警戒感が地域課題として意識されている。
これは単なる経済活性化の問題ではない。景観や土地利用のあり方が地域の意思から離れて進めば、自治体の関与が及びにくくなるのではないかという不安が強まる。
「水源地」と「インフラ」という戦略的価値
なぜ、海のない長野県の土地がこれほど警戒されるのか。
その背景にあるのは、長野県が持つ「水」と「位置」の重さである。
長野県は千曲川(信濃川)や天竜川など、日本を代表する河川の源流域を抱えており、水源地の保全は県政上も重要な課題として扱われてきた。
森林の取得が注目されるのも、その先に水源地の問題があるからだ。
地下水は原則として土地所有権の効力の中に含まれるとされており、長野県も事前届出制を柱とする条例を整え、水資源保全地域の監視を進めてきた。
源流域の土地利用が変われば、下流域の水環境に影響が及ぶのではないか。そうした不安が消えないのは、水がこの県にとって生活基盤そのものだからである。
しかも、長野県の価値は水だけではない。首都圏と中京圏を結ぶ物流・交通の結節点としての重要性も大きい。
リニア中央新幹線の工事が進むなかで、その周辺地域の土地利用をどう管理していくのかは、水源地とは別の意味でも放置できない論点になっている。

画像 : 諏訪湖 草の実堂編集部撮影
重要土地利用規制法の限界と今後の課題
政府は2022年、自衛隊基地周辺や国境離島などの重要施設周辺の土地利用を規制する「重要土地利用規制法」を全面施行した。
しかし、長野県のような山岳地帯や水源地、リゾート地はこの法律の監視対象から漏れているケースが多い。
現行法では、所有者が誰であるかを把握することすら困難な場合がある。
登記簿上の所有者が個人名であっても、実質的な支配権が外国企業にある「フロント企業」による買収を防ぐ手立ては乏しい。
また、土地取得後の転売を繰り返されることで、最終的な責任の所在が霧散してしまう。
今、求められているのは、単なる「施設周辺」の規制ではなく、日本の資産である「国土そのもの」を守るためのより強力な法整備だ。
外資による土地取得に際しての事前審査の厳格化、そして「水源地」を国家安全保障の対象に加える議論を急がなければならない。
長野県の美しい山々が、いつの間にか地域の意思だけでは方向を決めにくい場所へと変わっていく。国土の利用と保全をどう両立させるのかが、いま改めて問われている。
参考 :
内閣官房/防衛省『国家安全保障戦略』(2022年12月16日)
長野県『県民ホットライン 水源地の土地売買について』ほか
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

























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