事件史

24の人格を持つ ビリー・ミリガン 【映画にもなった多重人格者】

多重人格で最も有名な人物はビリー・ミリガンであろう。

幾多もメディアに取り上げられ、出版された本はベストセラーになっている。

多重人格や二重人格は、ミステリーを題材とするドラマなどでもよくとりあげられるものであり、その存在を認識している人は多いだろう。

しかし同時に「多重人格は嘘である」と声をあげる者も多数存在する。

24の人格を持つ ビリー・ミリガン

ビリー・ミリガン

ビリー・ミリガン は1955年、アメリカ合衆国で生まれた。

彼はオハイオ州の強盗強姦事件で逮捕されたが、その後「多重人格である」と主張。裁判は多いに注目された。

1977年、ビリーが22歳の時である。彼はオハイオ州立大学内のキャンパスで、駐車場に車をとめている女性を狙って強姦した。合計三人の女性が被害にあい、ビリーは強姦と強盗の容疑で逮捕された。しかし彼の弁護を担当していた男は、ビリーの様子に何か違和感を感じた。

そしてビリーは「ビリーは今眠っている。俺はビリーではない」と証言し始めたのである。

驚きながらも弁護士は演技ではないかと彼の様子を伺った。しかしビリーはその後、言葉遣いや表情、癖や利き手まで異なる「明らかに別人」を感じさせる人格を計23も持ち合わせていたことがわかったのである。

通常、私たちは一つの人格であり、言葉遣いやしぐさは長年の生活で培われた物である。それゆえ、いくらベテランの女優や男優であっても、方言やしぐさなどを完璧に瞬時に変えるのは難しい。それをビリーはやってのけるのだ。

彼はビリーという基本的人格のほかに、同性愛者である女性人格アダラナや、イギリス訛りのアーサーなどがいた。弁護士の目の前に座っているのは確実にビリー・ミリガンその人であるのに、ころころと人格が変わる。年齢も性別もバラバラ。弁護士に対して攻撃的な話し方をする者もいれば、内容を理解し協力的に話をする人物もいた。

アーサー(ビリーの中の人格の一つ)は「中央に上からスポットライトがあたっていて、みんなはその周りにいる。そのスポットライトに入ると外の世界に出ていける。」と話した。アーサーはビリーの中でも中心的でリーダーのような人格で、彼の話では、「ビリーは死のうとした。それをレイゲンが止めたんだ、それ以来彼は眠っているよ」と話した。

レイゲンと話ができるか?」と弁護士が聞くと、ビリーは「少し待ってくれ」と眠ったかのように首をもたげた。その後、目をつりあげた攻撃的な口調の人物が「俺は(殺人を)やってねぇ!」と声を荒げた。さらに指をかじりながらぽつりぽつりと拙い言葉遣いをするクリスティーンという少女の人格は、失読症だった。

このように彼はくるくると人格を代え、弁護士の前に現れるのである。

ビリーの出生と人格形成

ビリー・ミリガン

幼い頃からビリーは養父から激しい虐待を受けていた。そんな辛い日々の中から、自分の中に他者を作る「ごっこ遊び」を始めた。

それは養父に反論できるような知性を備えた人物、養父に喧嘩を売れるような強い人物、か弱く守ってあげなければすぐに死んでしまいそうな人物など様々だった。ビリーの中で生まれた小さな存在は、やがてビリーの主人格よりも強くなり表象した。

ビリーは時々記憶が飛んでいた。目が覚めると移動した記憶のない場所にいたり、日数が経過したりしているのだ。

記憶が飛ぶことが仕事にも影響し、ビリーは定職にもつけなかった。

ビリーの人格たちは以下である。

主となる人格ビリー
合理主義で知能の高いアーサー
乱暴者のだが情に厚いレイゲン
煙草好きで芸術が好きなアレン
喧嘩っ早いトミー
内気な少年ダニー
泣き虫なディヴィッド
失読症の少女クリスティーン
クリスティーンの兄でコックニー訛のあるクリストファー
レズビアンの女性アダラナ

以外にも、アーサーが押さえ込むことで普段表には出したくない人格として「フィル、ケヴィン、ウォルター、エイプリル、サミュエル、マーク、スティーブ、リー、ジェイスン、ボビー、ショーン、マーティン、ティモシー」らの13人がいた。

フィルは、ビリーが人を殺してしまった時に現れていた人格であり、他の人格たちも犯罪を好む者、悪ふざけが過ぎる者、夢想家など、一癖二癖ある好ましくない人格だった。

こうして行われた裁判だったが、なんとビリーの多重人格が認められて無罪となったのである。

ビリーは精神病院に収容され、後に「教師」と呼ばれる統合人格が作られ、教師を除く23の人格は、教師を中心として融合・統合された。

10年後の1988年にビリーは退院している。

多重人格と判断する根拠

実は、明確に「AとBの人格が違う」と判断する術はない。

仮に、もしビリーのように23もの訛や癖などの人格を操れる名演者がいれば、弁護士や裁判官、医者を騙すこともできるだろう。

事実、事件から数十年経った今も「ビリーは嘘」「多重人格など存在しない」と声を上げる者は多い。

しかし、ビリーだけでなく国外、そして日本でも「二重、もしくは多重」の人格を所持しているのではないかとされる人物は存在しているという。

その多くが「突然記憶が飛ぶ」「飛んでいる間に普段の自分では考えられないようなことをしている」などを理由として精神科の門を叩いている。当然、医者にかかっていない者がいることも推測できる。

多重人格の治療

多重人格の治療は、まず全ての人格と会話することが必要であり、主人格である本人以外のサブの人格がなぜどのようにして生まれたかを聞くことが大切である。また、主人格である本人は、サブの人格があることに気づいていないことがほとんどで(記憶が飛んでいるのはわかる)サブの人格の方は主人格のことをよく知っている。

大体の場合、ビリーのように主人格を守るために形成されるのがサブ人格であり、主人格がサブがいなくても自立し生活できるようになるか、統合者・教育者と呼ばれる全てをまとめる人格を新たに作り統合させることで回復に向かうとされている。

多重人格に似ている症状では統合失調症があり、幻覚や幻聴、妄想により人が変わったように暴れ狂うことがある。

多重人格ではなくとも統合失調症も危険な症状のため、すぐに専門家のもとでの治療が必要である。

最後に

ビリーが本当に多重人格かどうかは、どこまでも主観的な問題なので判断は難しい。

そして、ビリー以外にも多重人格を持つと思われる人物は多数報告されている。

もし自分の記憶が頻繁にとび、覚えのない出来事が起こっていたら、あなたも多重人格者かもしれない。

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草の実堂編集部

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草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

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