事件史

精神疾患・発達障害は危ないのか?犯罪との関係性

時折起こる、大きなニュースとして取り上げられる殺人などの重い犯罪。

そこまでは行かずとも、法的に問題のある行為に走るケース。

これらが起きた際、犯罪を行った当事者に対して精神鑑定が行われる。

精神鑑定の結果、精神疾患があると診断されたりあるいは、精神鑑定が必要な重大事件でなくとも、発達障害を持っていたことが分かるケースも多い。

精神疾患・発達障害は危ないのか?犯罪との関係性

こういった情報が流れると、

精神疾患=犯罪に結びつきやすい危ないもの、何を考えてるか分からない
発達障害=違法行為への言い訳をしている

などといった意見が出ることがある。

実際のところは、どうなのだろうか。
今回は精神疾患や発達障害と犯罪との関係性を見ていきたい。

■精神系の問題≠犯罪傾向

まず明らかにしておかなければいけないのは、

精神疾患=犯罪に走る傾向がある

というイメージは全くの誤りという点だ。

基本的に精神疾患の当事者は健常者に比べてマイノリティである。
同様に、犯罪者の割合の中でもマイノリティになる。

つまり、犯罪に手を染めている大多数は精神疾患者ではなく、マジョリティである健常者なのだ。

酔っ払って暴力や性犯罪に走る健常者に酒を禁止したほうが、犯罪の数は減るだろうとも言われる。

例えば精神疾患の中でも知名度の高いうつ病では、引きこもりがちになり、自殺願望が高まるなど、危なげな症状を呈することが多い。

しかし、それは他者を恨んで害するというよりはむしろ、社会に迷惑をかけまいと自分を責めていくようなものになる。

精神疾患・発達障害は危ないのか?犯罪との関係性

また、基本的に精神科へ通院し「治そうとしている」患者であれば周囲も本人も自覚があり、医師の指示や投薬、精神療法などで治療をしている。

重い場合には入院、それよりも軽いが支援が必要な場合などは、福祉サービス等が連携して本人をサポートしており、そのような環境下では凶悪犯罪に走ることは考えにくい。

自力ではどうにもならない精神の不調や脳の障害と戦う当事者は、不自由さや生きづらさを解決しようと生きるのに精一杯だ。

また、犯罪等に走れば自分を支える周囲に多大な迷惑がかかり、ひいては自分の孤立・更なる生きづらさを招くと気付いているのではないだろうか。

■精神・発達障害と犯罪が結びつくとき

安直に、精神・発達障害と犯罪の可能性を結びつけることは正しい認識ではない。
割合からいえば、問題がないとされる健常者のほうが犯罪者に近いことになる。

それでは精神・発達障害と犯罪には何の関連性もないか?
それもまた正しい認識ではない。

重度の発達障害や知的障害等で、して良いこと悪いことの区別がつかないケースがある。
また、制御しがたい衝動性がトラブルを起こしてしまうことも考えられる。

いずれのケースにせよ、本人が意図的に、利己的な計算によって「やりたくてやる」訳ではない。

精神疾患では、心身のコンディションが安定しなかったり、否定的な思い込み等で考えが極度に偏ってしまうことが少なくない。

あまりにも重度な精神病、悪化しているケースの場合、幻覚や幻聴、妄想などが現れるため、自分が危害を加えられるという勘違いによって相手を害してしまうことも考えられる。

ただし、これらは適切な医師の投薬等によって治療していくことが可能だ。

最もまずいのは、何か月も精神面に不調や問題があるにも関わらず、「自分は病気じゃないから」と一人で何とかしようとする事だ。

また、家族が

精神病なんて世間様に知られたらたまったもんじゃない
お前を発達障害なんかに産んだ覚えはない

等と考え、適切な治療を受けさせないというケースも危険だ。

そのように病気を放置してしまった結果、悲劇が起きてしまったら?
周囲の人々に責任がないとはとても言えないだろう。

一人でどうにもできない問題は、適切な専門家の力を借りて解決する必要がある。
目に見えない問題だからと軽視せず、精神科医の判断を仰ぐことが強く勧められる。

■人を犯罪に駆り立てるもの

ここまで精神疾患や発達障害について触れてきたが、最後に最も重要な点がある。

それは、精神・発達障害をもった人であれ健常者とされる人であれ、日々精神に余裕がなく、人としてのあり方を否定され、必要最低限の心のケアもなく孤立し、究極のところまで追い詰められれば、同様に犯罪行為に走ってしまう可能性が高いという点だ。

ただでさえ日々健常者にはない苦しみや不自由さを感じ、偏見や無理解に晒されやすいのが疾患・障害の当事者だ。

「危ない人」「おかしい奴」「甘えるな」「苦しいのはお前だけじゃない」

このような偏見をもつことが彼らを追いつめはしないか。
生産性や効率性重視の厳しい目線で、人間らしい配慮を忘れてはいないか。

そう自問自答し、非当事者の側でリスクを無くしていく工夫も忘れてはいけない。

勿論、健常者といってもいつ精神疾患に苦しむはめになるかは分からない。身内や知り合いに、実は発達障害を持った人がいるかもしれない。

疾病・障害の有無にかかわらず、その人を理解しようとすること。問題は、医療や福祉、公的サービスに相談し、こじらせないこと。
こういった工夫をしあい、そもそも犯罪の必要性がない

そんな世界を日々実現できればと願ってやまない。

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