海外

台湾の十分(シーフェン)について調べてみた 「願いと希望が詰まったランタンが舞う」

古き良き時代の風情溢れる街並みと親日家の国で知られる台湾

街のいたる所に立ち並ぶ寺院は、過去、現在、未来といった人生の流れに強く関心を抱く台湾の人々にとって大切な心の拠り所である。不安や悩みがあれば迷わず寺院へ向かい祈りを捧げる台湾の習慣を受けてか『願いが叶う寺院』『人生の方向性が見つかる占い』といったスピリチュアルな内容を中心に、台湾の魅力を伝える旅行雑誌が多い。

台湾の十分(シーフェン)について調べてみた

寺院に訪れる台湾の人々

台湾の寺院を訪れると、地面に膝まずき祀られている神に向かい頭を深く下げ、熱心に祈りを捧げる人を多く見かける。

自分の願いと共に家族、友人の幸福まで祈る姿にはとても圧倒させられるが、実際に特定の宗教を信仰している人は少ない。

現時点での自分の悩みが健康に関することなのか、学業に関することなのか、ましてや恋愛なのか、祈る事柄によって祈りを捧げる神も変わることから一定の宗教に絞る人はあまりいないように感じる。

自然溢れる「十分」の街並みから微かに感じられる日本の雰囲気

台湾には『ランタン』という熱気球に願いを託し、空へ飛ばす伝統文化がある。

当初は、自分の身の安全を知らせたり、相手に助けを求める手段として『ランタン』を空へ飛ばしていたが、いつしか天にいる神に祈りを届ける伝統文化へと変化した。1年中休むことなく人々の願いを乗せた『ランタン』が空に舞い続けるその場所は、台湾の人気観光地でもある「十分」という街である。

日本語ではジューフン、台湾語読みではシーフェンと発音する。

台湾の十分(シーフェン)について調べてみた

十分駅の様子

日本統治時代に炭鉱事業を盛んに行なっていた小さな街「十分」。

どこか日本の懐かしさを感じる『平渓線(へいけいせん)』と呼ばれる細い線路沿いには、飲食店や、色とりどりの『ランタン』を取り揃えた露店が支え合うように立ち並んでいる。

人々の願いを乗せた『ランタン』も、この『平渓線』の線路内から大空に向けて飛ばしている。

台湾の十分(シーフェン)について調べてみた

『平溪線(へいけいせん)』を通る電車

自然に恵まれた立地でありながら、1日に何度も夕立ちが降ることも多い「十分」。

突然の雨の中でも『ランタン』を飛ばすことはできるが、『ランタン』を飛ばす前には必ず記念撮影が行われるため、レインコートなどの雨具の用意は必須である。

「十分」の空に届けたい夢と会いたい人への想い

人間の大きさほどある『ランタン』に願いを詳しく書き、無事に大空へ飛ばすことができれば全ての願いが叶うとされている。

赤色は健康運、黄色は金運、オレンジは愛情と結婚運、紫色は学業運というように、「十分」の『ランタン』は、色ごとに願いの意味合いも異なる。

ひとつの願いごとで充分であれば1色の『ランタン』を選び、複数の願いごとを託したい場合は、4色に彩られた『ランタン』を選択することができる。希望通りの『ランタン』を選択した後は、思い思いに願いを書くだけだ。

当日の混雑具合にもよるが、基本的に時間の制限は設けられていないため落ち着いて願いを書くことができる。

台湾の十分(シーフェン)について調べてみた

大空を舞うランタン

『ランタン』に込める想いは、必ずしも自分の希望や願いだけとは限らない。天国にいる会いたい人へ気持ちを綴った手紙として『ランタン』を作り上げる人もいる。

「十分」は、神が住む宮廷にいちばん近い場所ともいわれており、空へ手紙を飛ばせば、天国にいる相手に手紙が届くと考えられているからだ。

日本統治時代にも、炭鉱事業に勤めていた家族の健康と安全を確かめるために『ランタン』を飛ばしていた人々がいたように、願掛け以外の『ランタン』の役割を、現代においてもしっかり受け継でいる。

「十分」の夜空に浮かぶ平和と幸福の灯

中華圏の国々では、旧正月の終わりを告げる『元宵節(げんしょうせつ)』に邪気払いを兼ねて『ランタン』を灯す風習がある。旧正月後に初めて満月が現れる日でもあり、伝統文化を重んじる台湾では現在もこの風習を重視している。

そして毎年、『元宵節』を迎える日の夜に、平和と幸福の象徴として『平渓天燈祭(へいけいてんとうさい)』という大規模な『ランタン』イベントを開催している。不定期ではあるが、中華圏のお盆にあたる『中秋節』にも『平渓天燈祭』が開催されることもある。

夜空に浮かぶ無数のランタン

夜空に浮かぶ幻想的な『ランタン』の姿を見るために、世界中から数万人といった多くの観光客が集結する。

観覧するのみであれば誰でも自由に参加できるが、『平渓天燈祭』で実際に『ランタン』を飛ばすには、当日の午前中に配布される整理券が必要となる。イベントが開催される時期は特に、通常よりも厳しい交通規制が実施されるため、「十分」に訪れる際には台湾の文化や風習について把握しておくことが重要だ。

東南アジアの国々でも、各国に住む中華圏の人々を中心に『ランタン』を飛ばす文化は継承されてきたが、『ランタン』を飛ばす場所への配慮や取り扱う上での注意に欠け、思わぬ事故の原因となり一部の地域では禁止されている。

そのため、安全に考慮し誰もが楽しく参加できる「十分」の『ランタン』行事がより一層、世界中から注目を浴びている。

台湾の「十分」に残る貴重な伝統文化『ランタン』を飛ばす体験は、今後も多くの人々の願いや想いに寄り添いながら幸福や感動を与え続ける文化として親しまれていくだろう。

 

アバター

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. ダライ・ラマ 14世の亡命政権の活動【名言、思想】
  2. ウイグル族への迫害 「髪の毛を剃られ殴打され、謎の薬を投薬される…
  3. コナン・ドイル ~晩年は心霊主義に傾倒した名探偵の生みの親
  4. 『この世の天国』 あしかがフラワーパーク「藤の花」が想像以上に凄…
  5. イタリア中世の自治都市コムーネ・ヴェネチア共和国とは?
  6. 自分のドッペルゲンガーを目撃して亡くなった人々
  7. アメリカのシットコムドラマ「フレンズ」人気の理由 【英会話学習に…
  8. 「世界一出世した軍人」ドワイト・D・アイゼンハワー

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

AT車についての簡単な疑問 「ニュートラルって使う?」

軽自動車の爆発的な増加で、車の所有者もひとり一台が当然のようになっています。大都市圏では公共…

【スエズ・パナマ】 世界の運河について調べてみた

※パナマ運河世界の主な交通手段が船舶だった頃、人々はより早く、より安全に航行するために人…

ミステリー小説オススメ作品 「年間読書数100冊越えの筆者が選ぶ!」

皆さん、こんにちは。年間読書数100冊越えの本の虫、ライターのアオノハナです。日本国…

【家康暗殺計画】 家康の天下取りへ向けての2年間 〜後編

家康暗殺計画慶長4年(1599年)9月7日、家康は重陽の節句を祝うために、伏見城から大坂城の秀頼…

破産もしていたトランプ大統領の意外な人生

2016年12月19日、アメリカ合衆国第45代大統領が決まった。出馬表明から選挙戦全般を通し…

アーカイブ

PAGE TOP