思想、哲学、心理学

「集団で行う恐怖」群衆心理の危険性

赤信号、みんなで渡れば怖くない

…この言葉を聞いたことはないだろうか。

もちろん、一人で渡ろうが十人で渡ろうが、赤信号の危険は変わらない。物理的に一人よりも十人のほうが誰かが盾となって助かる確率が上がりそうだが、そういった問題ではない。

これは、集団で行えば危険行為も容易く行えるようになるという、群集心理を表しているのだ。

3人が見上げれば、大多数が見上げる

「集団で行う恐怖」群衆心理の危険性

人は大多数の意見に傾いてしまうという性質がある。

もちろん、それ自体が良いとも悪いとも言えないが、例え99%「これ」と思っていても、周りが違う回答をすると、自らの答えに自信がもてず周囲に流されて同じ回答を選ぶことがある。

アメリカの心理学者Solomon Eliot Asch(ソロモンエリオットアッシュ)は、実験でABCの三つの異なる長さの線が描かれている画用紙をみせて「この三つの線のうち、もう一つの画用紙に描かれている紅い線と同じ長さのものはどれですか?」と尋ねる。これは結構わかりやすく書かれており、一目見れば明らかに「B」だ、とわかるようになっていた。実際、ほとんどの人が間違えようのない問題であるが、そこからがアッシュの実験である。

アッシュは、予め周囲をサクラで固め、「C」を選択してもらうようにする。すると実験を知らない被験者は、自分以外の人間が「C」を選ぶことで「C」を解答に選んでしまう。

アッシュはこの答えを「同調」と呼んだ。人は、自分の考えが正しいか正しくないかより、周囲の意見に合わせることを選んでしまうということだ。

似たような実験は他にもある。

例えば、数名のサクラが同時にビルを見上げるようにして上を見る。そうすると、通行人がちらほらと上を見上げる。このサクラの人数は、最小3名で成立する。

さらに「ローカルルール」と言われる地域のルールも一例として挙げられる。エスカレーターでの並び方などは左並びが圧倒的に多いが、右側並びの地域もある(関西)。そこで、関西にて左側で止まって並ぶと、左止まりをする人が3%から18%まで上昇した。

そもそもローカルルールに明確な決まりがないため、それこそが群集心理で行われていると言える。

群集心理の恐怖

イギリスの心理学者、William McDougall(ウィリアムマクドゥガル)は人が集まると起こる心理、すなわち群集心理について衝動性や暴力性、移り気、一貫性の欠如、極端な行為、自我意識や自己抑制の喪失などを述べた。

つまり、群集で行う判断は短絡的で一貫性がなく、意見がコロコロ変わりやすいうえにその選択は「0か100」「白か黒」のように極端であることが多い。ということになる。

そしてそんな選択を大多数が行ってしまう深層に、「自我意識の欠如と自己抑制の喪失」をあげた。

「みんなが選んだから」と、その答えを出したのは自分自身であるにも関わらず、責任が希薄なのだ。

群集心理の例として 魔女狩り・ユダヤ人の迫害

※魔女の火刑

群集心理の例としてよく挙がるのが、魔女狩りユダヤ人の迫害である。

魔女狩りは、中世ヨーロッパ、16世紀後半から17世紀にかけて「魔女だ」とされた女性たちが、法的な手続きを一切行わず残虐な手口によって殺された事象である。

「魔女」の概念は非常にあやふやで、迫害され殺害された人は女性が圧倒的に多いが中には男性もいた。また、子供を受け取る「産婆」や「妊婦」も多く対象になった。

医学も発展していなかったので、薬を作るような人物も同様に対象になった。また、統合失調症やパニック障害などの精神病患者も多く殺された。このように「普通とちょっと違う状態」があれば簡単に迫害され、殺された。

ユダヤ人迫害も、キリスト教徒がイエスをローマ帝国に告訴したのはユダヤ教徒であるとし、イエスを苦しめたのはユダヤ人ということが引き金になっている。

もちろん、熱狂的なキリスト信者やユダヤ教徒は相いれない部分もあるだろうが、自らがユダヤ教徒だという意識が低い子供、孫世代まで問答無用で殺されてしまったのは、群集心理によるものだろう。

宗教が原因の戦争や迫害は、実はよく起こることであり現在も続いているが、現代においては基本的にどの宗教に属するかは個人の自由であり個々を尊重するべきとされ、人種差別も禁止されている。

経済すらも操る群集心理

「集団で行う恐怖」群衆心理の危険性

今、コロナウィルスが蔓延しマスクが品薄になっている。品薄が続くと、大して欲しくなかったり必要がなくても買いだめする傾向がある。

以前関東で大きな地震があった時、多くの人が水を備蓄しようとスーパーやネット通販を頼んだが、一ヵ月もすると今度は「返品」が相次いだ。

群集というのは、このように大した責任を持たず目先の出来事に飛びつく性質がある。もちろん、それが悪いとは言わない。マスクであれ水であれ、身の安全の確保や生活の安全の確保はとても大切なことだ。周囲に合わせる同調行為も、決して悪とは言えない。

自分で考えることが大事

群集心理は基本的に危険な選択を選びやすい。このことを、ぜひ覚えておいてほしいと思う。

同調は悪いことではないし、周囲の意見に耳を傾けることも決して悪いことではない。しかし、残念ながら「何も考えず周囲に合わせて選択する」人が多いのだ。そしてそれは時折非常に強力な力をもつ。

どうか、赤信号は、例え多くの人が渡っても渡っていなくても、自分の意思でどっちにするかしっかり熟考してほしい。

 

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. パーソナリティー(人格)障害って何?「3つのタイプ、治療は可能?…
  2. 町田ゼルビアの苦悩 ~スポーツ界全体を脅かすSNS誹謗中傷の闇 …
  3. ギリシア神話はあらゆるものの源泉だった
  4. 兼好法師に学ぶ 心の健康法 「病を受くる事も、多くは心より受く」…
  5. 本当は嘘?「男脳・女脳」は非科学的
  6. 占いと陰陽五行説について調べてみた【古代中国】
  7. 「臨死体験?」死ぬ瞬間、脳内には300倍の「ガンマ波」が発生する…
  8. 古代中国の占いはどのように進化したのか?【八卦 奇門遁甲】

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

蜀の老将・黄忠の実像 【関羽との名勝負はフィクションだった】

蜀の誇る老将蜀の誇る猛将ユニット、五虎大将軍の中で、これまで関羽、張飛、趙雲、馬超と4人…

鍾会 〜自惚れから身を滅ぼした策略家 【蜀を滅ぼすも最後は自滅した超エリート】

野望高き天才263年、もはや三国の一角を占める国家の蜀(蜀漢)に興隆の兆しがないと見た魏…

源実朝は聡明で霊感があった 「若くして暗殺された三代目鎌倉殿の実像」

三代目鎌倉殿・源実朝(みなもとのさねとも)は、母・北条政子や叔父・北条義時に隠れた大人しい存在で、京…

【18年間拉致監禁】11歳で誘拐され犯人の子を2人出産させられたジェイシー・デュガード

登校中に起きた突然の誘拐1991年6月10日の朝、カリフォルニア州サウスレイク・タホーに住む…

武家官位について調べてみた【暗黙のルールがあった】

皆さん、織田上総介信長、という人は聞いたことはあるだろうか?これは皆さんご存知の織田…

アーカイブ

PAGE TOP