生き物の三大欲求の一つとして人間が日々行っている活動「睡眠」。
一生のうち、三分の一ほどの時間が睡眠のために費やされるともいわれる。一定時間活動をすると、ヒトは疲れや眠気を感じ、睡眠をとる。
十分睡眠をとると疲労が回復し、眠気が解消され、また活動する気力が生まれる。
このように日々生命を維持するため繰り返される睡眠だが、具体的には体内では何が行われているのだろうか。
今回は実際の睡眠のはたらきを見ていこう。
■睡眠時に体はどうなるのか
睡眠は、NON-REM(ノンレム)睡眠とREM(レム)睡眠の繰り返しによって成り立っており、一般的にはそれぞれを4~5回ほど繰り返す。
REM睡眠時には体全体は眠るため脱力しているが、脳は覚醒しているため浅い眠りとなる。夢を見るのも、このREM睡眠の間だ。また、意識があるのに体が動かないという所謂「金縛り」は、筋肉が弛緩しきっていることによる。
REMとは、Rapid Eye Movement(素早い眼球の動き)を意味する。自分では分からないが、閉じたまぶたの裏では眼球があちこちを向いている。
このモードでは、日中に得て脳内にストックされた膨大な情報を整理していたり、非常時にも目覚めやすい状態になっているといわれる。
入眠直後のNON-REM睡眠時には脳も休息時間となり、眠りも深くなる。この時には眼球は動かず夢も見ないが、代わりに体の筋肉の動きが確認できる。
NON-REM睡眠は眠りの深さによって4ステージがある。
眠りの深さは眠りはじめが最も深く、起床に向けて浅くなっていく。
この間には、下垂体前葉から成長ホルモンが分泌され体細胞の合成や修復が行われ、疲労回復や肌のターンオーバー、筋肉の発達等に寄与している。「寝る子は育つ」と言われるのはこのためだ。
■睡眠とホルモン
睡眠中の成長ホルモン分泌はヒトの体細胞にとって必要不可欠なものだが、睡眠に関わるホルモンは他にもある。
睡眠中、起床時間が近くなると、成長ホルモンの代わりにコルチゾールというホルモンが多く分泌される。この時、起きて活動するためのエネルギーが生み出されている。
基本的には起床してから14~15時間後に眠気を感じさせるホルモン「メラトニン」が分泌されはじめる。メラトニンには体温調節、各種ホルモンの分泌調整の促進といった働きもある。
これらのホルモン等の働きによって睡眠リズムが成り立っているが、ストレスによる夜に覚醒ホルモンのコルチゾールが高くなる不眠症や、体内時計のズレによる昼夜逆転などの睡眠障害が起きる人も現代では珍しくない。
実際に寝付くことが困難な場合、目を閉じるだけでも心身を休ませる効果はある。目を閉じればこれ以上目の筋肉を使わずにすむ。
また、光の刺激を遮断することもできる。
視覚的情報が入ると、無意識のうちに脳で処理が行われるが、目を閉じればそれもシャットアウトすることができる。
眠れない時にはついスマホ等をいじってしまいがちだが、それは目の筋肉も脳も休ませてあげられない行為だ。
何より、明るいスマホ等の光を網膜に直接受けると脳が朝だと錯覚し、睡眠ホルモンのメラトニンが減少してしまう。つまり、内容に関わらず神経を興奮させてしまい、更に眠りから遠ざかってしまいやすい。
■睡眠が足りないと起こること
あなたは「睡眠負債」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
これは近年、スタンフォード大学の教授によって提唱された概念だ。
睡眠不足というと聞きなれているが、負債と言われるとギョッとしてしまう人も多いだろう。
実際に睡眠不足を侮ってはいけないということを、この新語は示している。
毎日少しずつの睡眠不足が累積すると「債務超過」状態となる。
これは単に眠くてやる気が出ないというレベルに留まらず、うつ病や糖尿病、動脈硬化やガン等の深刻な病につながりうる。
少し睡眠不足が続いただけで病気のリスクが上がるということは、現在の日本社会ではほぼ知られていない。
睡眠負債どころかまったく眠れない状態が継続した場合、体温調節不良、思考力低下、ひいては妄想や幻覚、視床の損傷といった健康被害が起こり、度が過ぎると死んでしまうことになる。
動物実験によると、睡眠をさせないようにした場合、断食状態に置くよりも早くに死亡したという報告がある。
つまり私たち動物にとっては、食事よりも睡眠が生命維持により重要であることが判明したのだ。
■睡眠不足をあなどってはいけない
このように、ごく当たり前の営為である睡眠は、その重要性があまり深刻に捉えられないこともある。
「昨日3時間しか寝ていない」
「徹夜したけどまだいける」
そんな言い方で睡眠不足自慢をしたことがないだろうか。
「不眠不休で頑張る」
そんなフレーズを美談として捉えてしまう人々はどのぐらいいるだろうか。
睡眠は、人体にとって必要な生命活動であり、睡眠不足は人命をも削りうる生活習慣だと再認識しよう。
適切な睡眠を確保すること。それが適切な自己管理であり自分の健康に対する責任であると肝に銘じて明日も頑張ろう。
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