タオ族とは
筆者が現在住んでいる台湾には、16の主要な原住民族が存在する。
これらの民族は、詳細に分けるとさらに多様なグループに分類できるが、政府の認定では16区分とされており、それぞれが独自の文化、言語、そして伝統を維持している。
台湾の原住民は、政府によって法的に保護されており、原住民族としての身分を持つ人々にはさまざまな優遇措置が設けられている。
今回は、台湾の東方に位置する離島「蘭嶼(らんしょ)」に居住するタオ族の文化について紹介したい。
地下屋
タオ族の伝統的な住居である「地下屋」は、蘭嶼(らんしょ)の気候に合わせて工夫された構造になっている。
蘭嶼は高温多湿で、台風の影響を受けやすいため、このように半地下に家屋を建てることで外気の影響を抑え、夏は涼しく、冬は暖かい環境が保たれる。
地下屋は地面から1〜2メートル掘り下げた場所に建てられ、壁は切り出した石が積み上げられ、木材の梁で支えられている。
屋根には藁に似た植物や鉄製のトタンが使用されており、台風や豪雨にも耐えられる設計となっている。特に、石積みの壁は水が浸入しても効率よく排水できる構造になっており、湿度が高く雨が多い環境にも適応しているのだ。
また、地下屋の中は上下の二層に分かれ、下層は食料の保存場所として使用されるなど、住環境も最適化されている。
現在でも、この地下屋群を見ることができるが、実際に多くの住民が暮らしているため、訪問する際は住民への配慮が必要である。
タオ族の伝統衣装
台湾の原住民族は美しい民族衣装を特徴としており、タオ族の伝統衣装もまた独自の文化を反映している。
その衣装は、海と深く結びついた生活に適した実用的なデザインで、タオ族の男性は儀式や特別な場で、ふんどしと銀兜を身に着ける。
ふんどし姿に銀兜とは、外部の人間から見るとあまりに独特だが、これが正式なスタイルだという。
銀兜は、結婚、子供の誕生、飛魚漁の開始、新しい船の完成を祝う祭りなど、重要な儀式で使用され、タオ族の男性にとって象徴的なアイテムである。
この銀兜は、頭を覆うように装着するもので、中央の四角い穴から外を覗く形状になっている。
島内では銀が採れないため、銀貨などの素材を叩いて作られ、完成後に豚や羊の血、または海水をかけて祈りを捧げることで神聖な力が宿ると信じられている。製法は、フィリピンのバタネス地方から伝わったとされている。
衣装のデザインは、群青色のストライプが入った清涼感のある柄が特徴的で、男女ともに身に着ける。
タオ族の衣装は実用性と伝統を兼ね備えたものであり、海に出やすいデザインとなっている。
髪振り回し踊り「甩頭髮舞」
タオ族の女性が踊る「甩頭髮舞(しゅあとうふぁう)」は、伝統的な歌を歌いながら髪を大きく振り回して踊るダイナミックな舞踊である。
この踊りには、海と共に生きるタオ族ならではの意味が込められている。
男性たちは命がけで漁に出て家族を支えており、自然と向き合うその生活はときに命の危険を伴う。そのため、彼らが無事に帰還したとき、女性たちは喜びと感謝を込めて、この踊りを披露するのだ。
また、台湾の山岳部の原住民にも、狩猟から戻る男性を歓迎する伝統舞踊がある。
拼板舟
タオ族の伝統的な船「拼板舟(へんばんしゅう)」は、彼らの海洋文化に欠かせない存在である。
この船には1人乗りや2人乗り、小型から大型の8人乗りまでさまざまなサイズがあり、8人乗りの拼板舟は最大で10人ほど乗ることも可能だ。
拼板舟は「板をつなぎわせて作った船」という意味があり、大型の船になるとおよそ2.5メートルに達し、27の板で作られている。
船には特別な模様が描かれており、特に「船之眼」と呼ばれるマークには重要な意味がある。
このデザインは円の中に輝く太陽を象徴し、白と黒で彩られている。船首と船尾に描かれるこの「船の目」は、航海中にタオ族を見守り、彼らの安全を導く守護の象徴とされている。
蘭嶼のタオ族は、今もこうした伝統を守り続けているのだ。
参考 : 『フォーカス台湾』『財團法人核廢料蘭嶼貯存場使用雅美』他
文 / 草の実堂編集部
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