日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収をめぐり、当初は強く反対していたトランプ大統領が、23日、一転してこれを承認する姿勢を示した。
当初は反対していたトランプ大統領

画像 : 日本製鉄本社 wiki c Kakidai
2023年12月、日本製鉄は米鉄鋼大手USスチールを約141億ドルで買収する計画を発表した。
この買収は、米国市場での生産基盤強化と、中国鉄鋼業界に対抗する競争力向上を目的とした戦略的動きであった。
USスチールは老舗企業だが、設備の老朽化やコスト競争力の低下で業績が悪化しており、日本製鉄の技術力と27億ドル以上の追加投資による再生が期待された。
しかし、バイデン前政権下では国家安全保障上の懸念から、2025年1月3日に買収禁止命令が出された。
これはUSスチールが米国経済と安全保障に重要で、外国企業による支配がリスクをもたらすとの判断であった。
トランプ氏自身は当初、買収に強く反対していた。
2024年12月、自身の「米国第一主義」を掲げ、国内産業の保護と雇用の維持を強調。
USスチールがペンシルベニア州に本社を置き、大統領選の激戦州であることや、全米鉄鋼労働組合の支持を得る必要性から、外国企業による象徴的な米国企業の買収は受け入れ難いとしていた。
しかし、2025年5月23日、トランプ氏は一転して日本製鉄とUSスチールのパートナーシップを承認する意向を示した。
その理由は以下のように整理できる。
反対から一転して承認するようになった4つの理由

画像 : USスチール・タワー(2022年)wiki c Cbaile19
第一に、経済的利益と雇用創出の可能性である。
日本製鉄は買収に伴い、雇用の削減や施設閉鎖を行わず、追加投資で地域経済を活性化させる計画を示した。
トランプ氏はこの提携が7万人の雇用を創出し、140億ドルの経済効果をもたらすと主張した。
これは、トランプ氏の「製造業復興」という政策目標と一致し、ペンシルベニア州などでの支持基盤強化につながると判断された。
第二に、日米同盟の強化である。
日本は米国にとって重要な同盟国であり、トランプ氏は関係悪化を避けたい意向を持っていた。
2025年2月の日米首脳会談で、石破茂首相と「買収ではなく投資」という表現で合意。日本製鉄がUSスチールの過半数株式を取得しない形で投資を行う方針が確認され、国家安全保障上の懸念を和らげた。
この合意は、トランプ氏が日本との二国間関係を維持しつつ、国内での批判を最小限に抑えるための妥協点であった。
第三に、トランプ氏自身の政治的成果としての位置づけである。
トランプ氏はこの問題を「仲介者」として解決することで、自身の交渉力とリーダーシップをアピールした。
2025年4月、対米外国投資委員会に買収の再審査を指示し、45日以内に国家安全保障上のリスク軽減策を評価するよう求めた。
この再審査により、日本製鉄が提示した投資計画が米国の利益に資するとの結論に至り、トランプ氏は自身の決断力を強調する機会を得た。
第四に、国際競争力への配慮である。
中国の鉄鋼過剰生産が世界市場に影響を与える中、USスチールの競争力強化は急務であった。
日本製鉄の技術と資金が、米国の鉄鋼産業を強化し、中国への対抗力を高めると評価された。
これにより、トランプ氏の「中国牽制」という外交方針とも整合性が取れた。
以上の理由から、トランプ氏は当初の反対姿勢を転換し、買収を承認した。
この決定は、経済的・政治的・外交的要因が複雑に絡み合った結果であり、トランプ氏の現実的な判断と政治的戦略を反映しているといえるだろう。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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