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奈良公園の観光を影で支えていたのは「働きものの糞虫(フンチュウ)」だった

画像 : 鹿と桜 wiki cc Humanoid one

奈良市内の観光の中心地といえば、何といっても鹿が群れ遊ぶ奈良公園と、その周辺に点在する世界遺産の興福寺、東大寺、そして春日大社でしょう。

この多くの観光客を魅了する観光地を陰で支えているのが、実は糞虫(フンチュウ)なのです。

多くの人が名前を知っているフンコロガシも、この糞虫の一種です。

今回は、このことについて詳しくご紹介します。

奈良公園

奈良公園は複数の園地と山林部に分かれており、芝生の園地の総面積は47ha、山林部は464haに及びます。

この公園周辺は、万葉集にも多数読まれている古くからの景勝地として親しまれてきました。

現在は県立公園となっており、興福寺、東大寺、春日大社を含む奈良公園エリアには年間1300万人の国内外の観光客が訪れます。

ここでは、寺社以外に奈良の鹿も重要な観光資源となっています。

奈良の鹿とその餌

この奈良公園エリアには、2023年の調査では1233頭の鹿が生息しています。

この奈良の鹿は天然記念物に指定されています。

画像:若草山山頂の鹿 筆者撮影

春日大社では鹿島神社のご祭神、香取神社のご祭神、そして枚岡神社から二祭神をお迎えし、四祭神を主祭神として祀っています。

その中でも、鹿島神社のご祭神である建御雷神(タケミカヅチノオ)が白鹿に乗ってお越しになったという伝承があり、これにより奈良の鹿は神様のお供であり、神の使いとして古くから大切に守られてきました。

糞虫

画像:武甕槌太神 wiki public domain

奈良公園の鹿は、大切にされ、また観光客にも親しまれています。

この鹿たちの主な餌は、広大な奈良公園の芝生です。奈良公園の芝生が常に綺麗に刈り込まれているように見えるのは、鹿が伸びた芝生を食べ続けているからです。つまり、約1300頭の鹿が芝生の手入れをしているため、芝生を人為的に手入れする必要がほとんどありません。

この広大な奈良公園の芝生を人為的に刈り込み、手入れするとなると莫大な費用がかかるはずですが、鹿のおかげでその費用が不要になっているのです。

ちなみに、奈良公園で売られている米糠で作られた鹿せんべいを「鹿の餌だ」と思い込んでいる方もいるかもしれませんが、これは鹿にとってはおやつのようなものです。

傷ついた鹿や病気の鹿、妊娠した鹿は、一般財団法人「奈良の鹿愛護会」が設けた鹿園というエリアで保護され、そこで人間が餌を与えていますが、公園にいる鹿に餌を与えることはほとんどないのです。

鹿の糞によるハエの大量発生に悩まされることがない理由

前述したように奈良公園の芝生は、鹿が主な餌とすることで手入れが行き届いています。
しかし、考えてみると約1300頭の鹿の糞はどのように処理されているのでしょうか。

大仏殿への参道の石畳などに落ちた鹿の糞は、参道に並ぶ土産物店の方が掃除し処理されているのを見かけますが、公園の広大な芝生に散らばる糞は人の手で処理されていません。

通常、動物の糞が放置されるとハエが卵を産み付け、大量発生するのが一般的です。
もし奈良公園でハエが大量発生したら、観光地としての魅力が大きく損なわれるでしょう。しかし、奈良公園ではそのような事態は起きていません。

その理由は、奈良公園に生息する「糞虫」の存在なのです。

糞虫が鹿の糞を分解し、ハエの発生を防いでくれています。次に、この糞虫の働きについて詳しく説明します。

糞虫の働き

糞虫は、コウチュウ目コガネムシ科およびその近縁の科に属する昆虫で、主に哺乳類の糞を餌とする一群の昆虫を指します。「食糞コガネムシ」とも呼ばれ、よく知られているフンコロガシもこの一種です。

奈良公園に生息する糞虫は、鹿の糞を餌として分解し、糞を土に戻す重要な役割を担っています。具体的には、ハエが鹿の糞に卵を産み付けたとしても、卵がウジ虫になる前に糞を分解し、ウジ虫の発生を防いでくれるのです。

これによりハエの大量発生を防ぎ、糞虫は奈良公園の掃除屋として機能しています。

また、分解された糞は土に戻り、芝生の肥料となるのです。

糞虫

画像:鹿の糞と糞虫 筆者撮影

このように糞虫が仲立ちすることで、奈良公園では芝生、鹿の食糧、鹿の糞の処理と肥料化という「自然の循環」が成り立っているのです。

糞虫と「ならまち糞虫館」

奈良公園周辺の観光を支える縁の下の力持ちである糞虫を多くの人に知ってもらうために、「ならまち糞虫館」という私設博物館が設立されています。

興福寺の南側に広がる町家が建ち並ぶ、通称「ならまちエリア」に位置するこの館では、多くの糞虫の標本やさまざまな説明パネルが展示されています。

画像:ならまち糞虫館の標本展示例 筆者撮影

なら町を散策される際に立ち寄り、奈良公園の芝生、鹿、糞虫の自然サイクルについて学ばれると良いでしょう。

特に小・中学生にはお勧めの博物館です。

最後に

今回取り上げた糞虫は、畜産においてもよく知られた存在です。牧畜の盛んなオーストラリアでは、地場の糞虫だけでは糞の処理が追い付かず、他国から大量の糞虫を移入して対処したことが有名です。

また、奈良公園での鹿、芝、糞虫の自然サイクルが維持できるのは現在の1300頭の鹿が限界で、最近では公園周辺の農地が鹿に荒らされる例も増えています。

奈良公園がこれからもバランスを崩すことなく、鹿の群れ遊ぶ美しい景観を維持できることを願うばかりです。

参考 :
春日大社HP
奈良公園クイックガイドHP
ならまち糞虫館
奈良の鹿愛護会HP

 

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草の実堂編集部

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草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

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