戦前に多く存在した海外神社

画像:朝鮮神宮 public domain
神道における「神」を祀る施設が神社である。
現在、日本には8万社以上の神社が存在し、末社や摂社を含めると、その数は20万から30万社にのぼるといわれている。
神社は日本固有の神々を祀る施設であるため、日本にしか存在しないと思われがちである。
しかし、戦前には「海外神社」と呼ばれる神社が存在していた。
それは、植民地や占領地に建てられたものであり、その代表的なものが、1901年(明治34年)に創建された「台湾神社」である。
このほかにも、満州の「安東神社」や、朝鮮半島・ソウルの「朝鮮神宮」などが挙げられる。

画像:安東神社 public domain
これらの神社は、現地の住民に「神道」を宣伝・普及する役割を担っており、その結果、住民はしばしば参拝を強要されることとなった。
すなわち、「海外神社」は、植民地や占領地の住民に対する「皇民化」政策の一環として設けられたものであり、神社本来の「神マツリのための場」という本質からは大きくかけ離れた存在であった。
そのため、1945年(昭和20年)の敗戦とともに「海外神社」はその存在意義を失い、悉く消滅したのである。
国内の有名社が海外に点在する

画像:ハワイ出雲大社 public domain
「皇民化」政策の一環として創建された「海外神社」はすでに消滅しているが、一方で、日本国内の神社が、地元の日系人などの信仰のために建立した神社は、現在も世界各地にいくつか存在している。
その代表例として、日系移民の多いハワイには、オアフ島の「ハワイ出雲大社(いずもおおやしろ)」、「ハワイ金刀比羅神社(ことひらじんじゃ)」、「ハワイ太宰府天満宮(だざいふてんまんぐう)」などがある。
また、アメリカ本土にはワシントン州の「アメリカ椿大神社(あめりか つばきおおかみやしろ)」があり、ヨーロッパでは、フランス・ブルゴーニュ地方ラ・モンターニュ村の「和光神社(わこうじんじゃ)」などが知られている。
さらに、東南アジアのタイ・チョンブリ県には、「シラチャ小国神社」がある。
神道の新たな波となるサンマリノ神社

画像:サンマリノ神社の鳥居 public domain
現在、世界に存在する日本の神社の多くは、一の宮や神社本庁に属する有名神社から分霊されたものが多い。
しかし、サンマリノ共和国に、2014年(平成26年)に創建された「サンマリノ神社」は、少し趣を異にしている。
イタリア半島北東部に位置するサンマリノ共和国は、紀元301年に創設された世界で最も古い共和国であり、現在も存続する唯一の都市国家だ。

画像:サンマリノ共和国 ティターノ山 public domain
人口は約3万人と小規模だが、古代ローマ帝国のキリスト教迫害から逃れてきた人々によって建国されたこともあり、敬虔なカトリック信徒が多くを占める。
そんなサンマリノ共和国に鎮座するのが、日本サンマリノ友好協会によって創建された「サンマリノ神社」だ。
この神社の創建は、日本とサンマリノの友好の象徴であるとともに、2011年(平成23年)3月11日に発生した東日本大震災の犠牲者を慰霊することを目的としている。

画像:宮司のフランチェスコ・ブリガンテ氏(2016年)public domain
初代の神職として奉仕したのは、山形の出羽三山神社で神職の練成行を行い、神社本庁から神職の資格を受けて宮司に任命されたフランチェスコ・ブリガンテ氏である。
現在は、出羽三山神社の神職養成所で、サンマリノ神社に奉職するための神職資格を取得した神官が宮司を務めている。

画像:サンマリノ神社の本殿 public domain
境内には鳥居や石灯篭が置かれ、小振りな神明造りのお社には祭神として天照大神が祀られる。
「サンマリノ神社」は、神道本来の「神マツリのための場」として、民族や国境を越えた神社信仰の新しい波の始まりとして、大いに期待したい。
※参考文献
古川順弘著 『神社に秘められた日本史の謎』宝島社文庫刊
文:高野晃彰 校正 / 草の実堂編集部
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